雑学は夕食時に | ナノ



仲間内でホームと呼ぶ深い森の一角は、今は夜だった。
仲間達と焚火を囲み、豪勢とは言えない夕食を摂る。
食事は豪勢とは言えなかったが、お喋り好きな仲間が始終他愛の無い話をしていて、場は明るかった。
そんな、お喋り好きな仲間の1人、ティーダには、以前からずっと気になっていることがある。
皆は当たり前の様に過ごしているし、疑問に思う人も居ないようだったので、多分、解っていないのは自分だけなのだろう。と、ティーダは思っている。
…が、別に気にしていない。
気にしていないので、会話がふと途切れた時、大した気兼ねもせずに、隣に座っていたオニオンに訊いてみようと思いたった。
顔を向けると、オニオンは野菜を煮込んだ汁物の椀に口を付けていて。
何? と言う代わりに、目を少し見開いて見せてきた。
「オニオン。マントって何の為に着けてるんスか?」
ごぼ。
オニオンの椀が鳴った。
短く吹き出したのだろう。
零れはしなかったが、オニオンは口から椀を離すと軽く咳せた。
…やっぱり、知ってなきゃいけなかったのかも…。
ティーダはオニオンの反応を見て、少し気まずく思う…と同時に、少しむくれた。
…何もそんなあからさまに反応しなくったっていいじゃないスか…。
周りを見渡してみると、全員がティーダに注目していて。
その表情まで見る気になれなくて、ティーダはオニオンに視線を戻した。
オニオンは、呆れた表情でティーダを見やる。
「今迄戦ってきて、何で知ら――」
むすっとした表情のティーダを見ながら、オニオンの口が「あ」の形で止まる。
ややあって、オニオンは口を閉じた。そして今度は、幾分押さえた声で言う。
「…そっか。ティーダは戦闘を覚えたのってつい最近だったね…」
…そうっスけど…。と、むくれたまま答える。
「あのね」
オニオンは椀を地面に置いた。
「ティーダは、マントって武具の中の何だと思う?」
ぶ、ぐ…の、中。
自分がむくれていたことも忘れて、ティーダは答える。
「…武器じゃないから…防具だと思ってたんスけど…」
オニオンは頷いた。
「でもマントって布だからね。攻撃をマントで受けても防げないよね」
「そうっスよ。俺が気になってたのもそこでさぁ」
「あはは」
オニオンは笑った。
そして答える。
「マントはね、攻撃を受ける為の防具じゃなくて、流す為の防具なんだよ」
「流…す?」
ティーダにはピンと来ない。
が、しかし、オニオンは気を悪くした風もなく、話してくれた。
元来、こういった説明は好きらしい。
「流すっていうのは、攻撃に対して、横から力を加えてその軌道を逸らす事。剣同士のやり合いだと、相手の剣腹に向かいから平行に剣を当てて、攻撃を横に逸らす事だよ」
「あ! 俺それよくスコールにやられる!」
言ってスコールを見れば、彼は椀を傾けたまま、僅かに片眉を上げた。
「スコールは両手剣だから、剣を剣で流すけれど」
聞こえたオニオンの声に、再びオニオンをみる。
オニオンは小麦粉を練って薄く焼いたものに、先程の汁物を漬けて齧っていた。
「片手剣の人は、盾を使う人でない限り、パリィダガーを使って剣を流してるよ」
バッツとか、セシルとか、僕もさ、剣で戦うのにダガー持ってるでしょ? と言われれば、確かに! と、何度も頷いた。
「あ、でも」
と、ティーダは言う。
「俺、バッツやセシルとは手合わせ…てか稽古? を何回もしてるけど、ぱりいだがー? を使われたことないっスよ?」
「…う〜ん…。気を悪くしないで欲しいんだけれど…」
オニオンは、気まずそうにティーダから視線を外した。
「…多分、2人共、ティーダにはパリィ使わないんじゃないかな…」
使うまでもない、と言外に言われたことを気にするより、オニオンの「パリィ」という、言い慣れた感じのする略し方がかっけぇ! とか思ってしまう。
