物語の再開の一歩手前まで。







「あいかわらずでっかいなぁ…」



ホドモエシティ。そこは船の帆と渦巻く水を表す、イッシュの玄関と呼ばれる港町。ライモンよりは小さいが、いつもカノコにいる私にとっては充分大きな町だ。

歩く道はすべて舗装され、港町ならではの大きなマーケットが存在し、かつて冷凍コンテナだった敷地をホドモエジムリーダー、ヤーコンがこのホドモエを発展させるべくつくり、世界各国からポケモントレーナーが集う、今回の私の目的地、ポケモンワールドトーナメント、通称PWTという施設がある。



ひさしぶりに来たということもあり、なにか心細かったのでジュペッタを抱きながらゆっくりと歩く。笑顔が素敵なお姉さんに見送られゲートをくぐり抜けた先には目的地、PWTが。

「…ひっろ」

思わず呟いたその言葉に返答したのかジュペッタが鳴き返してくれた。なんかありがとう。癒されたわ。


とりあえずナナミお姉ちゃんを探そうと思い再び歩き始めた。潮風で揺れる旗の間を通り、様々な色に変わるモニターを見ながら建物の中に入った。





青いカーペットの上を歩き、隅々まで探す。が一向にナナミお姉ちゃんの姿は見えない。念のためもう一度探して見るがやはり見つからなかった。

一応アララギ博士に聞いてみようと思い、ライブキャスターで電話をかける。プルル、という呼び出し音が3回ほど鳴ったあと、通信は繋がった。

"ハーイ!パスカ!無事にホドモエには着けたみたいね!"

「あ、はい。そこはなんとか。」

"で、どうしたの?"

「PWTのほうを探したんですけどナナミお姉ちゃんが見つからなくって…」

"ああ!そのことね!!それならパスカが出ていったあとに連絡が入って来るのが明日になったって!!"

「…そういうのはもう少し早くいっていただけると助かります。」

"ゴメンゴメン!!ちょっと…ね?"

「まあ良いですけど…」

で、このあとカノコに戻ったほうが良いですか?と問えばそっちに泊まっちゃって大丈夫よ!と返ってきたのでお言葉に甘えることにする。私の用事は終わったのでじゃあ、と言い電話を切った。


結局無駄足だったということだ。はぁ、と小さく溜め息をつき、ポケモンセンターへ向かうことにした。

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「こちらが109号室の鍵となります」

「ありがとうございます」

無事、ポケモンセンターへ着き部屋を借りることができたのでジョーイさんから鍵を受け取り部屋を目指す。残っていた最後の部屋だったらしく危なかった。部屋の前まで着くとプレートを確認し鍵を回して中へ入った。

「さて、と…」

ポシェットからポケモンたちを出し、先程受付で買ってきたポケモンフーズを与える。がつがつと食べるこの子たちを見ているとそこまでお腹が空いていたのかと少し申し訳ない気持ちになった。

「そうだ。私、みんなに名前をつけようと思うの」

いい?と聞けば喜んでくれるジュペッタとシャンデラ、一方で話がよく分かってないユキワラシがいた。この話をしたときにはまだユキワラシは手持ちではなかったのでしょうがないとは思うが。

「で、よく聞いてね。名前っていうのは一番短い呪って聞いたことがあるの」

それでその名前にあったエネルギーがあなたたちに詰め込まれるんだって。

私はそのエネルギーを名前を呼ぶことで解放できるって考えてるの。

だから私は、これから言う意外であなたたちの名前は一度しか呼ばない。それも、一番大事な時だけ。


「みんな、分かった?」

この子たちは一斉に頷いてくれた。食べるのを止めて真面目に聞いてくれたこの子たちは本当にいいこ達だと思う。親バカ?なんのことだい?

