きょーどーせーかつ | ナノ

ティナとの手合せが終わり、ホームと称する森の中の野営地に戻ったスコールは、何気なく水場に行こうと歩いていた途中でティーダに捕まった。
それも、腕を掴まれる、というような生半可な捕まり方ではない。
後ろから「捕まえたあっ!」等と叫び声が上がったかと思うと同時にいきなり飛び付かれたのだ。
敵意が無かった為か、スコールは簡単にティーダに密着を許してしまい、飛び付かれた勢いに押されて、2人仲良く下草の上に転がった。
「っ何をする?!」
驚いてしまった、また、簡単に地面に転がされてしまった自分に腹を立てて、スコールは自分の背に馬乗りになったティーダを苦労して振り返り、怒鳴る。
「何してんスか!!」
すると、同じような剣幕でティーダが怒鳴ってきたもので。
スコールは思わずきょとんとしてしまい、ティーダを見上げた。
ティーダはその隙に、素早くスコールの背から身を引き…スコールがいつも着ている黒いジャケットを剥ぎ取ってしまう。
そうして、スコールが衝撃から立ち直り、抗議の声を上げる前に、あちこちを広げたり伸ばしたりして詳細に調べながら、またも怒声を上げた。
「大事にしてる割に何でこんなに手入れが雑なんスか! ああもう綻びなんか作って!!」
「…は?」
「『は?』じゃねぇよっ!」
これ! と、ティーダが怒鳴りながらジャケットを見せてきたので、スコールは勢いに押されてそれを凝視する。
多少の皺やよれ、傷は仕方がない。
艶も、手入れはしているつもりなので、目立つ程には問題無い。
だが確かに、良く見れば肩口や袖の縫い目が各所、解れて糸が飛び出している。
裾が特に酷かった。
極めつけは襟のファーで、背面中央の糸が切れて、その部分だけファーが襟から浮いている。
「ったく! 何でこんなにずぼらなんスか…!!」
ぶつくさと不平を言いながら、肩を怒らせ、立ち上がって、ジャケットを持ったまま離れていくティーダを、スコールはぽかんと見送ってしまい…。
そうして慌てて後を追った。
「…ティーダ」
「駄目」
「…」
返してくれと言う前に拒否をされ、スコールは言葉に詰まったまま、ティーダの後を追う。
ティーダは、自分の荷が置いてある大木の根元まで歩いていくと、そこにどっかと腰を落ち着け、何故持っているのか、荷から裁縫道具なんぞを引っ張り出した。
手直しする気満々である。
「いや、ティーダ…いくら合皮でも革に針は…」
「ならこのジャケット自体、どうやって作られたんスか」
「…」
ごもっとも。
スコールが言葉に詰まっている間に、ティーダは裁縫道具の中から少々太目の針と黒い糸を取り出した。
そうして大した時間も掛けずにさっさと針穴に糸を通して、その糸を2重にし、片手で末端の糸を結ぶ。
最早抵抗は無駄と悟ったスコールは、ティーダは補修をしてくれようとしているのだし、自分には裁縫など到底無理なのだからこの際甘えてしまおうと、ティーダの横に腰を下ろして立てた膝に頬杖を付き、そそくさとジャケットに針を通し始めるティーダを眺めた。
ティーダはまず、ジャケットの裾の解れた糸を、針の先を掛けて綺麗に抜くと、まだ解れていない部分の糸も少しだけ抜いて、違う針にその糸を通して裏地で留めた。
そうしてその針を仕舞うと、改めて、2重に糸を通した針を裏地に当てる。
「…器用だな…」
スコールが素直に称賛すると、ティーダは先程までの機嫌の悪さが直ったのか、くすぐったそうに笑った。
「慣れるまでは、指とか刺しまくっててさぁ」
そう言うティーダは、今ではもう慣れているのか、その手付きに危な気なところは無い。
どこからか風が吹いてきて、垂れた糸を揺らした。
木葉を通して斑になった日の光がティーダの手元に当たっていた。
これでは手元が見え辛いのではないかと思うのだが、ティーダは気にしていないらしい。
