拒絶色は効かない | ナノ


共に旅をし、暮らし、協力し合い、同じ目的に向かう仲間の内でも、どんなに共に居る日数を重ねたところで性格や好みの問題により、近しい人とそうでない人というものが必ず出てくる。
嫌い、という訳ではなく、苦手、という訳でもない。
ただ単に、近しい人よりも距離が遠い、という、ただそれだけの話なのだが。
そういった意味で、スコールにとって最も距離がある人は、調和の戦士達を率いて先頭に立つ、ウォーリア・オブ・ライトその人だった。
鮮烈な、青と白の光のイメージに、鎧下衣の重厚な黒。近寄り難い。
それは歳の近しい仲間の反応を見る限り、スコールに限った話でもないらしい。
それはそれで、良くは無いが、別に…と、最初は思っていた。
スコールは秩序の聖域で1人、ガンブレードを前方に構えたまま目を閉じる。
スコールが次に距離を感じているのが、仲間内ではとっつき易いと表されるセシルだ。
青の混じる白姿の場合でも何と無く気が引けるが、特に黒姿の場合に顕著で。
…青も白も黒も、他を拒絶する色。
そう、誰かから聞いた覚えがある。
…うるさい。いちいちそんなことを気にしていては服も選べない。
スコールとしては、別に、だから好んで着ていた訳でもない、常時黒のジャケットに黒のパンツ、インナーとファーの白。
構わないだろう、と思っていた。
今までは。
今、服を。
変えようかと思ってしまっている自分が気に入らない。
スコールは目を開け、ガンブレードの素振りを始めながら内心で呟く。
黒や白だと、組み合わせをいちいち考えなくて済むから楽なんだ。
服になんてそんなに気を使っていられない。
どうせ消耗品だ。
見辛い格好でなければそれでいいだろう。
…いや。確かに外見で見栄を張りたい気は無いでもない。
だがそれは着こなしや服のデザインの問題であって、色じゃないだろう。
…本当にそうか?
色の問題でないなら、あいつらに気が引ける理由なんて無いだろう。性格が悪い訳でもなし。
性格で言うならバッツの方に自分から距離を置くだろう、俺なら。
逆にウォーリアとは距離が近くなる筈だ。今までの俺なら。
だがバッツとはジタンと共に10人中最も距離が近く、ウォーリアとは最も距離が遠く、性格が合わない訳でもないセシルとはやはり距離が遠い。
…何だ、これは。
スコールは苛立つ。
自分が変わったのかもしれないと思う、だと? 自分を変えようと、少しでも考える、だと?
冗談じゃない。影響されるなんて冗談じゃない。
ましてや他から言われた訳でもなく、自分で勝手に思い込んで自分から行動に移す、等。
苛立ちをそのままに、スコールはガンブレードを逆手に持ち変え、右下段から振り返りざま左上段に振り上げた。
ぎんっ!
振り上げた刃先が長剣の峰で止められて。
驚いて目を見開いた。
ガンブレードの幅のある刃身を受け止めていたのは、スコールが最も距離を感じているその人。
ウォーリア。
初めの頃は全く無表情かと思っていたその人も、今では大分表情が読めるくらいには慣れていて。
僅かに笑みを浮かべている…のだと思う、その人が言う。
「良く気付いた」
…逆だ。全く気付かなかった。
「…と思ったのだが、違う様だな」
…なら、最初から何も言わないでくれ。
スコールは水面下の地を蹴って間合いを取り、ウォーリアと向かい合う形でガンブレードを構えた。
…実力差は理解しているつもりだ。自分だって馬鹿ではない。
だが同じくらいの実力の者と打ち合うより、実力差が開いた相手と打ち合うことでしか得られないものだってあるだろう。
何より、この苛立たしい思考が振り払えるならば今はそれで良い。
スコールは肉食の獣に似た笑みを浮かべてガンブレードを横中段に構え、ウォーリアに切り掛かった。
盾で止められた。そのまま弾き返され、上段から長剣が振り下ろされる。
…と思ったら、上段からの攻撃に気を取られて無意識にがら空きだった腹に、ウォーリアの蹴り上げた片膝が突き刺さった。
明らかに手加減をされたと解るその打撃に、しかしそれでも弾き飛ばされる己が腹立たしい。
…青と黒と白の人。最も距離の遠い人。
水を跳ね上げながら蹴り飛ばされた勢いを足裏と地に突き立てたガンブレードで殺し、勢いよく顔を上げてウォーリアを見据える。
追撃を掛けてくるでもなく、ウォーリアはそこに居て、スコールの2撃目を待っていた。
青と黒と白。やはり色なのか…?
