そんなある日の彼らの手 | ナノ


フリオニールが秩序の聖域を訪れた時、既にティナとスコールが手合せをしていた。
フリオニールは少し驚く。
珍しい組み合わせである、と思う。
そのまま足を止め、戦況を暫く眺めると、どうやらスコールが少し押され気味の様子で。
遠距離戦は苦手だからなぁ…あいつ。と、苦笑混じりに思う。
次いでに敗色の濃い彼に合掌しておいた。
観戦を続けていると、近距離での攻防の後、ティナがスコールから距離を取った。
フリオニールは、そのティナの動きを視線で追う…。
と…。
多少離れた場所で、同じように2人の手合せを眺めているセシルが視界に入った。
特に用があった訳では無いのだが、取り立ててやることも無かったものだから、フリオニールは何と無く彼の方へと歩いていった。
フリオニールが近づくと、セシルも気付いたのか、こちらへと歩いて来る。
「散歩?」
セシルがふわりと微笑み、同時に片手を軽く上げて訊いてきた。
フリオニールも同じように片手を上げ、「そんなもんだ」と苦笑して返す。
そしてふと、セシルの手を見やり、動きを止めた。
「? どうかした?」
自分の手を見つめて動かなくなったフリオニールを訝しく思ったのか、セシルは僅かに首を傾けて訊ねてくる。
「ん。あ、あぁ。いや…」
セシルの手を見つめていたフリオニールは、その声で我に返り、ばつが悪そうに頭を掻いた。
若干、頬に朱を上らせて。
「セシルの手、改めて見ると、結構大きいんだなぁ、と思ってさ」
「え、そう?」
でも…と、セシルは言った。
「フリオニールも大きな手してるよ」
言われて、「そうか?」と、自分の手に視線を落とす。
様々な武器を扱うその手は、たこやまめで硬くなっていた。指が長く、確かに大きいのかもしれない。
…フリオニールはそこまで考えた後、別の思考が瞬間的に湧いてきて、は…と身体を強ばらせた。
…ややあって首を横に振る。
「いや…違う」
と。
フリオニールは呟いた。
「フリオニール…?」
訝しがるセシルに、フリオニールは言った。
「これは…今思いついただけの話な上に、例え話なんだが…」
と、そう前置きをして。
セシルが頷くのを確認すると、フリオニールはゆっくり逆立ちをしてみせた。
そしてそのままセシルに向き直り、「ほらな」等と言う。
「…フリオニール?」
訝しがるセシルに、フリオニールは告げる。
「この手は、自分1人しか支えられない」
もう今は思いだせなくなってしまったが、以前には、なんとしても守らなければならない存在が確かにあった。
しかしこの戦いを始めてから、以前、守りたかったものの姿は側に無い、と。
たった10人の仲間は、自分が守らなければならない程弱くはない。
加えて、敵対する相手はどれも強大かつ狂暴な力を持ち、自分1人で勝てるのかどうかも疑わしい。
この現状は、正に今、逆立ちをしている状態に等しい。
自分1人では、自分を支えきることで精一杯なのだ。と。
仲間を守護し、常に前線で傷を引き受けるセシルの手程、この手は大きくない。
仲間内で最強とされるウォーリアに、ただ2人、クラウドとセシルのみが、手加減無しの場合のウォーリアに剣を当てることができる。
その戦力差。それを手の大きさに例えて。
「違う!」
言い終えたフリオニールに、間髪入れずにセシルは応えて来た。
その声色の激しさに驚く。
「違うよ、フリオニール。それは違う」
そして、彼は、天を向いたフリオニールの足裏に手を掛け、思い切り体重を掛けた。
堪らず、フリオニールは水のような液体が張った地面に、仰向けに倒れる。
倒れたまま、きょとんとセシルを見上げるフリオニールの側に膝を着いて、セシルはフリオニールを覗き込んだ。
「そんな状態なら、誰だって自分1人しか支えられない」
でも、と、彼は続ける。
「仲間を支えたい、守りたいと思うなら、その為に手や腕、ましてや戦闘能力だけしか使わない訳じゃないだろう」
それこそ全身全霊で、と、彼は言う。
「君は僕を例えに出したけれど、僕は戦闘の際、手だけに傷を負っている訳じゃないよ」
「それは…そうだが…」
それに、と彼は言う。
「誰かを護る為に手を差し出す時や、敵の攻撃の前に身を晒す時、『護りたい』と思う心も一緒に差し出している筈だ」
それともフリオニールは、物理的に手だけしか差し出していない? と問われてしまえば否定するしか無く。
だったら。と、彼は立ち上がる。
釣られて、フリオニールも立ち上がりセシルに向き直れば、間髪入れずに両手を捕まれた。
「逆立ちなんかに例えないで。心を物理で表したりしないで」
その必死な調子に、ああ、自分は彼を悲しませたのだと悟る。
「支えることができているのかなんて、支える側が決めないで。それは支えられる側が決めることだ」
必死な彼に気圧されてはいた。
だがこれは、相手の勢いに気圧され、反射で頷いてはならないことなのだと思った。
「解った」
口に出した声は擦れた。
咳払いして、もう一度告げる。
「解った。悪かったよ、セシル…」
セシルは、フリオニールの言葉に嘘がないかを見たかったのか、暫くフリオニールの目を覗き込んでいた。
が、逸らされないフリオニールの視線に、1つ、頷いて手を放した。
「君の手だって大きいよ。皆君に支えられているんだ。皆も、君を」
1つ、呟いてその場を去るセシルの背を見送る。
…これは…ある意味しくじったか? 俺…。
と。
セシルを止めようとして伸ばしきれなかったその手で頭を掻く。
その頭を、誰かの手が軽く叩いた。
驚いて振り替えると、手合せが終わったらしいスコールとティナがいて。
ティナは困った表情を、スコールは呆れた表情をしていた。
手の構えからして、恐らく、フリオニールの頭をはたいたのはスコールだろう。
馬 鹿 。と。
声には出さずに唇だけでそう告げられて。
本当に。と、フリオニールは思う。
不安を吐露した挙句、相手まで凹ませてどーすんだ、俺。
これは、アレだ。バッツで言う「やっちまった」。
フリオニールは胸中で呟き頭を掻き毟った後、額にその手を当てた。
スコールとティナが、顔を見合わせて、僅か、苦笑した。


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