*もし夢主がイッシュに行かなかったら
レッドくんとあいつは今日、ポケモンを貰うらしい。おじいちゃんはその事を嬉しそうに私に言っていた。
長年の夢であった図鑑を完成させることを、どうやら彼らに託すらしい。そこから推測されるのは、彼らが旅に出るということだった。
研究所の机の上の2つのモンスターボール。これがきっと彼らに渡すポケモンだろう。なかに入っているポケモンはおじいちゃんが用意したので分かっている。きっとピカチュウとイーブイだ。
カゲボウズを抱き締め、それらを見つめる。
"旅"
それは私にとってとても魅力的なものだった。それを無条件で与えられる彼らを私は心の隅で羨んだ。
研究所から出る。眩しいほど日差しが私の目に届く。朝日は彼らの旅立ちを称えていた。
「パスカ」
「あ、レッドくん」
今日ポケモン貰うんだって?よかったね、と言えば心なしか嬉しそうにしていた。やはり彼はポケモンが大好きみたいだ。おじいちゃんにピカぐるみを贈られたのを部屋に飾ってるのなんて私にはお見通しだったりする
「パスカはどうしてこんなところにいるの?」
「んー、どうしてだろう」
何だろう、気分?なんて曖昧に答える私にレッドくんはそう、としか返さなかった。きっと彼には本当の理由が分かったんだろう。
「じゃ、レッドくん。頑張ってきてね!」
「ありがと。パスカもちゃんと来てね」
「…分かってる。頑張るから」
またね
その言葉を放ち、私たちは互いに背を向けた。
レッドくんは研究所へ、私はこの近くにある丘へ。
その言葉に、限りない希望を込めて。
元気に叫ぶ、あいつの声が聞こえた。パートナーを貰い、顔が綻びながら歩く、レッドくんの姿が見えた。
丘から降りる。
彼らが去ったマサラは、何も変わらないで時を進み始めていた。
その中を一人で進む、私。
彼らと次に会うとき、私は強くなっているのだろうか。あいつに会っても、逃げないでいられるのだろうか。そんなことは、今の私には分からない。
だけど、星の位置が変わるように、私たちの環境が変わるように、私たちが様々な未来を選べるように、私は変わることは出来る。それが善くも悪くとも、私たちは前へ進むことしかできない。
研究所の扉を開ける。
「おじいちゃん」
私がこれからすることは、他の世界の私が選ばなかった
「どうしたんじゃ?パスカ」
1つの"未来"だと思うから
「私、」
逃げないで、諦めないで最後まで歩みたいから
旅に出ようと思うの
それはきっと、彼女たちにとって理想の未来になるはずだった物語。