試験 | ナノ


ホームと決めた森に、昼夜があることがありがたかった。
この場所の他にも、昼夜のある世界がどこかにあるのかもしれない、が、それがどこにあるのか明確でない以上、ホームを別の場所へ移すつもりは無かった。
別の場所へ、と、誰も言い出してこない以上、皆同じ気持ちだと解釈している。

ウォーリアは、皆が寝静まった夜の森で、1人、焚火の前にて見張りをしていた。

何時間経っても、時間の経過を感じられない場所の多い、この継ぎ接ぎの世界では、人の時間感覚など容易に崩れていく。
時間の感覚が無くなれば、次には本人の自覚無しに身体のリズムが乱れ、体調を容易に崩す。
…その後のカオスとの戦闘結果など、火を見るよりも明らかだ。

ウォーリアは焚火を見つめる。

今日はテントを張ることが出来なかった。
テントの用意が無いのではなく、物理的に不可能だったのだ。
昼。大挙して押し寄せてきたイミテーションの群れ。
その群れとの戦闘は、つい先程まで続いていた。
今の今まで、休むことなど出来なかったのだ。
戦闘区域からこの場所に戻ってきて…夜になっていることを知って初めて、自分達が如何に長時間の戦闘を強いられていたかを思い知った。
皆、拠点であるこの場所に帰ってくるなり、下草の上に、ある者は座り込み、またある者は倒れこんでそのまま寝入ってしまった。
予め今日の見張りを決めておいて良かったと思う。
寝入ってしまった者をそのままに、まだ幾らか動ける者で火を起こし、動ける者の中で回復の術が使える者は、仲間に掛けて回った。

そして、今。
寝返りも打たない仲間を周りに、ウォーリアは1人、焚火を眺めている。
皆疲れていた。
かく言うウォーリア自身も、酷く体が重い。
自問した。今敵が攻めて来たら…と。
自答する。戦うだけだ、と。
更に自問する。では皆は?
自答は…出来なかった。
胸に、正体の判らない焦燥が込み上げる。
その焦燥のままに、本来焚火にくべるべき樹の枝をその手に取った。
皆疲れていた。
それは判っていた。
…判っていた。
枝を宙に高く放る。
枝は勢い良く宙を舞い…ややあってその速度を落とし…一瞬だけ停止してみせると、ゆっくりと下降を始めた。
…その速度は時間と共に少しづつ増し、ウォーリアが宙に放った、その速度に達するかどうかというところで、炎の中に落ちた。

かっ!
焼けた枝が散る、甲高い音がした。
同時に、暗い空間に真っ赤に光る火花が飛ぶ。
瞬間、飛び起きた仲間がいた。
クラウドは背を預けていた樹から身を起こし、立て掛けていた大剣を手に何時でも飛び出せる体勢を取る。
セシルは身を寝かせていた体勢から、瞬時に利き手の中に剣を呼び、上半身を起こして気を鋭くする。
バッツは身を寝かせていた状態から跳ね起きて、両の手にウォーリアとクラウドの剣を呼ぶ。
フリオニールは、寝かせていた身を、上半身のみ起こし、弓に矢をあてがって音のした方を見た。
…一連の動作は、全て一瞬かつ同時だった。
4対の目に見つめられたウォーリアは、苦笑して片手を上げる。
…4人は武器を下げ、再び眠る体勢を取った。
…5人だ。と、ウォーリアは思った。
10人中、今正に敵に攻め入られて、戦えるのは、私を含めて半数なのだ、と。
「ウォーリア」
クラウドに呼ばれ、ウォーリアは彼の方へと視線を向けた。
「どうした?」
と、問われれば、ゆるく首を振って応える。
「ウォーリア」
反対側から、もう既に眠そうな声でバッツが呼んだ。
振り返れば、案の定眠そうな目で。
それでも彼はふにゃっと笑ってみせた。
「大丈夫だって」
その一言で、自分が不安だったこと…あの訳の判らない焦燥が不安という感情だったことに気付いた。
…応えを待つ彼…彼らに、ウォーリアは僅か、頷く。
彼等は、それでも嬉しそうに笑った。

「クラウド、横になったらどうだ。疲れが取れないだろう?」
「これが楽なんだ」
「どこか癒しきれてないんじゃない?」
「…眠いから明日…」
「無理だけはすんなよ〜。ウォーリアも」
「ああ。心得ている」
なんて。
暫く小声の会話が続き…。
やがて再び。
ウォーリアは1人、焚火を見つめていた。
今度は出来る限り、音の鳴ることが無いように。


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