手合わせ3 | ナノ



…当てられる訳にはいかない…。と。
僅かな呼吸の間にこちらへ肉薄してくるセシルの動きを、逃すまいと目を凝らしながらウォーリアは思った。
セシルの攻撃は軽い。
…軽いが、攻撃力が無い訳ではない。
攻撃を当てられ、僅かでも機動力が落ちようものなら、元々自分よりも攻撃速度の早いセシルだ。
自分はその攻撃に対処し切れなくなる。
自分の攻撃が相手を擦るだけでもまずい。
1度でも空振りをすれば、彼はその攻撃に至る振りを覚える。
そして次には擦りもしなくなる。
そんなことを繰り返せば、いずれこちらの攻撃手段が尽きる。
それは避けねばならない。
普段はそのような素振りを全く見せないが、普段の素行が如何に穏やかであろうとも、彼は騎士なのだ。
戦闘センスは相当に高い。
そして彼は、長期戦をこそ得意とする。
…長引くのは、得策ではない。
ウォーリアはそれらを、セシルが自分の腹を狙う手刀を己の腹の前で構える一瞬で考え、防御されることを前提に、手刀を構えるその腕ごと、セシルの腹を狙って膝を打ち出した。
…こちらに向かう際の加速が付いたまま、彼は構えを取って肉薄してくる。
その加速を殺せるか?
殺せなければ、己の身体にかかる急激な減速の抵抗と膝蹴りで、食らう打撃は相当に大きなものになるぞ。
等と考える内に、膝にセシルの腕の感触が伝わる。
…酷く驚いた様なセシルの表情が、僅か。
垣間見えた。


見物をする仲間達の前で、セシルは後方に飛ばされていた。
「入ったか!?」
「いや…入ってない」
身を乗り出して叫んだジタンに、クラウドから、幾分落ち着いた返答があった。
「ウォーリアの蹴りに乗って後ろへ飛んだだけだ。それに直前で自分の身体に付いた加速を殺して自分で後ろに飛んでダメージを殺している。…あいつめ。なかなかやる」
…とは言え…と。
皆の注目の中、クラウドは言った。
「加速を殺して後ろへ飛ぶのに大分無理をしたな。それにウォーリアの攻撃を真正面から防御したんだ。あのまま攻撃を食らうよりは遥かに益しだが…流石に足と腕にきてるだろう」
相変わらず、面白そうな様子のままで。
焚火が消えてしまわぬように、小枝を差し入れて火を調節しながら。
そうやって…。
クラウドが2人から焚火へと視線を外し…次に焚火から視線を上げた時には、セシルはまだ、飛ばされて止まった位置に、片膝を付いたままだった。
やはり面白そうに、クラウドは呟く。
「…さて…、どうするんだ?」


蹴りの力が予測した以上に強く、セシルは飛ばされる勢いを止める為に、両の足裏を下草に擦らなければならなかった。
…しかし両足の足裏だけでは勢いを殺し切れず。
腰を落として利足の膝を、次いで、蹴りを防御した反対の手を、下草に押しつけてやっと止まった。
距離にしてほんの数歩先の背後には、野営地を囲む巨木の内の一本が、朝日に照らされて濃い陰影を刻み、そこに根を張っていた。
…あと僅かでも勢いを殺せて居なかったならば、背中からの激突は避けられなかった…と、身震いをする。
ウォーリアに向かって手刀を構えていた――結果として、防御の構えになった――腕は、未だにその位置のまま。
あまりの攻撃の強さに、セシルは驚いて顔を上げた。
…自分が下草を擦り勢いを殺した、その、足裏や膝、手を付いた部分の下草だけが、葉先をこちらへ向けた筋となって、ウォーリアから自分へと伸びていた。
ウォーリアは、驚いた様子のセシルに、僅か。
首を傾ける。
…笑っている…。
…のだ、と、思う。
「…本気ではない…と、思ったか?」
その声が届いて、暫く。
セシルは呆気に取られていた。
「言った筈だ。私の拳は君の喉に届くのか、否か。…それが、知りたい、と」
…瞬間。
セシルは、酷く獰猛な笑みを浮かべた。
それは仲間に向けたものである為か敵意は無く、やはり嫌悪を感じさせる類のものではなかったが。
それでも、普段は決して見せない表情であることは確かだった。
戦士としての血が騒いだか、それとも早朝の空気が好戦的にさせたか。
セシルは上唇を舐めて湿らせると、地を強く蹴ってウォーリアへ駆け出した。
…蹴られた部分の下草が抉られていた。