「じゃあさ、じゃあさ!」
戦えはするが、仲間内では、戦闘慣れしているとは言いがたい自分にとっては、慣れた調子のオニオンが格好良く思える。
年下に教わるなんて格好悪いとかもうそんなんどーでもいい。
「クラウドの場合は? 2人共クラウドの場合もぱりぃ使ってないっスよね!」
言い慣れない略語を使いたくて仕方がない。
発音が若干おかしくなるけど気にしない。
「クラウドの場合はさ」
そんな調子のティーダを面白そうに眺めながら、オニオンは言った。
「逆に、あんな大剣をパリィで受けたら大怪我しちゃうよ。パリィダガー使うのは、大きくてもスコールとかティーダの剣くらいじゃないかな」
そこでオニオンは焼いた肉を一口齧った。
咀嚼しながら言う。
「ティーダはさ、バッツやセシルがウォーリアと手合わせするところ、見たことある?」
ティーダが首を横に降ると同時に、クラウドから「行儀が悪い」と、笑いを含んだ注意をされて、オニオンは首を竦めた。
飲み下してから、言う。
「面白いから見てみるといいよ。2人共パリィ離さないから」
普通は攻撃を流したら直ぐに鞘にしまっちゃうものなのに。と、可笑しそうに言えば、バッツからは爆笑しながら「ウォーリア相手にパリィ鞘にしまうとか死ねる」と、セシルからは苦笑を含んで「だって鞘に収める隙もないんだもの」と返ってきた。
当のウォーリアはといえば。
喉奥でくつくつ笑いながら、「話が逸れている」と、静かな声をオニオンに向けた。
あ。いけない。と、オニオンは首を竦める。
最後に、「ティナもパリィ持ってるけど使い慣れてないみたいだし、ティーダもフラタニティ? は、片手剣だよね? 自分に合うパリィ買って、2人共誰かに使い方教わるといいよ」と言った。
焼いた肉を一口。
釣られて、ティーダも肉を齧る。
ティーダが飲み下すのを待って、オニオンが言った。
「で、マントだけど」
ティーダは頷き、ちらりと皆を見る。
皆食事をしながら、この会話を面白そうに聞いていた。
…いいな、こういうの。わくわくする!
「マントはさ、細剣を流したりもするけれど、主に飛び道具用の防具なんだ」
投てき用の槍やダガー、矢なんかを絡め取る防具なんだよ、と。
オニオンが言えば、ジタンが笑いながら、
「俺が使ってるダガーさぁ、結構でかいってのに、手合わせの時ウォーリアに投げつけたら、マントで叩き落とされて丸腰にされてさ。あれはショックだったぜ」
と、わざと大袈裟に拗ねて言ったので、皆笑った。
「あと、身体の面積がどうしたって広く見えるから、敵が攻撃を外し易くなったりね。短いマントもあって、飛び道具の防御より魔法防御に重点を置いてる感じ。僕とか、バッツもかな。アクセサリー以外で、魔法防御付けたい場合、マントが一番効率がいいから」
なんにせよ、使えるならティーダも着けること考えてみるといいよ。使い方は難しいけれど、慣れると大体の飛び道具を叩き落とせるし、パリィは食事の準備とかにも使えるから便利だよ。と締めて、オニオンは汁物を流し込んだ。
「へぇ、そうなんだ」「そうだったのか」
ぶばぁっ。
重なって聞こえた、ティーダのものではない驚嘆の呟きに、そこかしこで吹き出す音がした。
ティーダは、目に涙を溜めて咳き込むオニオンの背中を叩きながら周りを見渡す。
クラウドが軽く咳せながら、同じく咳せているジタンに水を渡していた。
盛大に咳き込むバッツとセシルの背中を、慌てた様子のティナがさすっている。
ウォーリアは水を飲んでいた…ということはやはり若干咳せたのだろう。
ティーダは先程驚嘆の声を上げた2人を見た。
スコールは、バツが悪そうに練って焼いた小麦を齧っていたが、フリオニールはきょとんとしていた。
咳せた状態からいち早く立ち直ったオニオンが、涙目のまま怒鳴る。