「で、まずユキワラシ。あなたは春の星。青白く輝く氷の様な星。私の転機であり、私の小さな勇気。だから、スピカ」

どう?とそう聞けば女の子なのに力強く鳴いてくれた。悩んだ末に決めたものだったから良かったと一安心だ。

「次はシャンデラ。あなたは私の転生の象徴。あなたが燃やした魂はこの世を永遠にさまようのではなく、私のように別の世界で生まれ変われる。その輪廻転生からリンネ」

こちらは問うまでもなく、間髪入れずに返してくれた。なんか嬉しいぞこれ。

「最後はジュペッタ。あなたは…」

私の声と重なってこんこん、とドアを叩く音が聞こえた。素敵なタイミングだなぁ、と考えながらも名前を話すのを中断しどうぞ、と声をかける。すると失礼します、とジョーイさんが扉を開けた。

「すみません。相部屋をしたいとおっしゃるかたがいるのですが…」

「あ、別にいいですよ」

特に見られたくないものもありませんし、そう言えば天使の笑顔でありがとうございますと返された。他の人に断られたのかなぁと一人で思っていたり。

ジュペッタの名前は後でね、そう伝えれば少し残念そうに頷いてくれた。うん。やっぱりいいこだわ。



ジョーイさんがいなくなり少しすると再度こんこん、とドアを叩く音が聞こえた。どうぞ、と声をかけると控えめに扉が開いた。

「あの、相部屋をお願いした者ですが…」

「あ、はい。どうそ、入って下さい」

その言葉のあと、扉から現れたのは茶髪で青い目が印象的なこう…ボンッキュッボンッ的なお姉さんだった。あれ?私よりお姉さんなのか?見ただけではよく分からん。

「…ってなーんだ!普通に可愛い娘じゃない!相部屋オッケーしてくれるなんてどんなエロ親父かと思ったわ!!私、ブルーっていうの!あなたは?」

「えっパスカっていいますけど」

「そう!パスカね!!言い名前ね!ぱっと見、歳も近そうだし敬語は要らないわよ!!」

「わっ、わかった!」

うん。会ったばかりだけどもひとつだけいえる。ブルーちゃん、絶対アララギ博士タイプだ。なんかこう、グイグイくる。

でも普通にいい子っぽい。てかこんな思考がおばちゃんの人に可愛いっていってくれたんだからいい人に決まってるね!そんなことを考える私に彼女、ブルーちゃんは予約するの忘れちゃって、と少し笑いながら話してくれた。

「あ、私カントー出身で分からないこと多いから色々聞いてもいい?」

「うん!…てカントー出身なの?」

私もカントー出身なの!まあイッシュで育った時間のほうが長いんだけだね、なんて言えば私もジョウトのほうが長いんだーと返してくれた。

「ジョウトかぁ…いったことないや」

「そうなの?ジョウトには私の弟もいるの!」

写真みる?と聞かれたので写真携帯してんのかよ!?と突っ込みたくなる気持ちを抑え、みせて!と言う。そうすると彼女は少し頬を緩ませながらはいこれ、と写真をみせてくれた。

その写真に写っていたのは彼女と、彼女の隣に立つ赤い髪をした少年だった。その子、今はシルバーっていうの、とブルーちゃんが補足してくれた。今はってところが気になったが聞いてはいけない気がしたため、流す。…見事なまでに似ていない。こんな家族もいるんだなぁ。

「弟と私、似てないでしょ」

「そうだね。何かあるの?」

「うん。私たち、血が繋がってないの」

「へー、そうなんだ」

驚かないんだ、とブルーちゃんは笑った。血が繋がってなくてもお互いを思いやっていれば家族でしょ?そう言えばあなた、珍しいタイプの人ね、と再度笑ってくれた。

「…ありがとね」

「ん?どうかした?」

「ううん!なんでもないわ!」

それよりせっかく同世代ふたりなんだからガールズトークでもしましょ!!



そういって彼女は先程よりも大きく、そして綺麗な今日一番の笑顔で、笑った。
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