…真っ向から行ったのでは駄目だ。
と、ウォーリアに向かいながらセシルは考えた。
確かにウォーリアは攻撃速度が無く身体の柔軟性もあまり無い。
しかしこちらの行動に対する反応は早く、攻撃と防御、回避の移行に関しては、自分よりも遥かに柔軟性が高い。
加えて、その攻撃力は半端ではない。
先刻の攻撃も、防御をしたのに、防御をした腕が酷く痺れている。
…その攻撃の威力を軽減するため、無理に加速の乗った身体を急停止させ後ろに飛んだ為、足首と膝も痛い。
唯1度、攻撃を受け止めただけで、これだ。
受け止め切れなかった場合にどうなるかなんて、火を見るよりも明らかではないか。
…いや。
セシルはウォーリアから視線を外さないまま、少しだけ苦笑した。
…先刻も、受け止め切れてはいなかった。
打撃を最小限に抑えられただけだ。
最小限に抑えられてさえ機動力は落ちるのだ。
…1撃も…それこそ、擦るだけでも。
これ以上、攻撃を食らう訳にはいかない。
1撃でも食らえば、機動力は元より、元々重い類ではない自分の攻撃力まで極端に低下することは目に見えている。
…あまり好きな戦法ではないが、後ろへ回るしか…。
……。
解ってはいたが…やはり若干分が悪い。
…そんなことを。
セシルはウォーリアに向かう間の短い時間で考えた。
ウォーリアは、元々重い攻撃を更に重くして、短期間で決着をつけようとしている
そんなウォーリアに自分は、力では絶対に適わない。
だから力押しの勝負を掛ける訳にはいかない。
戦闘経験も、この人の方が豊富だろう。
だから目眩ましもあまり意味が無い。
…唯一、この人に勝っているものは、自分の身体の柔軟性と手数だ。
…。
……。
…多分、この人にも、それを――今、考えたことを――解られている。
…ならば――。
セシルは、攻撃する為と見えるよう利腕を少々引いた体勢で、ウォーリアに向かう速度を上げた。
ウォーリアはセシルの目から視線を外さずに、体勢をやや低くして構えていた。
…身体のどこを狙っているのか、判断しようとしています?
力押しはしてこない、と?
…そう思ってるでしょう。
…だから。
ウォーリアへ攻撃が届く距離まで肉薄しても、セシルは利腕を引いたままだった。
それどころか、更に利腕を引き、身体を完全に捻って横向きにする。
利腕と逆側の肩がウォーリアに向いた。
セシルも、ウォーリアの目から視線を外さなかった。
…僅か。
手を読み違えたか、対応が出遅れたウォーリアが、打撃を流そうと、半歩。
後ろへ引きかける。
…その胸に。
身を捩って加速したセシルの肩が当たった。
ウォーリアの身体が、セシルの加速とその打撃に押されて、後方へ倒れかかる。
攻撃手段は全て読まれるだろうと見越しての、真っ向からの力押し。
…だが!
「っ!?」
セシルは、ぞっとした様に身を引きつらせた。
そうして、まだ肩が完全に入っていない状態のまま、後方…ウォーリアから見て横…へ、跳躍と突飛ばしをしてウォーリアから離れる。
同時、ウォーリアの拳が、セシルが居たその場所を突き上げた。
2人の足運びに、千切れられた下草が低い位置で宙に散った。
散った下草の葉は、暫く。
ふわりと宙に舞っていたが、やがて大きさのあるものから順に、ひらひらと落ちていった。
…焦った様に、反射でウォーリアから離れたセシルは、元々痛めていた身を更に痛めていた。
少し…。
息が、上がっていた。
離れて、やはり互いの出方を伺うように、暫く視線を交してみる。
それは、相手が敵であったならば、憎しみを込めた睨み合いだ。
負けるわけには行かぬと相手を気押そうとする視線の針だ。
…だがしかし。
今現在、互いの視線の先に居るのは、仲間。
その為、ぶつかり合う視線には敵意も憎しみも無く。
唯、負ける訳には行かぬと。
唯、少しだけ愉しいと。
それだけを、やや好戦的な色に乗せて、互いにぶつけているだけだった。
…その、やや好戦的だった双方の視線が。
一瞬だけ。
ふと…違うものへと変わる。
ウォーリアはある種の敬愛だった。
セシルはある種の憧憬だった。
まだ朝日の昇り切らぬ早朝の森、朝靄の中。
靄に朝日が筋を描く静かな野営地にて。
嗚呼…、と。
嘆息。
零れ出たのは、嘆息。

…嗚呼、やはり。
彼は。
この人は。

――強い!

