きょーぞん | ナノ

静かな森の中。
泉の岸。
うららかな日差し。泣きたい程の晴天に、憎らしい程元気な鳥の声。
見渡せばきらきらと腹の立つ程に美しい泉の表面に、泉の周りの木々が、柔らかい木漏れ日を作っていて…。
その木漏れ日と、木漏れ日が地面に描く光の模様が美しくて、腹を立てていた自分が何だか情けなくなった。
すぐ傍で聞こえる上機嫌な鼻歌と元気な水音が恨めしい…。
クラウドとスコールは、泉の岸にしゃがみこんだまま、お互いに同じタイミングで顔を合わせ…。
そして同じタイミングでがっくりと首を落とした。

クラウドとスコール。
彼等には…共通した、とある悩み事がある。
それは、元居た文明の高さが原因であると言ってしまえばそうなのであろう悩みだ。
仮に2人が元居た世界が、例えばティナくらいの文明の高さであれば、こんな悩みは全く持たなかっただろう。
寧ろ、誰かの手助けくらい出来たかもしれない。
…生まれ落ちた世界の文明レベルに、それも今ではほぼ覚えていない世界の文化に文句を言っても仕方がない。そんなことは解っている。
多かれ少なかれ、自分達はその文明の恩恵にあやかって暮らしてきた。
まさかこんな切れ切れの世界に放り込まれるとは、本人達も予測していなかったのだし、この世界で高い文明特有の悩みを抱えてしまったのも、まぁ仕方無いと言ってしまえば仕方ないのだろう。
…問題は…だ。
2人は今正に上機嫌で泉に手を突っ込んでいるティーダを、じっとりと横目で見た。
ティーダがやっているのは、なんのことはない、単に自分の服の洗濯だ。
しかしティーダの元居た世界の文明レベルは、話を聞いた限りでは自分達と同じくらいか、少し上。
つまり、秩序勢で文明レベルでの組み分けをすれば、同じ組に入るのだ。
…なのにティーダは何の苦も無く自分の衣服を洗っている。
クラウドとスコールは、再び視線を合わせ…。
そうして、情けない思いで手元に視線を落とした。
手元にはくしゃりと丸められた自分の衣服。
…そう。
そうなのだ。
2人共、家事、というものが全く解らなかったのだ。

「だ〜から、俺がやるって言ったじゃないっスか〜」
当然、裁縫、料理も全くの不得手。
くしゃりと丸められた自分達の衣服と未だに睨めっこを続けるクラウドとスコールに、一通り衣服を洗い終えたティーダが、胡坐をかき膝に頬杖を付いて、のほほんと声を掛けてきた。
始めにもそう声を掛けられたし、事実、2人の洗濯物は、今迄ティーダが行ってきた。
しかし、いつもやって貰ってばかりではティーダに悪いし、こんな世界では自分のことくらい自分で出来なければ、と、今回ばかりは礼を言って断ったのだ。
…出来ていないけれど。
大体、何故いつもティーダがやってくれているのか。
ティーダに言わせると、「服の原料が違うから」らしい。
確かに自分達の服は化学繊維で出来ているもので、他の者達は綿や毛なのだろう。
それは解る。
だがそれでどうして、ティーダでないと駄目なのか。
いやこちらは洗濯等出来ない身であるのだし、不満は全く無いのだが…。
試しにそれとなく訊ねてみれば…。
「皆、素材が自分達の服と違うから、扱うのが怖いって言ってたっス」
…。
…そういうことか。
と、2人はやはり肩を落とした。
…洗濯のやり方が全く解らない訳ではない。
水と石鹸を着けて洗う。
或いは、洗った石の上に水と石鹸で浸した衣服を置いて素足で踏む。
これくらいなら、今迄仲間達が行っているのを見てきたし、知っている。
しかし…だ。
知っていることと実際にやることとでは、雲泥の差があるものなのだ。
…。
意を決して、スコールが服を水に浸ける。
服が水に押し込まれると、含まれていた空気がぶくぶくと水を上がり、水面に泡を作っては弾けた。
次に服を水から引き出して見れば、普段の服からは考え付かない程に、重い。
…。
引き上げた服を目線の高さまで持ち上げて、暫く止まる。
滴る水の音。
平和な鳥の声。
…。
…。
…………。
何か泣きたい。
スコールは、傍らに置いた、バッツ作の石鹸を手に取る。
服に擦り付け、適当に擦ってみたりして――。
「意外と不器用っスね〜…」
ばしゃんっ。
スコールは勢い良く服を泉に突っ込んだ。
ぶくぶくと勢い良く泡が浮き上がっては弾けて行く。
衣服に付けた石鹸が溶けだして、水の中にふわりと白く広がった。
…不器用も何も…。
スコールは、そしてクラウドは、のほほんと構えるティーダを心底恨めしげに睨む。
そもそも、どうやれば器用で、どうやったら不器用なのか。
まずそこを明確にして頂きたい。
1時間くらいなら聞いてやる。
「やり方、教えよっか?」
「いい!」
スコールが反射で叫んだ。
その声に驚いた鳥が、騒々しい声で鳴きながら飛び去って行く。
…。
「…ティーダ、頼む。出来る気がしない」
「裏切り者!」
早々と諦めて、ティーダに丸めた衣服を寄せるクラウドに、スコールは情けない声で抗議の叫びを上げた。
寄せられた衣服を自分の方へ引き寄せて、ティーダがスコールに対し、悪戯な笑みを向ける。
スコールはぎょっとした。
ティーダは言う。
「いいなら別にいいっスよ〜。2人がこーゆーの下手な方が俺嬉しいし〜」
上機嫌なまま。
そんなティーダに、スコールはじっとりした目を向けた。
「…どういう意味だ」
「だってさー」
うろんな目をして問うスコールに、ティーダは頭の後ろで手を組んで、のほほんと答えた。
「戦闘能力じゃ勝てないし、世話になってばっかりだからさ。こういうの苦手でいて貰わないと、俺の立場ってもんがさ〜ぁ〜」
「ということは」
いち早く諦めたクラウドが、少し離れた所で、心持ちほっとした調子でティーダの後に続けた。
「俺達が出来なければ出来ない程、お前は助かる訳か」
「そっスね」
そんな2人に恨みがましい目を向けたスコール。
…絶対出来るようになってやる…!
と、胸中で絶叫して手元に視線を落とし、その後のティーダの野次を、聞こえない振りをした。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


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