最後の手前まで


「ふ、ぁ」

思わず溢れた欠伸を手で急いで止めると、目の前で野菜が溢れんばかりにピカチュウの形をしたパンに挟まったサンドイッチを頬張っていたレッドくんにくつくつと笑われた。なんだか悔しかったので思いきり腕を伸ばしてレッドくんのほっぺをぐいっと引っ張ると間抜けな顔になったので声をあげて笑ってやった。

「ほらほら、二人とも。遊んでばかりいないで早く食べちゃいなさい」

暫くそれを繰り返していると、キッチンの方からレッドくんのお母さんが出てきてやんわりと叱られてしまったのでレッドくんのほっぺを引っ張るのを止め、目の前に出されていたジュペッタの形をしたサンドイッチを頬張った。しゃきしゃきなレタスと新鮮なトマトがとっても美味しい。少しの幸せに頬を緩めていると、レッドくんにお返しとばかりにほっぺを引っ張られた。




数十分後、二人とも食べ終わったのでレッドくんのお母さんにお礼を言い、おじいちゃんの研究所へ向かった。理由は昨日の夜、レッドくんと話していたときにどうせ出発するなら早いほうがいいと言うことで今日出るということになったと言うことの報告と挨拶だ。研究所はまだ昨日よりも忙しくなさそうで、比較的穏やかな雰囲気に包まれていた。それでも忙しいことには変わりはないのだが。

レッドくんに右手を掴まれ、奥を目指す。やはりいつもおじいちゃんに仕事の報告をしていた部屋にはいなかったので、諦めて昨日おじいちゃんが仕事をしていた部屋に向かった。




部屋の扉を軽く二度ほどノックし、中に入るとおじいちゃんは昨日と同じようにパソコンに向かいあっていた。仕事の邪魔をしないように昨日よりは少し大きな声でおじいちゃんを呼ぶとおお、パスカか!と声だけで分かったようで私の名を呼びながらこちらを向いてくれた。

「パスカにレッド!朝からすまんのぅ」

「ううん。こっちが勝手に来ただけだしね。それより朝からご苦労様」

「……おはようございます」

レッドくんの後に若者はやはり元気がいいのぅと言ったおじいちゃんは、若者の私たちより元気がある気がする。でもあえて触れないでおくことにした。

「で、パスカよ。朝からどうしたのじゃ?」

「あ、えっとね。昨日レッドくん家でどうせ出発するなら早いほうがいいってことになって、面倒くさいから今日出発しちゃおうかって話になったの」

「ほう。それで挨拶に来たと」

「うん」

「そうかそうか!楽しんで来るがよいぞ!」

そう言ったおじいちゃんは凄く嬉しそうに笑った。あれか、私にここにいてほしくないのか。なんてひねくれた考えをしているとパスカが大人の階段をのぼるのが嬉しいんでしょ、とレッドくんに頭を小突かれた。あれれ、ちょっとだけ嬉しいぞ、これ。

「……そういえば、パスカの手持ちって誰?」

「あれ?紹介してなかったっけ?」

急な話題の変更にビックリしながらもレッドくんに問いかけるとこくんと頷かれた。それならばとおじいちゃんに許可をとり、モンスターボールを床へ落とす。赤い閃光と共に現れた私の手持ちたちを横一列に並ばせて二人に紹介する。

「えっと左からジュペッタ、シャンデラ、ユキワラシです。」

「……名前はつけないの?」

「名前は、大事なときにしか呼ばないことに決めているの」

「ほぅ、そうなのか!大層な心構えじゃ!!…そしてユキワラシは進化させないのか?」

見たところ、かなりレベルも上がっているようだが。そういわれてユキワラシを見てみるも私にはよく分からない。でもレベルが高いのならオニゴーリに進化していてもいいはずだ。それなのになぜユキワラシは進化していないのだろうか。暫し考えてみてもとんと検討がつかなかったのでおじいちゃんに逆に問いかけてみるともしかしたら進化したくないのかも、などという答えが返ってきた。…そんなことってあるんだ。

「……もしかしたら自分もゴーストタイプにないたい、とか?」

「それはあるかもしれんなぁ、レッド!」

「…そうなの?ユキワラシ」

小声で問いかけると大きく鳴いたユキワラシ。つまり仲間外れは嫌だから私もユキメノコになりたいと、ほうほう。そんな感じで意思確認等をしているといきなり後ろからおじいちゃんに声をかけられた。

「そうじゃパスカ!!今進化させてはどうだ?」

「えっ今!?」

どうしようとユキワラシを見つめるとしようと言わんばかりのきらきらのおめめで見詰められてしまったのでレッドくんに目をやると名案だと言い切られてしまった。まぁ本人(?)がやりたがっているのだから躊躇う必要はないのだが、あまりにも突然だったので驚いてしまった。

「そうと決まればめざめいしを用意せねばな!!」

「あ、それなら持ってるから大丈夫だよ」

「…じゃあ、早く」

あれ?なんで私こんなに急かされてるんだろう。そんなことを考えながらもバックの中を漁りめざめいしを取り出した。ぐっと手を握り決意を固めると、淡く光るそれをユキワラシの額にのせた。刹那、辺りは一面眩い光に包まれた。反射するように目を硬く瞑る。数秒たったあと光が収まったのでその目をあけると、そこにはユキワラシのときより何回りも大きくなり、美人になったユキメノコがいた。

「…おぉ。すごい」

思わず漏らした感嘆に少し照れ臭そうに笑うユキメノコは本当に美人さんだった。なんと綺麗な。それを思ったのは私だけでなく二人とも同じだったようで。いつの間にかボールから飛び出していたレッドくんのピカチュウもレッドくんの肩の上からぺちぺちと可愛らしい拍手をおくっていた。



「……楽しそうな旅になりそう」

「そうじゃな。…あぁ、レッド。最後のジムだけはパスカ一人でいかせるのじゃぞ」

「……分かってる。」
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