天に咲くパラプリュイの下で


ざあざあと降りそそぐ雨を傘で弾きながら足を進める。本日は非番の為仕事もないので、暇潰しに散歩をしている。本当ならばウィンディと共に歩くはずだったのだが、流石に炎タイプのポケモンを雨の日に外にだすなんて拷問な気がしたので家に置いてきた。


歩く度にぴちゃぴちゃと水が足元を踊る。やはり雨の日だからだろうか、いつもなら大勢の人たちが歩くこの街も、今日は半分ほどだ。ぽつぽつと咲く傘の花も少しだけ寂しげだを

特に目的もなくふらふらしてるだけで目的地などどこにも無い。しかしいつもの癖なのか気づけば店の方に足を進めていた。まったく、自分も仕事馬鹿になったものだ。小さい頃からの夢だといってもここまで執着することもないだろうに。気付かないうちにこの仕事が自身の一部になったのだと思うと呆れると同時に少し嬉しさがあった。どうせ来てしまったのだ、とガレットを買って帰ろうと店を覗けばそこには見知らぬ店員がいた。普通のそこら辺にいるであろう少女の様であるのになぜか真っ赤なサングラスのようなものをつけている。そんなにサングラスが好きなのだろうか。凄く浮いているようにしか見えないので何も触れずにガレットを注文した。

「ガレット2つください」

「すみません、ただ今1つしかございません…。それでもよろしいでしょうか?」

「ああ、大丈夫ですよ」

どうやら最後の一個だったらしい。まだ焼きたての時間からそんなにたっていないのに。もしかしたらあのセレナちゃんがまた100個とか、それぐらい買っていったのかもしれない。あの子は本当によく食べるなぁと勝手に結論付けている間に紙袋に包まれたガレットが渡された。ちょっと怪しげな店員さんにお金を渡し、その場を後にする。いったいどこで食べようかと考えたが、家に留守番をさせているウィンディにも申し訳ないので家まで持って帰ってから食べることにした。

帰りは行きと違う道を通ろうと、噴水広場の方をぬける。噴水広場もやはり雨のためか人が全然いない。普段に比べやはり物哀しいここであるがあまりにも人がいないためか自分しかいないのではないかという優越感が胸を掠める。中央に位置する噴水は雨にも関わらず、何時もと同じように、水の芸術としてそこに鎮座していた。晴れた日に見たらどれほど輝いていて綺麗な物かとおもったが、雨の日でも何処か特別な感じがした。その青に吸い込まれるような、そんな感じた。まあ所詮ただの違和感のようなものだ。

しばらくぼーっと噴水を眺めていたが、そろそろ帰らなければウィンディが拗るだろうと自宅に続く道を曲ろうとすれば、何やら目の端に人影が映る。ついさっきまではいなかったのに、いや私がそれだけここに突っ立っていたということだろう。進もうとしていた道に現れた人影に少し心の中で驚きながら横を抜け帰ろうとする。どうやら男の子だったようだ。最近の子は随分と大人びていてお洒落なんだなと思っていると通り過ぎる瞬間にその子は何かをぽそっと呟いた。

「…へ?」

「あ、…いや。ミアレガレットだなぁと思って」

さっきいったら売ってなかったので、つい。そう続けた男の子は少し顔を赤らめ、恥ずかしそうに話した。たしかに私のガレットが今回の分の最後だった。実質私は職場でもあるので何時でも買えるので少し申し訳ない。こんな若いポケモントレーナーであろう少年、といってもそこまで歳は離れてなさそうだが、それでもこのままなのは私の善意に欠ける。その結論に達するまでは時間はかからなかった。

「もし、よかったらだけど」

「?」

「ガレットあげようか?」

「え、いや悪いですよ」

そう言いながらもやはりガレットは好きらしく完全に否定できていない。私あそこで働いてるし、自分でもつくれるから、とダメ押しすれば、欲に負けたのか私の押しに負けたのか、…じゃあ、頂きます。と小さな声で呟く男の子。心なしかさっきより赤みが増している。やっぱり恥ずかしいらしい。思わずくすくすと笑えば笑わないでくだしゃ…!なんて言う。慌てすぎて噛んでしまったようで、赤かった顔は更に赤くなり、恥ずかしそうに俯いた。なんというか、可愛い。別にショタコンな訳じゃないが、行動が逐一可愛い。セレナちゃんもこういう一面があるのかな。

「はぁ…なんか調子狂う…………」

「あ、なんかごめんね」

「あ、いえ」

そう言って少し微笑んだ少年の顔は何処かで見たことあるのか、とても懐かしく、安心できた。へんなの。私自身にそんな記憶はないし記憶違いかもしれない。物は試しに唐突に私達、どこか出会ったことあるっけ?なんて聞けば怪訝な顔をされてしまった。たしかにこれではナンパにしかみえない。ただの興味本位だよ、なんてその話の流れを切った。

「じゃあはい、ガレットね」

相手の手にガレットを乗せてその場をさろうとするとあっお金…と少年。なかなか礼儀正しい子だな、まあこのぐらい気にしなくてもいいのに。その旨を伝えればそういうわけには…!と引き下がらない。なかなか強情なのでこんど、お店に来てくれたらそれだけで充分だよ、返す。それでも不服そうで、一体どうすればいいのだろうと頭を抱えていればはっとした顔でカバンをごそごそと漁りだした。少しの時間がたち、あった!と取り出したのは小さなガーディのストラップだった。さっき景品で貰ったんですけど流石にこういうのは付けれないので、よかったら…。と少年は言う。きっとここで受け取らなかったらまた終わりのない会話が続くのだろうと思ったのでありがとう。と受け取っておいた。ウィンディを持っている私としてはガーディも大好きなポケモンに変わりはない。それじゃあ、とその場を離れたが口角が上がるまでにそんなに時間はかからなかった。



(あー!!おとなりさんガレット持ってる!!!)

(うん。ガレット)

(さっき100個買ってきたのにもう食べきっちゃって…!)

(あげないからな)

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -