小さく大きな歩み




くるくる回る観覧車。昔、ジムだったところを改装して作った屋内ジェットコースター。ピカチュウやタブンネの形をした大きなバルーン。そしてその空間に響き渡る子供たちの笑い声。それらをはじめて感じた私は思わず息を飲んだ。

こんなにみんなが楽しんでいる場所は初めて見たかもしれない。周りを見渡せば、カップルから家族連れ、まれにとても元気なおばあちゃんがいたしもした。世代を超えて愛されている遊園地。それだけで、感嘆の言葉しか出てこなかった。

「すごい…」

思わず口から零れてしまった声を手で押し込める。でも私の隣にいたベルちゃんには聞こえていたようで、ふふふと小さく笑うと本当に来るの初めてなんだねぇと言われてしまった。田舎者と言われたような気がしてすごく恥ずかしかった。まあマサラもカノコも田舎なのだが。

羞恥により赤く染まったであろう顔を隠すため俯きながら歩く。

「あ、パスカちゃん!ポケモンのショーもやるみたいだよ!」

ふっと顔を上げる。ベルちゃんが行った通り、どこかの劇団がショーをするようだった。チラシを配っていたクラウンさんから一枚貰い内容をみる。

そこにはショーの内容が書いてあり、氷がメインのショーで炎ポケモンは一切使わない、このショーで作った氷の作品は解けるまでしばらく展示をする、今日限定のショーのためここでしか見られない、などたくさんのことが書いてあった。

「ねえベルちゃん。このショー、見ない?」

「そうだね!」

無事ベルちゃんに承諾が取れたため、会場へ向かう。会場はこのショーの会場は観覧車の前の広場だっだ。

ちなみにこのショーがやっている間は観覧車が貸切になってしまうらしい。広場の周りにテレビ局のカメラマンと思われる人たちがいたので何かの企画で使うのだろうか。生放送とか?…まあ、よくわからないけど。

で、会場に来たはいいものの、来るのが遅かったためだいぶ微妙な席になってしまった。私は見れればそれでよかったので別によかったのだが、ベルちゃんは少し残念そうにしていた。

会場で席について開演をまつ。その間にもキラキラと光りながら飛び散る雪や、美しく整えられた大きなアーチは非常に美しく感じられた。

「ねえパスカちゃん。ひとつ質問してもいい?」

別に聞かれて困るような事はした覚えがなかったのでいいよ、と返す。

「パスカちゃんはそのコたちに名前って付けてる?」

「名前?…考えたことなかった。」

ジュペッタとシャンデラに名前かぁ・・・。欲しい?なんてモンスターボール越し聞いてみると肯定と取れる返事が返ってきたような気がした。これは考えなきゃならないね。

「長らくお待たせいたしました!!シンオウ特設劇団によるポケモンアイスショーの開演です!!」

ブザーの後に聞こえた声に思考を戻した。どうやら、もう始まるらしい。名前のことは頭の隅に避けておいて、ショーに集中することにした。





劇団のショーはとても見応えがあった。氷のアーチにグレイシアが上り、上からブイゼルが放った霧状の水を冷気を放ち凍らせた。その小さな氷の粒をを下で待機していたムクホークが風おこしでできた小さな渦に乗せ、回転させる。

その渦にさらにグレイシアは冷凍ビームを放ち、渦の上で回転していた氷の粒をリング型にするとムクホークはその渦を大きくした。

そのムクホークの横にポッチャマはつき、渦潮で風おこしでできた渦の氷の粒を受けとるとそれを勢いよく、観客席に向かって投げた。

それを観客席にの左右に待機していたドータクンたちがサイコキネシスで受け止め、さらに両端から力を加える。やがてパリーン、という音と共に観客席へ落ちてきた水の粒と氷の華。それは七色に光ながらゆっくりと落ちてきた。

誰が始めたかは分からない。だが、劇団には観客からの惜しみない拍手と歓声が送られた。


ほかにも氷柱にリーフィアが蔓を伸ばし花を咲かせたり、滝のように流れていた水を氷タイプのポケモンたちが総出でかため、ドーブルが絵を描く、など様々なものがあった。
どれも素敵なものばかりで、ベルちゃんはずっと目をキラキラさせて見ていた。




「次の演技が本日のショーの最後になります!!」

そんな宣言のあとにステージに出てきたのはひとりの女の子とエンペルトだった。

チラシによるとその女の子は今から3年ほど前にコンテストで優勝したらしい。逆算すると、優勝当時は10歳。…最近の子はスゴいね。




彼女たちの演技は素晴らしいものだった。見る者全てを圧倒する技は流石と言うべきだろうか、気がつけばフィナーレになっていた。

「エンペルト!!れいとうビーム!!」

エンペルトは彼女の指示に従い、観客席の左右にあった噴水に向かって冷凍ビームを放とうとした。

が、それは叶わなかった。その時、原因不明の地震が起こったのだ。彼女は慌ててエンペルトに止めるように指示を出す。だがそれは間に合わず、不安定な体勢のエンペルトが放った冷凍ビームは噴水ではなく、正面にあった観覧車のほうへ向かっていった。


嫌な予感がした。


揺れがおさまり、先程放った技はどうなったのかが気になり、観客や劇団関係者は一斉に後ろを見る。そこには扉が凍った観覧車があった。

「ねえパスカちゃん。これ、大変な事になってないかなぁ?」

「だね、中にお客さんもいるみたいだし」

貸しきりで、テレビの人たちしかあそこに行けなかった筈なのにどうして人がいるんだろうねー、と呑気に言っているとベルちゃんに怒られてしまった。

どうせ、非常用に用意していた炎ポケモンで溶かして終わりだろう。そう思っていた矢先、劇団関係者の焦った声が聞こえてきた。

耳を澄まし、その声を聞いてみると強い炎ポケモンを持っている人はいないか、と言っているようだった。

強い炎ポケモンでないといけない、つまりあのエンペルトの氷はそんじょそこらのポケモンでは溶かせない訳だ。

回りを見渡す。他の観客席の彼らが出す炎ポケモンはポカブ、ダルマッカ、ロコンなどまだ進化していないポケモンばかり。これではエンペルトの氷は溶かせない。これは諦めるしかないかもしれない。

「遊園地にそんな強いポケモン連れてきている人なんているのかな」

「んー、パスカちゃんのシャンデラぐらい強いポケモンがいれば大丈夫なのにねぇ」

あ、シャンデラがいた。


いける?と問いかければボールが揺れた。やる気は満々のようだ。ベルちゃんにちょっと行ってくるねと声をかけ、返事も聞かずに歩き出した。

サブウェイマスターを呼べだとか、急がないと時間がとか言っている劇団関係者に近づく。

「あの、私手伝います」

「それはとっても嬉しいが、この氷は強い炎ポケモンでないと溶かせないんだ。とてもお嬢ちゃんには…」

「出来ますよ」

「え?」

「信じるも信じないもあなた次第です」


ただ、この子にならそれが出来ます。


モンスターボールを掴み、彼につき出す。その自信が彼に届いたのか分かりました、と了承してくれた。

「こちらです」

そう行った劇団関係者につれられ、いつの間にかわいたマスコミがたむろう観覧車へ向かった。
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