…人のことをずぼらと称する割には、ティーダだって随分とイイ神経をしている。と、スコールは思う。
…だが別に、そんなことを口に出すつもりは無く。
代わりに、何故慣れたのかと問えば、何となく気付いたら覚えていたのだと、呑気な返事が返って来た。
「ここに居たか」
そんな折。
ふと、横合いから掛かった声に顔を上げて見てみれば、クラウドがこちらへ歩み寄って来るところだった。
「ティーダ、探していた」
歩み寄って来るクラウドの身に当たる木漏れ日が、彼の移動に合わせて動く、明るい模様の様だった。
クラウドの言葉に、ティーダも手を休めて顔を上げる。
「俺をっスか? …あ」
そうして何か思い付いた様に声を上げた。
表情が、笑いを含む呆れに変わる。
何処かで、鳥が鳴いた。
「ま〜たどっか破いたっスね〜?」
クラウドはその言葉に、照れた様な、困った様な顔をして金髪を立てた頭を掻いた。
「膝を破いてしまった」
「も〜!」
口調は咎めるそれなのに、何故か嬉しそうなティーダに、スコールは呆気にとられて2人を見比べる。
「着替えて来た方が良いか?」
「平気っスよ〜」
慣れた様子のその会話に…。
「…まさかティーダ、あんた今まで皆の服の修繕をやっていたのか?」
恐る恐る、スコールは問い掛けてみる。
「まさか!」
ティーダはスコールに笑いながら答え、手元に視線を落とした。
「のばらと、セシルとさ。クラウドと一緒に行動してた時、こーゆーの出来ないのって、クラウドだけだったもんだからさ」
んでもって、クラウドの服と俺の服の造りが似てたから、クラウドが服破いたら俺が直すようになったんだ、とティーダは言う。
「でもまさか、スコールも出来ないとは知らなかったっスね〜」
見た感じ出来るかと思っていた、などと続けて言われ、スコールは恥じ入って頬に朱を昇らせる。
…仕方ないだろう、服なんて破れたら買い替えをしていたんだから…!!
なんて、言い訳がましいことは格好悪くてとても言えない。
そんなスコールの胸中を知ってか知らずか、クラウドは針を進めるティーダの横、スコールの向かいに腰を下ろしながら言った。
「まぁ確かに、俺達の文化レベルだと、服は破れたら…と言うか、流行を過ぎたら買い替えだな」
あ、そっか…と、ティーダは同意する。
「スコールくらいのとこじゃ、旅の途中で服破いても、町に着きさえすれば買い物には困らなかっただろうしなぁ…」
スコールも無言で頷いて同意した。
確かに、服屋なんて、世界のどこに行っても事欠かなかった。
スコールの世界では、果たして仲間の女性でさえ裁縫が出来たのか疑わしい。
…しかし…。
「…俺とクラウド以外は、全員出来るのか…?」
だとしたら少し落ち込みそうだ。
元々、誰かに世話になるのはあまり好きではないのだ。
しかし世話にならなければ話にならないのなら仕方がない、とは思っている。
…だが裁縫において、それが10人中2人だけ、となると…。
少し落ち込む。
いや、かなり落ち込む。
ティーダは手を休めて、考える様に虚空を見上げ、片足を立ててその膝に針を持った手の肘を付いた。
ティーダの顔の前で針がひよひよと動いていて、見ていて大変落ち着かないのだが、ティーダには慣れた仕草なのか、その針がティーダを掠めるようなことは無かった。
ティーダは言う。
「…オニオンは手付き危なっかしいっスね。一応出来てっけど」
逆に、とクラウドが続ける。
「俺は裁縫は良く解らないが…バッツは服を自作出来そうな感じがするな」
「あ〜!」
ティーダが再び体勢を戻し、裏地で糸を留めながら笑って何度も頷いた。
「そんな感じする!」
「感じというか…」
全く出来ない訳ではないが、苦手っぽい者が他に最低1人は居ると聞いて、多少立ち直ったスコールが口を開いた。
「元は、何というか…糸の原料? が採れる家畜を飼っていた様だから、服は糸から自作出来るらしい」