ひゅ! と。
鋭い呼気にて、セシルはウォーリアへと飛び出した。
保身を考えない加速は、ウォーリアが次の手を予測する間を得られるようなものではなかった。
ウォーリアは半歩足を引いて構えようとする。
セシルは、足を引き斜に構えたウォーリアの攻撃範囲内に入って尚、減速しようとしなかった。
ぎゅり、と。
軸足で地面を抉るように踏み込んで、利手を引いたセシルに、ウォーリアは防御行動が間に合わなくなる前の寸でのところで、加速を付けて威力を増した拳の打ち出しと見る。
…ウォーリアの読みは当たっていた。
減速を掛けずに、セシルは利手の拳を打ち出す。
攻撃力で圧そうと思ったか、セシルの攻撃に僅かに遅れて、ウォーリアが利手の拳を打ち出した。
セシルは、瞬時に打ち出し掛けていた拳を解いた。
初めからこれを狙っていたのか。利手と逆の手でウォーリアの拳を受け、拳を解いた手を横から当て身体に当たらぬよう外側に流す。
次いでセシルは、利手側の足で地を蹴り、流されたウォーリアの腕の側へと加速の付いた身体を移動。その加速のままに体勢を低くして、ウォーリアの腕の下を通り後ろに回ろうとした。
それを許すウォーリアでもない。
腕を流されるままにせず、少々肘を曲げて鍵にすると、セシルの首を掛けようと肩を捻る。
セシルは更に身を低くし、寸でのところで自分の首を狙う腕を頭上でやり過ごした。
そのまま利足と逆の足裏で加速を殺すと、低い体勢から立ち上がり様、振り返りの勢いも付けてウォーリアの背を狙い、利足を軸に水平の蹴りを一閃。
ウォーリアは瞬時に振り返り、腕を上げて真っ向防御する。
鈍い音…その後、舌打ちの音を発したのは、果たしてどちらだったか。
「…うわ…あいつら本気だ…」
なんて声が、仲間達の方から聞こえた。
…本気か、否か。
無論。
本気だ。
攻め手を躱され躱し防御され、通常なら一旦相手の間合いの外に引く筈のセシルはしかし、今回は引かなかった。
引く、と読んでいたウォーリアは、その為反応が若干後れた。
セシルは素早く蹴りの足を引き下ろし、若干体勢を低くすると、そのまま身を横へ捩って、利腕の側をウォーリアへと向ける。
肘を曲げて、胸の前で利き腕の手を拳に、反対の手を開いた状態で組み。
そしてそのまま利腕を押すようにして、肘をウォーリアの腹へ突き出した。
…ウォーリアの防御は初めて。
間に合わなかった。

「入った!?」
「みたいだな。でも…」
未だ見物を決め込む皆の中、驚いて声を上げるフリオニールに、どこかのほほんとバッツが応じた。
「でも?」
そのバッツの語尾を拾って、ティナがバッツに首を傾げる。
バッツが肩を竦めて何も言わないので、スコールがやや低めに言った。
「…加速が完全に死んでいる。ウォーリアにあれでは軽い」

…言ってくれる。
外野の話が耳に入り、ウォーリアは胸中で呟いた。
確かに、彼の攻撃は軽い部類ではある。
…だが攻撃力が無い訳ではないのだ。
ウォーリアは咳き込みたい衝動を抑えて、尚も自分の腹に当たる肘を力ずくで払った。
再び。
鈍い音がした。
セシルの身体の均衡も、初めて、崩れた。
まずい、と、思ったか。セシルは地を蹴ってウォーリアの間合いから逃れようとする。
ウォーリアは、これ以上時間を掛けることは不利と見た。
これも、初めて。ウォーリアが、引くセシルをが追う。
…今度の舌打ちは、間違いなくセシルだった。
万全ならば抜け出せた筈の間合いはしかし、腕と足を痛め機動力の落ちた今では難しいらしい。
機動力が落ちているのはウォーリアも同じだったが、先程の肘打ちが、大幅な機動力を殺ぐ程大した打撃になっていないことを、攻撃をしたセシルは薄々解っているだろう。
…多少は効いているんだがな。
ウォーリアは胸中で呟いた。

