スタート地点から飛び立つ


マサラタウン入り口でのおじいちゃんとの長々としたお別れも済ませ、私達は一番道路を北上していた。天気は快晴、風は暖かく穏やかで私とこの子達の新たな旅路を歓迎している気さえした。


隣を歩くレッドくんは日差しが眩しいのか彼のトレードマークともいえる赤を基調とする帽子を深く被り、肩にピカチュウを乗せて一定のペースを保って歩いていた。

本来ならばレッドくんは歩くのは早い部類のはずなのだが私にあわせてくれている所をみると優しいなと改めて感じる。まぁそれを本人に言えば照れ隠しともとれる馬鹿の大盤振る舞いが来そうなので黙っておくことにする。



草むらをおじいちゃんから出発する直前に旅の記念に、これぐらいしか持ってないがともらったゴールドスプレーで掻い潜り、何時までも何もないただの道をトレーナーが通るまでひたすら無言で待ち続ける少し可哀想な短パンを穿いている皆さまと目を合わせずにたわいもない話をしながら歩くこと数十分、初めの目的地であるトキワシティに到着した。

「常磐は緑、永遠の色。…着いたね!!」

「……だね。」

久しぶりにトキワを訪れた私はテンションが高かったが、普段カントーに住んでいるレッドくんにとっては別段珍しいものでもないため、私たちのテンションの差は激しかった。端から見たら可笑しな光景なのだろう。


「じゃあレッドくん、折角着いたんだからハイタッチでもしようか!」

「……別にいいけど」

意外に乗り気なレッドくんに驚きつつも右手を上げると、レッドくんも右手を上げた。少しだけ勢いをつけるとパチンという手のひらを叩いた乾いた音がよく響いた。

もういっちょおまけという具合にレッドくんはハイタッチを終えた手を軽く握りしめ、胸の前で突きだした。一瞬、何事かと思ったが、その意図を見いだしたため私も同じように右手を突きだした。

コツン、と手と手が交わる音が響く。同時に私たちから小さな笑いがこぼれた。別に恥ずかしい訳ではなかったので、昔を思い出してしまったからかもしれない。きっとレッドくんも私と同様の理由からだろう。



「じゃ、ジムに出発!」

「……パスカ、ここのジムは最後ね」

「え、なんで?」

「……どうせなら順番通りにいこうかな、と」

「ん、了解でーす」

じゃあ次はニビに向かえば良いのか、と足を進めようとするとちょっとまって、パスカ、とレッドくんに止められてしまった。どうしたのだろうと振り返りレッドくんに視点を合わせると、レッドくんはおもむろにモンスターボールを1つ取り出した。そしてそれを地へ投げ、ポケモンを中から出す。その中から出てきたのはカントー地方の御三家の炎タイプのリザードンだった。

レッドくんはリザードンを一撫でするとその大きな背中に跨がった。そしてポンポンと自分の乗っている背中の後ろを叩いた。

「……乗って」

「え?歩いて行かないの?」

そう返せばレッドくんは困ったように眉をひそめた。いったい何処に困る要素があったのだろう。この先には何があったんだっけ。

少し考えれば容易に答えが出てきた。この先には森がある。それもあの時、怪我をしたトキワの森が。多分、レッドくんはそれを心配してくれていたのだ。彼の昔から変わらぬ心遣いに笑みをもらすと、ありがたく好意を頂戴してリザードンの背に乗らせていただいた。


「…ありがとね、レッドくん」

「……パスカの為だから、気にしないで」

そういいながらも少し顔を赤らめ、顔を背けるレッドくんはきっともてるんだろうなぁと勝手に一人で想像してみる。こんなイケメンに+αがついてる子を巷のお姉さま方はほってはおかないんだろうなぁ。くそぅ、イケメンセコいぞ。お姉さま寄越せ。


「じゃあパスカ、しっかりつかまっててね」

「はーい!」


彼の腹に腕を回して落ちないように体を固定する。それから数秒後、足下には壮大な自然が広がった。




少しの緊張と恐怖と大きな希望だけが、私の胸のなかを何時までも支配していた。
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