「マジで?!」
ティーダは叫んで、クラウドと顔を合わせた。
クラウドも感心した様子で、ティーダと目を合わせる。
スコールは続けた。
「あの文化レベルでは、俺達以外では王宮貴族でも無い限り、服は自作だろうが…俺も流石に糸からは凄いと思う」
「…毛か何かを叩いて固めるのかな」
続けて呟き、首を傾げながら、ジャケットの袖を繕い始めたティーダに、今度はスコールとクラウドが顔を合わせて若干吹き出した。
「それはフェルトだ」
「あんたの世界にもフェルトがあるのか」
「フェルトだって布じゃんか」
「あんなもので服なんか作られたら着るか?」
「絶っっ対無理!」
言い切ったティーダに、3人は互いに顔を見合せ…。
誰に聞かれて困る訳では無いだろうに、忍び笑いを洩らしたのだった。
近くで鳴いた鳥の声が、3人の忍び笑いを掬っていった。
「スコール、ファーの糸が解けたところから、枯葉とか入っちゃってっからさ、取っといてな」
ティーダからジャケットと一緒に木製のピンセットの様な物を渡され、スコールはファーの解れ目を覗き見る。
そうして、予想以上に潜りこんでいた葉や小石に渋面になり、ピンセットを持ちなおした。
ふと見ると、ティーダは針を替え、新しく糸を通そうとしているところで。
「クラウド、破れた方の膝立てて」
等と言いながら針に糸を通して、末尾で糸を結び、クラウドが立てた方の足に寄っていった。
「…甲斐甲斐しいな」
くすりと。
笑ってクラウドが言った言葉に、ティーダは軽くむくれて見せる。
「あんま変なこと言うと膝刺すっスよ!」
「ま、待てティーダ、下手な怪我より痛い気がするから止めてくれ」
その様子がおかしくて。
「やってしまえ、ティーダ」
等と、スコールは自分でも珍しいと思いながら、軽く笑いつつティーダを焚き付けていた。
「いや本気で勘弁してくれ!」
「いや〜、スコールにああ言われたら刺すしかないっしょ!」
「て、ティーダ!」
「冗談っスよ〜」
3人の笑い声に驚いたか。
いつの間にか、かなり近くに止まっていた鳥が、綺麗に鳴きながら飛び立った。
「スコール、ティーダに礼も兼ねて、これが終わったら狩りに行かないか?」
奥に詰まった小石をやっと取り除いたスコールは、クラウドのその声に顔を上げる。
暫く考え…そうして1つ、頷いた。
元より、世話になりっぱなしというのは性に合わない。
クラウドの膝の破れ目を補修し終わったティーダは、そのやり取りを見るなり諸手を上げて喜んだ。
「ぃやった!! 肉っ! に〜く!」
「お前は本当にスコールと同い年か」
「俺は認めていない」
「スコール酷ぇ!」
けらけらと笑いながら、ティーダはスコールの膝上から、ファーの裏に詰まっていた葉や小石を取り除き終わったジャケットを掬い上げた。
それを待っていた訳では無いのだが、スコールは自分の膝上が空くと同時に、「武器の調整をしてくる」と言って立ち上がる。
途端、ティーダは底抜けに上機嫌でスコールを見上げ、「どーせだから、武器の調整もここでするっスよ! その方が楽しい!」等と、ほとんど駄々の様なことを言って来た。
スコールは眉根を寄せる。
…俺は本当にティーダと同い年なのだろうか。
頭の痛い思いで額に手を当てたスコールと、そんなスコールを見上げながら「こ〜こ〜で〜!」なんぞと声を上げ続けるティーダ。
我慢出来なかったか、クラウドが吹き出した。
「…笑うな」
無理と知りつつスコールは苦情を言い、落ち着いて得物の調整を始めたところへ探しに来られるよりは益しだと、スコールはティーダの駄々に折れた。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


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