セシルは逃げられぬと悟り、引くことを止めた。
その場に留まり、向かってくるウォーリアの鳩尾へと、両手での突きを試みる。
ウォーリアは左へ躱した。
そのまま右膝を上げ、セシルの腕の下をなぞって、胸へ膝蹴を叩き込もうとする。
セシルは腕を曲げ、ウォーリアの太股中程を狙って肘を打ち下ろす。
蹴りを入れ様、セシルの首筋に手刀を入れようとしていたウォーリアは、多少苦しい体勢になっても攻撃を食らうよりは益と見て、その手刀でもってセシルの肘を払った。
膝蹴は、それで一応はセシルの胸に入ったが、一連の攻防からおざなりな牽制の役目にしかならなかった。
それでも、仮にもウォーリアが放った牽制、である。
その衝撃は決して無視できるものではない。
セシルはウォーリアから視線を放さないまま、軽く咳き込んだ。
そしてやはり不利と見たか。
再度。
ウォーリアの攻撃範囲内から逃れようと地を蹴る。
…そんなセシルを、ウォーリアは更に追い…。
無理を押して機動力を上げようとしたセシルはしかし、下草に覆われた地面を足裏で強く蹴って後ろへ跳躍しようとしたその時、ウォーリアの左手に右手を捕まれていた。
振りほどこうとする刹那、セシルの胸の高さを凪ぐウォーリアの蹴りが、左からセシルを狙う。
反射で。
セシルは左腕を防御に回した。
左肘を最大まで曲げ、身体に平行に構える。
…防御は…。
し切れなかった。
鈍い音と共にセシルの身体を衝撃が貫き、身体の均衡が完全に崩れた。
…仲間達の方から、悲鳴に似た溜息が上がった。
衝撃は重く、身体が流されて、セシルの左足が地面から浮く。
それでも、身体を立て直そうと試みるセシルだったが、ウォーリアに捕まれた右腕が強く引かれてそれもままならず。
腕が引かれて地に着いた足を軸に身体がウォーリアに対して横向きに、地に対してやや仰向けに斜めになる。
そして、まずいと思った次の瞬間には、蹴りを放った足を引き体勢を立て直していたウォーリアの右の拳が、セシルの腹に叩き込まれていた。
「っがっ、ぁ!」
拳が入った部位から身体が折れ、セシルは背中から地に叩きつけられる。
…それでも、跳ね起きようと地に手を着いたセシルだったが、藻掻いた刹那、傍らに片膝を付けたウォーリアの利腕の拳が、セシルの喉を目がけて打ち下ろされた。
…拳は。
セシルの喉に衝撃が伝わる寸前で止まっていた。
…気管が僅かに押されている。
少し…苦しい。
「続けるか?」
僅かに…。
僅かに息の上がったウォーリアが言うのを、セシルはその人を見上げる形で聞いていた。
朝靄は、いつの間にか晴れていた。
日が明るく、夜が明けたばかりの時分には不思議な陰影を刻んでいたホームの森は、いつも通りの、見慣れた森になっていた。
鳥の囀りが辺りに響き。
風が、さらりと流れては通り過ぎる。
風に揺らされた木葉が鳴る音がして。
雲は白く、高い。
「…悔しい」
敗北を認める言葉が洩れた。
それでウォーリアは拳を引いた。
敗北は、例えどんな相手でも悔しい。
しかし何故だか、今回。
セシルはこの言葉を言うのに、思った程の苦痛を伴わなかった。
ウォーリアが、助け起こそうとしてか、拳を解き、掌を上にして差し出してくるその手をセシルは取る。
…悔しい。
悔しい。
「…でも」
起き上がり、ウォーリアの手を借りて立ち上がった時には既に、2人の目に好戦的な色も、獰猛な色も無くて。
「…? でも…?」
「少し…嬉しい」
立ち上がったセシルは、足元をややふらつかせ、次いで、ウォーリアに打たれた腹を押えて僅かに身体を曲げた。
「嬉しい?」
訝しがるウォーリアに、セシルは苦笑する。
…気が付けば、全身に汗が流れていた。
呼吸も完全に上がっていた。
見ればウォーリアは、多少は呼吸が上がっていたし汗も浮いていたが、セシル程ではない。
…それが…嬉しい。
「だって、貴方を将と仰いでいるんですよ? 僕くらい平気で叩き伏せて貰わないと」
…ウォーリアは、その時にはもう、いつもの、表情が僅かなその人に戻っていて。
やはりウォーリアに慣れた者だけがそれとわかる程度に、苦笑をしてみせてきた。
「隊の誰よりも強く在らねばならない、か?」
「隊の在り方にもよりますけれどね」
セシルは肩を竦めて見せた。
腹を押え、背中を僅かに丸めた格好で、仲間達の方へ数歩、歩き出す。
その背に、ウォーリアから、仲間達に聞こえぬよう、抑えた声量で声が掛かった。
「ならば我々の場合は」
……。
我々、とは。
ウォーリアとセシル、だけではなく、秩序の仲間達全員、ということだろう。
セシルは歩みを止めた。
そして同じように、声量を抑えて応えた。
「…僕達、多かれ少なかれ、皆貴方に憧れているんですよ。純粋に強さ、その光、信念、色々…。だから――」
…だから。
セシルは仲間達に背を向け、ウォーリアに向き直った。
腹は抑えていたが、背はしゃんと伸ばしていた。
額から流れる汗は、単純な手合せでのものか。痛みでの脂汗か。
それでもセシルは、真剣な眼差しで、ウォーリアを射る様に見つめた。
仲間達は、自分は、ウォーリアに憧れを抱いている。
将と仰ぎ、誰よりも強く気高いと信じている。
…だから。
「――僕なんかに負けるなんて許さない」
ウォーリアは。
はっきりと判る程に目を見開いた。
その驚愕の眼差しと。
真剣に射る眼差しとが。
暫く。交錯する。
…引いたのは同時だった。
ウォーリアは僅かに苦笑し、セシルはくすりと笑う。
「ふふ…注意するとしよう」
「あははっ、宜しく!」
漸く。
仲間達の方へ歩き出した2人に、仲間達も我先にと駆け寄っていった。