と、スコールは思う。
色と…性格もあるのでは?
…性格。
スコールはガンブレードを構え直す。
…確かに俺は…あまり人に構われたくないように振る舞ってきた。
だって面倒臭いんだ。
しがらみだの、確執だの。
…必ずやってくる別れ、だの。
そんなことを思いながら、やはりガンブレードを横中段に構えてウォーリアに向かい、走りだす。
…ここではそんなことを考えている奴なんて居ない、だなんて、そんなことは解ってる。
解ってるんだ。
バッツもジタンも、俺に対して、俺がどう思うか、どう思っているか、なんて関係無く接してくる。
奴らだけじゃない。
他の奴らだって…。
走る途中、ガンブレードを中段から上段に構え直した。
…だったら…と、スコールは考える。
別に気にする必要は無いだろう!
黒だの! 白だの!
ましてや性格だなんて!
変えなくたっていいだろう!
何なんだ、これは!
走り寄ったその勢いをそのままに、スコールは上段からウォーリアにガンブレードを振り下ろした。
ふわり、と。
躱された。
振り下ろしたガンブレードの勢いや重さ、今まで走っていたその勢いが向かう場所を失い、一瞬身体が宙に浮く。
その刹那。
スコールは、自分の横に身を躱したウォーリアの、攻撃意志のある視線が自らの首筋に突き刺さる様子が見えた気がした。
重く鋭い剣の切っ先が首筋に突き刺さって血が吹き出す錯覚。
濃厚な殺気。
ウォーリアが自分に向けて、剣を振り上げる気配がした。
…間に…合うか?!
スコールは多少無理な体勢で、無理矢理地に足を付け、ウォーリアの一撃を払おうと、ガンブレードを凪ぎながら振り返り…。
…。
ウォーリアは既にそこには居なかった。
少々離れた場所に、天辺に三日月形のシンボルが着いた柱に向かうその人の背中を見付けて。
スコールは体勢を直し、呆然とそれを見ていた。
ウォーリアは柱に着くと、スコールに対して横向きで柱に寄りかかった。
マントをたくし上げて、長剣の峰をマントで磨き始める。
「…気が散っている様だな」
言われて、叱る口調でもなかったのだが、自然、身体が強ばった。
と同時に、打ち合いでも、苛立たしい思考を逸らせなかったことに気が付いて唖然とする。
ウォーリアは、そんなスコールに目を向けないまま、呟くように言ってきた。
「何をそんなに苛立つ?」
ぴくり。スコールの肩が跳ねた。
「良ければ話してくれないか」
まただ…。と、スコールは思った。
気分的には一番遠いのに、何故か俺はこの人の世話になることが多い。
噛んだ唇の端の痛みに、暫くスコールは黙り込んでいた。
「…俺は…」
ややあって、呟く。
「…何にも影響等されない」
「ならば何故そう考える?」
間髪入れずに返答が返ってきた。
初め、何故自分が影響されないのか、と、問われているのかと思った。
だがその直後、影響されないのであれば、そもそもそんな風には考えないのだ、と言われたのだと理解した。
理解…してしまった。
頭に血が昇る。
「…黙れ」
「スコール」
「黙れ!」
ガンブレードを。
下段に構えてウォーリアに詰め寄った。
水面をなぞるように切り上げる。
ウォーリアは…避けない。
体勢も、剣を磨く動作も変えず…。
視線すら手元の剣に落としたままだった。
「っ!!」
ガンブレードが空中で止まる。
無理に勢いを殺した為か、腕の筋が軋む音がした。
自分に向けられた刃先に、ウォーリアは無反応だった。
ややあって、言う。
「スコール」
スコールは返事が出来なかった。
「1つ。問おう。私は君の敵か?」
ガンブレードを宙に留めたままの腕が震えた。
ウォーリアが手を止め…つい…と、顔を、視線をスコールに向けた。
