歯車がゆっくりと回る


歩き始めてものの数分で目的地である研究所の前についた。研究所は、私が前いたときと変わらない形を模しており、懐かしさを感じた。

大きく、白いその扉の前でレッドくんと並んでたつ。会ったら何を言えばいいのかな、と扉の前で悶々としているとレッドくんに軽く背中を押された。多分はやくおじいちゃんに会ってあげなと催促しているのだ。その後もおじいちゃんに向けた言葉を急いで考えてるとレッドくんは痺れを切らしたのか私の右手をとり、その行動に慌てる私をよそに研究所の扉を開けた。

「え、ちょ、レッドくん!?」

「……行くよ」

うぇ、行くってマジですか。まだ何も思いついてないんだけどなぁ。どうしよう。まぁ、にきっとこれはレッドくんなりの優しさなんだ。きっとそうだ。そうだ、エンジュへいこう。…なんだか現実逃避まがいなことを考えすぎて話が逸れた気がする。



そんなこんなで私はレッドくんに手を引かれるままに研究所の中へはいった。中の忙しさも相変わらずのようだ。昔より少し増えたと思われるお手伝いの研究員さんの合間をすいすいと去り抜け、おじいちゃんのいる部屋へ向かう。その間も、私の手はレッドくんに掴まれたままで。別にレッドくんは優しく掴んでくれているので痛いとかはないんだけど、通りかかる研究員さんがあら、青春ねえとか若いなあと口々に漏らすので少し恥ずかしかった。


どうやらおじいちゃんは奥の方で仕事をしているのか、私がいつもおじいちゃんに仕事の報告をしていた部屋にはいなかった。近くにいた研究員さんに話を聞くと、どうやらおじいちゃんは昔私が使っていた部屋の隣の隣にある部屋にいるだとか。その話を聞いて、またレッドくんとその部屋へ向かうと、そこにはパソコンに向かい、何やらうんうんと唸っているおじいちゃんの後ろ姿があった。…これは話しかけて大丈夫なのだろうか。

「…ねぇ、レッドくん」

「……大丈夫だと思う。」

二言しか発されなかった言葉から私が聞きたかった答えを短時間で導き出してくれたレッドくんは察しがいいを通り越して天才なんじゃないかと思ってしまう。あんな爆弾発言をぽろぽろ落としてしまうのに一から十わかっちゃう人種なのか。天才、怖い。いつの間にか放されていた私の手のひらを握り、よしっと自分に気合いをいれる。

「えっと…おじいちゃん」

とりあえず、仕事を邪魔しないほど、例えるならば蚊が飛ぶくらいの小さな声でおじいちゃんに問いかける。どうせ聞こえてないんだろうな、やっぱり大きな声で言わなきゃいけないかなと考えていると目の前の背中から発せられていたおじいちゃんの唸り声はピタリと音を発するのを止めた。パソコンに向かっていたおじいちゃんの広く、白衣が似合うその背中はゆっくりと地獄回りで回って行く。やがておじいちゃんの顔がこちらをむいた。その強く、優しい両目と目があう。

「…パスカ、か?」

「うん。…ただいま、おじいちゃん」

約束通り、服、見せに来たよ、と少し笑いながらいえば、大きくなったのうと腰をあげ、私の前まで来てその大きな手であたまを撫でてくれた。その手はとても温かかった。暫く撫で続けるとおじいちゃんはその手を下ろし、満足したように朗らかに微笑んだ。

「少し順番が変わってしまったが、…おかえり、パスカ」

レッドも迎えご苦労様じゃ、とおじいちゃんは続いてレッドくんの頭に手を伸ばし、あたまを撫でた。少しむっとしながらも目を細めるレッドくんはなんだか嬉しそうだった。

「で、パスカよ。これからどうするのじゃ?」

「あ、ジムでも回ろうかなぁって」

そう返せばおじいちゃんはふぅむとレッドくんの頭から手を下ろし、顎にあて考え始めた。何事かと思い隣にいたレッドくんに目を向ければ心配なんじゃないの?という意味が籠っているような視線をいただいた。

「そうじゃ!!」

「…ガス管が古い?」

「なんか懐かしいね、それ。…で、どうしたの?おじいちゃん」

「パスカはカントーの地理が分からんじゃろう?」

「いや、タウンマップあれば大丈夫だけど」

「そこでじゃ!レッドも着いていくのであれば旅に行くのを許そう!!」

えええ、許すってそういう話だったっけと思いながらもあ、ありがとうございます…?と一応返しておく。でもそれではレッドくんに迷惑がかかってしまうではないかと思い、その事をレッドくんに問いかけると、むしろバチこいだ的な返事がかえってきた。なんだか申し訳ない気分だ。

「…じゃあレッドくん。お願いします」

「……任せて」

「これでわしも安心じゃ!!ではパスカ!!出発の日に備え、今日はゆっくりと休むがよい!!」

じゃあレッド、よろしく頼んだぞ!とおじいちゃんが続けて言うと勿論と呟き、レッドくんはまた私の手を掴み部屋からでた。あれ、目的達成したんだけど。私はいったい何処に向かってるんだろう。

「ねぇレッドくん。」

「……?」

「今、何処に向かってるの?」

「……僕の家」

そう平然と答えられる彼は天才ではなくただの天然タラシのようにみえてきてしまった。そう簡単にほいほい自分の家にあげたら数多の女子どもらが勘違いしてしまうではないか!

「…で、何か理由があるの?」

「……博士が、今日は徹夜で仕上げなければいけない仕事があるからパスカのことを泊めてくれないかって」

「あぁ、そういうことか」

つまり訳すと、今日は徹夜で仕事をしなきゃいけなくて、私を十分に休めさせられないと思ったからレッドくんの家に泊められないかと提案した訳か。そうかそうか。

「なんか迷惑かけちゃってごめんね」

「ううん。大丈夫」

パスカのためならこれくらいどうってことないよ、と呟くレッドくんはやっぱり天然タラシだ。それも超のつく。まぁこれで赤くならない私はきっと一般の枠から外れかかってるんだろうな。


捕まれていた手を話してもらい、手を繋いでマサラタウンの道を歩いた。恋の力ってすげー!って叫び始めた子供たちにあとで拳骨を贈ったとかプレゼントしたとかは私とレッドくんと不特定多数の子供たちとの秘密だったりする。
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