楽しければ、なんだって出来るよね
「うわぁ…かっちかちだ…」
扉が凍った観覧車。その前に立つ私は端から見れば異様な光景だろう。先程、試しに火炎放射に似たものを放って見たが全然溶けなかった。そりゃあそこらのポケモンじゃ溶かせない訳だ。
中に乗っているのは3人。そのうちカメラマンが1人で、他2人は芸能人のようだった。大したテレビを見ない私には分からないが。
「この観覧車って何度まで耐えられる?」
「はい!基本的にはポケモンが使う技は全て大丈夫なように構造してあります!」
「そう。」
それだけ聞ければ充分だった。それなら溶かせる方法は1つだけある。私の口角が無意識のうちに上がる。
「今日の天気は?」
「へ?快晴ですけど…」
「なら出来るよね、シャンデラ」
返事をするように一鳴。それを確認するとポシェットからいつぞや貰った炎のジュエルを取りだし、それをシャンデラに持たせる。
「誰かライターもってます?」
「あ、どうぞ!」
そこらへんにいた劇団関係者からライターを借り、シャンデラに少し火を与える。これで下準備は完璧!
「中の人たちー!!危ないかもしれないから一応扉から離れてくださーい!!」
3人は奥のほうへ移動したので多分聞こえていたのだと思う。これで準備は万端だ。
「中の人たちよりもこっちの方が危険なので下がってて下さい!」
さもなくば火傷をしない保証はありません!!そう言えば、渋々と下がるマスコミ。それを確認してから自分も後ろへ下がる。
「じゃあいきまーす!!…シャンデラ!!オーバーヒート!!」
皆の視界は、熱い炎に奪われた。
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「ほんっとうにありがとうございました!!」
「いやいや、そんな泣かなくても」
観覧車の氷は跡形もなく溶けた。そりゃ私のシャンデラのオーバーヒートだからね!ちなみに威力は最大だったりする。
で、今は先程のショーの輝かしいトリをつとめるはずだったシンオウ地方のコンテストの優勝者の女の子と対面している。どうやらあのままだと2日間は溶けなかったんだと。それで訴えられるかもといろいろ大変だったらしい。
「私、ヒカリって言います!!」
「じゃあ、ヒカリちゃん。これからもショー頑張ってね!!」
。
「はい!ありがとうございました!!」
お礼といっては何なんですが、といって彼女が差し出したのはモンスターボールだった。
「え、いいの?」
「はい!この子、今回のショーのためにシンオウから連れてきたんですけど、私になついてくれなくって…」
だからどうぞ!と多少無理矢理感があったが、折角の好意なので受け取っておく。じゃあ私、戻りますね!!と嵐のようにさっていった。彼女の足は見た目からは想像がつかないほど、とても速かった。
「さて、と…」
ベルちゃんを探しに戻ろうか。そう思ったときあの…、と後ろから声をかけられた。振り替えればそこには先程の観覧車に乗っていた芸能人と思われる二人がいた。
「さっきのシャンデラを使っていた人ですよね?」
「そうだけど。どうかした?」
まさか、さっきのオーバーヒートで火傷したんだけどどうしてくれんじゃぼけぇ的なのか!なんて聞けないのでさっきので火傷しちゃった?と聞けば大丈夫ですと返ってきた。
「先程は助けていただき、ありがとうございました!」
「それでですね、私たちお礼がしたくて!」
「お礼?そんなの大丈夫だよ」
私は君たちが無事だっただけで満足だから、ね?そう言えばそれでもしたいんです!とヒカリちゃん程のおしの強さでこられてしまった。
お礼と言われても急に言われたら思いつかなかった。別にサイン欲しいとかないし、てかこの子たちが本当に芸能人なのか定かではない。ああ、テレビみときゃよかった…。
「あ、じゃあ友達にならない?」
「…そんなことでいいんですか?」
「うん。私、あなたたちのことよく知らないし。駄目?」
「いえいえ!全然大丈夫です!!」
友達になったということで、ライブキャスターの番号を交換する。登録に名前が必要だったので問うと、テンマとルッコです、とびっくりしながら答えてくれた。私が名前を知らなかった事に驚いたということは本当に芸能人なのかもしれない。
「じゃあ私、そろそろいくね」
「はい!ありがとうございました!!」
「暇だったら電話してくださいね!!」
小さく手を振りながらベルちゃんを探しに戻る。少し進めば比較的簡単にベルちゃんを見つけることができた。
「ベルちゃん」
「あ、パスカちゃん!!ご苦労様」
じゃあ帰ろっか、と言い並んで遊園地を出る。なんだか凄いことを体験した気がする。やっぱり遊園地ってスゴい。ジェットコースターとかは乗っていないが楽しかったので良しとする。
もう空は朱に染まって、私たちを包んでいた。ベルちゃんに今日はありがとね、と言った私の顔の赤さには叶わなかったけどね。
氷のアーチは黒と白に輝いた、気がした。