彼等の | ナノ

女が元気な街や村は、良い街だと言う。
総じて、女が元気な集団は、良い集団である、と言えるだろう。
大人数であれ、小人数であれ、それは変わらない。
しかし例えば、集団の構成が男達ばかりで、女は1人だけ…という場合はどうだろうか。
しかもその女が内気である場合は。
…大抵、女は畏縮するのではないだろうか。
男もきっと、女には気を使うだろう。
…そこに溝が出来る。
その溝は、男が意図せずとも、女の心を傷つける。
当然、女は元気では居られないだろう。
女の元気が無くなれば、男はそれを気にし、更に気を使い、神経を擦る。
そして女は更に傷付き、畏縮するのだ。
悪循環。これでは、その集団は世辞にも良い集団とは言えないだろう。
誰も意図せずとも、そうなってしまうだろう。

…ではそれが、此処、切れ切れの世界を寄せ集めて創られた不思議な世界の、秩序…と名付けられた総勢10人の軍の場合は…どうだろうか。

秩序の軍には、ティナ、という名の1人の少女が居た。
秩序の軍勢は総勢で10人。少女の他は、歳の差はあれど、皆男の戦士だった。
少女は内気だった。
幻獣との混血、という特異な出生によって得た、己の力に怯え、仲間の戦士達に付き纏う死の可能性に怯える儚く優しい少女だった。
しかし少女は、仲間の戦士達に畏縮をし、彼等との間に出来た溝に傷付いたりはしていなかった。
理由は多々ある。
1つに…少女も戦士だった。
内気で気弱。それは仲間内に対してのみの話で。
周りの戦士達に自分が及ばない…という自信の無さが、彼女の性格をそうさせているだけのこと。
ひとたび戦場へ出てしまえば、彼女は立派な戦士だった。
己の持てる力で、時に仲間達を援護し、時に前線にも出る魔法戦士だった。
1つに…彼女が戦士であることを、仲間の男達も知っていた。
故に彼等は、必要以上に少女を戦闘から遠ざけようとはしなかった。
そればかりか少女に、共に前線に出るよう呼び掛けることすらあった。
少女はそれを喜んだ。
少女がそれを喜ぶことを、男達は知っていた。
無論、形ばかり呼び掛けるのではない。
前線では、少女に背を預け、少女の背を預かって戦った。
少女も戦えるのだと、男達は己に自信の持てない少女に、口で語らずにそう教えた。
1つに…男達は少女を自分達と性別で分けようとはしなかった。
水浴び等、最低限の線は引くが、それ以外は徹底的に自分達と同じに扱った。
区別をせず、食住を常に共に過ごした。
男の戦士ばかりの軍勢に、戦士であれども内気な少女。
過度に気を払い自らの背に護り続けることが、果たして少女の為だろうかと、男達は初期に、随分と長い期間にて考え、悩んだ。
そしてこう、結論を出したのだ。
否、と。
断じて否、と。
少女がいかにして自分達と共に歩めるのかを考える、ということこそ、少女の為ではないか、と。
ひいては、少女に元気であってもらう為。
つまるところは、それが、図らずとも軍の為…ということになったのだ。
彼等は互いを信じ、支え合える良い軍であった。
その中に、少女も居た。
己の居場所を仲間達の中に見い出せた少女は元気だった。
そしてそんな少女を、男達は1つの支えと見いだし、正しく愛していたのだ。

