消えない、記憶。






コンコン、と私しかいない静かな部屋にノックの音が響いた。

もう、検査の時間は終わったのでおじいちゃんかな?と思い、警戒することなくどうぞーと返事をすると病室の扉は私と同じくらいの歳の少年により開けられた。

あれ…?知らない人だったんだけど…。

「あの…どちらさまですか?」

「…マサラタウンのレッド。」

「…オーキド博士に用事ですか?」

「…違う。」

「…病室、間違えたんですか?」

「…違う。」

…用件はなんだよレッド君!!違う、だけで分かるわけないじゃない!!
私にテレパシーでも使えるようになれと?無理ですすいません。

なんて馬鹿みたいな思考は、君に興味があって来た。なんて言うレッド君の発言により現実に引き戻された。
ずいぶん爆弾発言するなぁ…

「興味って…、なんで?」

「…グリーンが、君の話をするからどんな人かなって」

「んー、ご希望にそえた?」

「うん。だいぶ」

「そっか。」

「……」

「……」

「……」

「……」

会話が続かない…。なにこれ泣けるよぉ!!

…そういえば、あいつはレッド君に私のことをどんな風に話したのだろうか。やっぱおなじみのきもちわりーやつ、かな。それとも大嫌い発言かなぁ。

…どっちでも嫌だなこれ…。

「グリーンが」

「へ?」

「グリーンが話したこと・・・、聞きたい?」

「え?…どうせあいつまじきもいとかそんなんじゃないの?」

「違う。グリーンはそんなこと、一言も話してない」

「…どういうこと?」

「グリーンはね、君のこ…」



レッド君の話は扉が勢いよくあいたことによって中断を余儀なくされた。

開いた扉の先にいた人は


「おいレッド!!お前、急にでていくからびっくりしたんだぞ!!」


紛れもなくあいつで



私は無意識にカゲボウズのボールを握り締める。

いやだ。いやだ。いやだ。

うまく呼吸ができない。

身体の震えが止まらない。



あの光景が、よみがえる。



私をけったあの顔が、

カゲボウズのボールを投げたあの顔が、

絶望に染まったあの顔が、

頭に張り付いてはがれない。



「まったくお前は…って、レッド。どうしたんだ?そいつ。」

「…グリーン。今すぐ看護士さんかジョーイさんを呼んできて」

「…は?なんなんだよ、いきなり」

「い…ゃ…」

「いいから」

「・・・ぃや…だ」

「だったらナースコールで呼べじゃいいじゃねーか」

我ながらいいアイディアじゃねーか!なんていってあいつが近づいてきた。

嫌だ。近づかないで。こっちにこないで。


「ゃだ…」

「ナースコールはっと・・・」

「こないで!!!!」

「おっお前いきなりどうしたんだよ!?」

「…」

心配したか疑問に思ったのか分からないが、あいつはこちらに手を伸ばしてきた。

ほかの人がしてもぜんぜん大丈夫なはずなのに、あいつが手を伸ばしている、たったそれだけのことで底知れない恐怖が私を襲った。

「やめてっっ!!触らないで!!」

こちらに伸びてきていた、あいつの手が空を切る。
清々しいほどパチンッと通った音は、この静かな病室に響いた。


「こないでっ!!ちかづかないで!!やめてっ!!けらないでよぉ!!あの子に触らないでよっ!!やめてっ!!私の家族をなげないでっ!!」

「!?…おまえっまさか…!!」

あいつをはらったその手で、自らの顔を覆った。
もう、あの光景を見たくない。

「…グリーン」

「……」

「今すぐジョーイさんか看護士さん呼んできて」

「…っ分かった。」



あいつが病室を出て行った。

それでも、ここまで増幅した恐怖はなかなか消えなかった。



結局、あいつが呼んできたと思われるジョーイさんと看護士さんが来たのはそれから数分たってからだった。

大丈夫、と来るまで言い続けてくれたレッド君のおかげか、来たときにはだいぶおさまっていた。
レッド君に感謝しなきゃね。





でも、呼んできた張本人のあいつが病室に来ることはなかった。


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