気がついたら大きな絵の前にいた。
"絵空事の世界"
クレオンで描かれていたその絵には、雑だが何処かでみたような、そんな何かを感じた。
思い出せるようで思い出せない。
そんなことにほんの少し苛立ちを覚えながらもその場から離れ、他のゲルテナの作品を見てまわった。
流れるように過ぎていく作品を眺めながら二階から一階へ。
自分が何を目的としてこの美術館を回っているのかは分からないが、自然に動く足に身を任せた。
…するとある1つの作品の前で足がとまった。
"精神の具現化"
やはり何処かで見たことがある。
見ていると何処か悲しいというか切ない気分になった。
どれぐらい眺めていたのだろう。
そろそろ帰らないと、なんて思い始めると1人の女の子がいた。
不思議な女の子だった。言おうとは思わなかったが、なぜかこの子に作品を見て思ったことをすらすらと話してしまった。
…こんな小さな子にいっても無駄なのに。
なんて思っていたら手のハンカチに目がとまった。話によるとこのハンカチはこの子のもののようだ。
ハンカチ、で記憶につっかかることがあった。
たしか女の子に襲われて怪我をして、その時このハンカチを…
ここまで来て思い出した。
この美術館であった全ての出来事を。
アタシとイヴとメアリーと、そしてクラリス
とで美術館を探険したこと。
メアリーが実は絵で、アタシ達を殺そうとしたこと。
そして、盗られたイヴの薔薇の代わりにクラリスが自らの薔薇を犠牲にし、イヴの薔薇を取り返したことを。
…そして、その後彼女が死んだことを。
まだ幼く無知な少女はクラリスお姉ちゃんはどこ?なんて聞いてくる。
さぁ、何処でしょうね?きっとクラリスは方向音痴だから迷子になってるんだわ。一緒に探しましょ、なんて言いイヴと一緒に美術館を回る。
イヴは終始不安そうにアタシのぼろぼろのコートの裾をつかみ、弱々しくクラリスお姉ちゃんなんて読んでみたりしていた。
…アタシ達はとある作品の前にたった。
"忘れられた肖像"
その絵には、まだ若い女性が薔薇に埋もれて眠っていた。
「クラリス」
思わずその名が出た。
隣では嘘だよね?なんて呟くイヴ。
こんな現実見たくなかった。
「ねぇ、イヴ。」
「なに、ギャリー。」
出来るだけアタシはこの子を傷つけないように、優しく語った。
「クラリスはね、迷子になっちゃってここから出てこられないんですって。
だから、これからアタシ達は毎日、って訳には行かないけど出来る限り会いに来ましょ」
これしか言えなかった。
まだ幼いイヴは、分かったなんて呟くと、
ばいばいと一声かけ家族の元に戻っていった。
またね、などと声をかけ、その絵に視線を戻す。
「また、ちゃんと会いに来るわ」
そういってアタシをその場を去ることにした。
彼女が命懸けで守ってくれた、アタシ達の命を
無駄にしないため
君が消えた世界で
(アタシはあんたのぶんまで生きるわ)