「すっげ! ウォーリア全っ然余裕って感じっスね!」
「攻撃受けてましたけど、殆ど効いてないんじゃありませんか?」
「いや、そうでもない。ただ敗北する気はなかった。それだけだ」
「やっぱり強いよね。凄い」
「ウォーリア相手じゃあ、早くてもあんま意味ねぇなぁ…」
「そりゃそうでしょ。僕とジタンで向かっていったとしたら勝てる?」
「いや〜、無理無理無理!」
「…手が空いたとき、俺とも頼む」
「いいだろう」
年若い戦士達に囲まれたウォーリアと。
「頑張ったなぁ!」
「いけるかと思った瞬間もあったんだがな」
「ははっ。じゃあクラウド。仇は頼むよ」
「俺より速いあんたが無理なら、俺は土台無理だろう」
「次、クラウドが無理ならクラウドとセシルだな」
「それでも無理なら?」
「フリオニール追加で」
「お。じゃあそれで」
「ぶっは! どんだけウォーリア伸したいんだよ〜」
年長の戦士達に囲まれたセシルと。
朝日の差すホームにて。
暫く。矢継ぎ早に会話がなされた。
会話の間に、ふと、ウォーリアはセシルを見る。
年長の戦士達と談笑をする彼はしかし、まだウォーリアが打った腹を押さえていた。
「セシル」
ウォーリアが声を張る。
「? 何ですか?」
僅かに首を傾けて、セシルは呼び掛けに応じた。
ウォーリアは言う。
「朝食の支度は我々に任せて、君は少し休むと良い」
その言葉に。
とんでもない! 動けない訳ではあるまいし、と、異を唱えるセシル。
ウォーリアは、僅か。
笑っているような気配で、首を傾けた。
「それは困ったな」
君の腹を打った時、手加減したつもりは無いのだが。
やはり私は素手での打ち合いには向いていないか。
ウォーリアがそう言えば、セシルは目を丸くした。
間髪入れず、バッツが何やら呪文の詠唱を始める。
セシルはあからさまに顔色を変えた。
「ちょ…! バッツ! わ、解った、休む! 休んでいるからライブラは止めてくれ!」
「うっわ、めっちゃ削られてんじゃん! ウォーリア怖ぇ!」
「人が止めてくれって言ってるのにわざわざ口に出すなよ!」
「はいはい、テント行った行った! 回復掛けてやるからさ」
「回復くらい自分で――」
「お前の魔法より俺の方のが効果強い」
「あ〜も〜…。僕にだって矜恃ってものが――」
「はいはい、解ってるって」
言葉でじゃれながらテントに向かうセシルとバッツを見送り…。
ウォーリアは喉奥で1度、くつりと笑うと皆に軽く手を振って、散開を指示した。
そして1度。
先程まで手合せをしていた場所を振り返る。
柔らかい朝日が、木々の葉を透かし、下草の上に模様を描いていた。
緩やかな風で揺れる木々の葉に合わせて、模様も常にその形を変えていく。
その、風で揺れる木々の葉の音に混じって、仲間達の他愛無い会話が聞こえる。
…何を思った訳でもない。
何を思った訳でもないのだが。
ウォーリアは…何とはなしに穏やかな気分で、朝食の準備をする仲間達へと振り返り、その輪へと入っていった。

鳥が1羽。綺麗に鳴いていた。


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