鮮烈な青と白。光のイメージに、重厚な黒。
例えるなら、壁。
決して越えられない。
…しかし、壁の向こうから向かってくる破壊の意志は決して壁を越えてこちらに来ることは無い。
「私は君の敵か?」
スコールは剣を引いた。
知らず、足が一歩、下がる。
「…いや」
呟くように答えていた。
ウォーリアはスコールの返答を聞き、スコールから視線を外す。
「ならば良い」
私が本気で君の首に剣を振り下ろすのではないかと、君に疑われていた様子だったのでな、と。
言われて漸く、この人がそんなことをする筈がないことに気付く。
もう一歩。下がった。
「俺は…」
言い掛けた言葉を、頭を振って飲み込む。
…認めよう。俺は多分、他人を拒絶したかった。
俺がそうだから、他人もそうだと思っていた。
ああ、そうだ。そうだとも。
だから何だ。それがどうした。
「…青も黒も白も、他人を拒絶する色だ」
そんな思いでぶつけた、今までの会話の流れから考えれば突拍子もないスコールの言葉は、ウォーリアに僅か、苦笑をさせたようだった。
その人は、再びスコールに視線を向ける。
「君はバッツやジタンに拒絶されていると感じているのか?」
言われて、呼吸が詰まった。
バッツもジタンも、服は青が基調だ。
そんなことも忘れていた。
忘れる程…自分に苛ついていた。
「君が彼らに対して、全く拒絶の意を感じないことと同じように」
言いながら、ウォーリアはマントで剣を磨くことを止め、たくし上げていたマントを放ると、剣を一振りして鞘に収めた。
「彼等は…我々は色で拒絶を受け入れる程、柔でもなければ聞き分けが良くもない」
最も、黒姿のセシルの様に面まで黒で覆ってしまっては、初見では気が引けるだろうが。
「…初見では…な…」
意味深長に言い置いて。
ウォーリアは背中を預けていた聖域の柱から身を起こし、スコールに背を向けて歩いていった。
その背中が、対向してやってくる2つの青い人影とすれ違う頃、スコールはやっと、ウォーリアの言った「我々」の中に、自分も含まれていることに気付いた。

距離が遠い、等、相手も感じているか?

「…は…」
知らず、自分に対して引きつった笑いを零していた。
ウォーリアとすれ違い、こちらに歩いてくる2つの人影が、青服のバッツと青を基調にした服のフリオニールだと判別がつく程に近くなる。
自然に仲間を意識し始めた心が、孤高と意地を張る自分の性格と、喧嘩をしていた、だなんて。
「よっ! スコール。ウォーリアと手合せしたのか」
勝った? 等と。
こちらの意志などお構い無しに踏み込んでくりバッツと。
「さっき、ウォーリアがすれ違い様に、『影響されることも悪くはないと思っているのだが』って言っていたんだが」
何かあったのか? 等と。
歳は対して違わないのに、何故か自分の中で、大人と認めてしまっていたフリオニールと。
「……。俺は馬鹿か?」
全く噛み合わない言葉を返してしまう自分と。
やって来た2人は足を止め、顔を見合せ…。
「ここに馬鹿じゃない奴なんて居ないじゃん」
にい、と、人好きのする明るい笑みでもって、バッツが答えてきた。
思わず、いつもからかわれた時の様に、反射で一緒にするなと叫んでしまって。
な、俺達気が合ってるだろ? と、フリオニールに言いながら大笑いを始めたバッツと、呆れ半分、笑い半分で、人が嫌がることは止せ、と言うフリオニールを。
もう約束事の様にしかなっていない上に慣習上の意味すら無いのだが。
やらないと納まりが悪いので、取り敢えず思い切り睨み付けておいた。


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