「ティーダが知らないのは分かるよ?! 何で君達が知らないのさ!!」
言われて、スコールがぼそりと答えた。
「いや…俺の世界にはそんなものは無かったから…というか、クラウド、あんたと俺の世界は似ていると前に話したな。ということは、あんたの世界にもないんじゃないのか。何故知ってる」
軽く咳をしていたクラウドは、ちらりとスコールに視線を向ける。
「兵士育成過程の知識カリキュラムで学んだ。それに仲間内にガンナーがいて、そいつが長い外套を着ていてな。それで何度か、敵の飛び道具から庇われたことがあるから知ってたんだ」
お前だって兵士としての養成を受けていただろう。何故知らない。と言われてしまえば返す言葉がないらしく、ぐっと言葉に詰まって押し黙った。
傭兵としてのプライドが、彼に戦闘に関する質問をすることを許さなかったのだろう。
普段冷静沈着な彼が、こうして時折見せる、同い年っぽさをティーダは気に入っている。
そんなスコールに、クラウドは更に追い打ちを掛けてきた。
「それに、あんたも仲間内にガンナーが居ると言っていただろう。装備の話くらいしなかったのか?」
その言葉に、スコールが勢い良く顔を上げる。
「あいつはっ! あいつが着てたのはマントじゃなくて長い外套だった! それに何でそんな長いもの着てるのか聞いたら、洒落てるだけだって言って――」
そこまで言って、スコールは、はたと言葉を切って、手で口を塞いだ。
オニオンが情けない表情で首を傾げる。
「…信じちゃったんだ?」
途端、真っ赤になるスコールと、どっと沸き起こる好意的な笑い声。
ティーダも思わず笑ってしまっていた。
そんな中、若干むくれた風のオニオンがフリオニールを見る。
「…で。何でフリオニールは知らないのさ」
一番マントに絡め取られやすい武器を沢山持ってて、しかもマント着けてるのにさ、と、オニオンが問う。
フリオニールは、今更気まずく感じたのか、オニオンから視線を外して頬を掻いた。
「いや…元の世界で、仲間の反乱軍は、皆マント着けてたから、戦士ってそういうものなんだなって――」
「そんな訳ないだろっ!」
これには流石に、オニオンは顔を真っ赤にして立ち上がった。
フリオニールを指差して叫ぶ。
「じゃあ何?! 今まで服装的な意味以外の理由ではマント着けてなかったってこと?!」
「…っし、仕方ないだろ知らなかったんだから! それに周りに聞ける状態でもなかったんだ!」
「仕方ないで済まされる期間はとっくに過ぎてるよっ! 何年戦士やってるのさ!」
「年数で区別するなよ! 俺は戦闘を教えられる環境に居た訳じゃないっ。必要に迫られて戦闘をするようになったんだから!」
「同じだよ! そもそも疑問にも思わなかった訳だ?!」
「今までそれで不自由した覚えはないっ!」
「胸張って言い切るなぁっ! 戦士だったら――」
「俺は元々狩人だあぁっ!!」
言い争う2人に。
ティーダをはじめ、快活な仲間達…要するにティーダとジタン、バッツは地面を転げ回って爆笑していたし、他の仲間も笑いを抑えようとして完全に失敗していた。
オニオンは諦めたように座り直し、練って焼いた小麦を齧った。
「…もう…知っててよぉ…」
情けない声で呟いたオニオンに、真っ赤になったフリオニールが、「努力はする」と、ぼそぼそと答え、ティナが笑いながらオニオンの頭を撫でた。
「今度パリィダガーの使い方教えてね?」
完全に宥める口調のティナに、側に居たティーダはまた笑いが込み上げてくる。
「楽しいっスね〜!」
「楽しくないっ!」
オニオンが噛み付けば、今度は先程笑いを堪えようとしていた仲間達まで吹き出した。


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