喧嘩する程なんとやら | ナノ



知的好奇心…というものは、得てして必要不可欠なものだ。
興味、と言い換えてもまぁ、良いだろう。
それまで知り得なかったことが知りたい。自分の知識にしたい、という欲求は、成長する為に重要な欲求である。
これが無ければ知識は育たない。
知識が育たなければ、それに付随する心も成長してゆかなくなる訳で。
つまり何かに知的好奇心を持つ、ということは、人として生きている限り、必然なのである。
…問題は。
その好奇心が、人に向かうものだった場合なのである。
例えばそれは、相手の髪の硬さを知りたかったり、自分が何かをした際の反応が知りたかったりする場合だ。
こちらは、知りたいという真剣な欲求を持って接しているにも関わらず、良くも悪くも悪戯と取られてしまいがちなのである。
これは大変良ろしくない。
正しく知的な好奇心であって、無目的な悪戯と取られてしまうのは、個人的には大いに心外であるのだ。
…。
まぁ、こんな大層なこと考えてはみているけれど、結局のところ、ただ知りたいだけなんですけれどね?!
森の中。ホームと称する野営地にて。
とある木の根元に腰を下ろしていたオニオンは、自分の前を通り過ぎて行こうとしたジタンの尾を、何の前触れも無く、いきなり掴んだ。
「っぎゃあっ?!」
言うまでもないことだが、ジタンは驚いて悲鳴を上げる。
「あ…感覚あるんだ」
その悲鳴に全く頓着せず、掴んだ尾に視線を落としたまま、オニオンは呟いた。
ついでに、捕まれた感覚に鳥肌でも立ったか、ぶわ、と毛が逆立ち膨らんだ尾の毛を引っ張る。
「痛っ! おまっ! ちょ、何すんだ!」
「へぇ…生身なんだね」
「当たり前だろ何だと思ってたんだよっ!」
「趣味かなって」
悪怯れずにそう言って尾を放せば、ジタンは鼻先に指を突き付けて怒鳴って来た。
「んな訳ねぇだろお前の頭のポンポンと一緒にすんな!」
「なっ…!」
言われた瞬間、かっと頭に血が上る。
「趣味とかそんな個人的な趣向と一緒にしないでくれる?! これはね! 伝説の騎士オニオンナイトがしていたとされる、由緒正しい装甲なんだよ! 頭の房だって深い意味があるんだから!! ……………多分…」
由来を直接は知らないのか。
オニオンの怒声は、最後に自信の無い呟きが付いた。
それを聞き逃すジタンではない。
「なーにが由来だよ。そのポンポンが伝説の騎士様の趣味だったらどーすんだぁ?」
オニオンも負けちゃいない。
「何さ! ジタンのそれだって言わなきゃ趣味と思う人が何人いると思ってるのさ! 言っとくけど僕だけとか思わないでよね!」
「ちょ…?!」
これにはジタンも返す言葉を失ったらしい。
自分にとって当たり前のこと――この場合、尾が生身ということ――が、他人にとって当たり前でなかった時に生まれる誤解は、兎角、恐ろしいものなのだ。
オニオンは硬直したジタンを見て、心の中で笑みを浮かべた。
ふふん。勝った!
…が。
ジタンは暫くの硬直の後、両手の指をわきわきさせたかと思うと、片手でオニオンの兜の房を、片手でオニオンの肩を掴んで揺すってきたから堪らない。
「うわ、うわわわわっ!」
「待てお前! 誰だ尻尾趣味だと思ってる奴は?!」
「ちょっと房引っ張らないでよ! 手入れにどれだけ時間が掛かると思ってんの?!」
「知るか! お前こそこのポンポンに神経入ってんじゃねぇの?!」
「はぁ?! 何言ってるのさ!」
「どうせアレだろお前、このポンポン、お前がびっくりした時とかにピンって立ったりするんだろ!」
「何言ってるの?! 何言ってるの?! そんな訳ないでしょ芝居の衣装細工の見過ぎだよ!!」
「喧しい! とにかく誰だよ尻尾趣味だと思ってるのは!」
「絶対言うもんか!」
「こンの…言わないなら…こーしてやる!」
「へっ? あ! ちょっ! は、反則! 擽るの反則あはははははっ!」
ぎゃあぎゃあ。
…何とも緊張感の無い喧嘩は、野営地の片端で続いて行く。
そんな中…。
「…和むよなぁ…」
それを遠くで眺めていたバッツは、胡坐を書いた足の膝に頬杖を付き、何とも幸せそうな顔で呟いた。
「和むなあ…」
応えたのは、隣に足を投げ出して座っていたフリオニールで。
「随分可愛いことするんだなぁ、あの2人」
と、2人のやや後ろに、膝を立てて座っていたセシルも、野営地の片端で続く喧嘩…と言うよりかは、既にじゃれあいになってきているそれを見て、表情を綻ばせた。
「7日に1度はやって欲しいな」
「おお! いいなそれ」
バッツ達とは少し離れた場所で、同じ様にじゃれあいを見ていたクラウドの言葉に、バッツがきししと笑って同意する。
そうして、胡坐をかいていた膝を、ぱんと叩いて立ち上がった。
「よっし! フリオニール、哨戒行くぜ」
「おう」
バッツの言葉に応じ、フリオニールも立ち上がる。
そうして、ちら、と遠くのじゃれあいに目をやった。
「…もう少し見ていたい気もするけどな」
なぁに。と、クラウドが応じる。
何とも微笑ましいじゃれあいに目をやって。
「…今日だけの話でもあるまい」
「ははっ。そうだな」
軽く、吹き出して。
フリオニールはそう応えた。
「んじゃ、行ってくっか!」
「気を付けてね」
「おー」
じゃれあいの当事者2人は。
自分達の行動が、そうやって歳上の戦士達の慰安になっていること等、知る由も無い。
最早何で言い争いをしているのか解らなくなっている2人の、不毛な争いはもう暫く続く…。


…後程。
哨戒から戻ったフリオニールとバッツが、お互いに掴み合ったまま寝息を立てているジタンとオニオンを目にするのは、もう少し後の話…。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


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