「…なぁ、ウォーリア」
「? どうした」
ある晴れた日。
野営地と決めた森の1画にて。
下草の上に仰向けに寝転がり、頭の後ろで組んだ腕を枕にしたジタンが、少々離れた場所に腰を下ろして剣に砥石を当てているウォーリアに、そう声を掛けた。
離れた場所からは、少女や皆の笑い声と、少女にちょっかいを掛けた者に対して、ムキになって追い払おうと奮闘する、少年の叫び声が聞こえて来ていた。
「ティナちゃんのことなんだけど」
「ああ」
ジタンはウォーリアを見ずに、また、ウォーリアもジタンを見ずに話を進めた。
葉の生い茂る木と木の間から見える空は、ジタンの覚えている空よりも、少しだけ薄い色をしていた。
時折目を射る木漏れ日が眩しくて、ジタンは目を細める。
しゅう、と。
濡れた砥石が金属を滑る音がした。
「オニオンに、もうちょい過保護止めるように言った方がいーんでない?」
くすり。ジタンの呼吸が笑みの音になった。
本気ではないのだ。
それが証拠に、ウォーリアはジタンの言葉を直ぐには拾わず。
しゅ、と。
砥石の音が続いていた。
風が無いのに、木々の葉から振ってくる木漏れ日がきらきらと瞬いて見えるのは、きっとジタンの身体が、呼吸に合わせて僅かばかり動いているからだろう。
ジタンは大きく息を吸い込んだ。
草の香りがした。
…砥石の音が止まり、ウォーリアは言う。
「君が彼女に悪戯に構いたがっている内は、釣り合いが取れているだろう」
「うへぇ、手厳しいこって」
皆の笑い声が聞こえた。
ジタンは笑った。
ウォーリアも僅かに笑った。
互いに相手を見ては居なかったが、笑ったことは、きちんと伝わった様子だった。
長く共に過ごすからこそ、伝わるそれ。
きっと少女が相手でも伝わるのだろう。
過ごす長さは可能な限り平等にしてきたのだ。
「それに…」
と、やや遅れて、ウォーリアは続ける。
再び。しゅう、と、砥石の音が聞こえ始めた。
「ティナはそう望んだか?」
「いんや?」
ジタンは即答した。
「ならば問題は無いだろう」
「だな」
ジタンは大きく欠伸をした。
気候は心地良く、眠気を誘う穏やかなひとときだった。
「皆器用だよなぁ」
と、大分とろんとした目で、ジタンは言った。
眠いのだろう。
「守ろうとしてるのを感付かせないようにする、とかさぁ」
「きっと誰しも、君に言われたくはないと思うが?」
「いやぁ、俺は守ったり助けたりは大っぴらにやる主義よ?」
「さて…そうだっただろうか」
「んあ?!」
ウォーリアの言葉に、ジタンは驚いて起き上がりかけ、閉じかけていた目を開けてウォーリアを見た。
ウォーリアは喉奥でくつくつと笑っていた。
…ジタンは体勢を戻す。
相変わらず、降り注ぐ木漏れ日がきらきらと綺麗だった。
ムキになっていた少年の叫び声もいつの間にか消えていて…。
皆の笑い声が、微かにこちらまで届いていた。
「…良い町は」
ふと、ウォーリアが言った。
「女性が元気なのだそうだ」
「…ああ〜、良く言うな、それ。でもマジだぜ?」
ジタンもその言葉に同意した。
ウォーリアは、ジタンには見えないだろうが頷いて、先を続ける。
「…それはつまり、この様な在り方を差すのだと私は思うのだ」
「ん?」
ウォーリアが手を休めたか。
ふと…砥石の音が止んだ。
彼は言う。
「…共に生き、共に在ること。精神的な面において、後方ではなく隣に居て欲しいと願うこと」
少女は笑う。
初期に頻繁に見られた物憂げな表情も、今では影を潜めている。
「…それを多分、女性も望んでいるのだろうと、ティナを見ていて切に思った」
少女が笑って居てくれれば、皆も笑って居られる。
皆が笑顔でいれば、少女も笑顔でいてくれる。
過度な庇護下に居ることを強要せず、共に在ろうとした結果だと思っている、と、ウォーリアは言う。
ジタンは苦笑いした。
「フェミニストな俺への当て付けか〜?」
「だからこそ君も、ティナが嫌がる庇護の仕方はしないだろう」
「…負けた」
「ふふ…何の勝負だったのか」
しゅう、と。
再び。剣に砥石を掛ける音が聞こえ始めた。
木と木の間を、鳥が飛んで行った。
ジタンはふと、笑い声のする方を見る。
旅人が何かを話していて、皆を笑わせていた。
その中に、少女も自然に混ざっていた。
その少女の、笑った表情は可愛かった。
それが、何だかとても嬉しくて。
ジタンも、自然と笑顔を浮かべていた。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


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