29 | ナノ

顔を上げたジタンに、クラウドから声が掛かる。
「理不尽に感じるのは解るが、ウォーリアも、2人が無事に帰るものだと信じて外出を許可したんだ。ジタンとセシルでは、戦闘能力はセシルの方が高い以上、これは仕方ないだろう」
ジタンは唸るだけで、返事をしなかった。
そんなジタンに、スコールは小さな声で告げる。
「セシル、泣いていた」
ばっ、と、ジタンはスコールを仰ぎ見た。
スコールは彼方を眺めていて、視線は合わなかった。
「『護れなかった。護りきれませんでした。未熟で済みません。仲間に怪我をさせて済みません。不安にさせて済みません。強くなります。許して下さい』だそうだ。怪我と熱で気も弱くなっていたんじゃないか。…多分だが」
「ウォーリアぁあ〜…。せめて治ってから怒れ〜…」
足をばたつかせてそう唸るジタンに、苦笑と共にクラウドが声を掛けた。
「擁護する訳じゃないんだが、ウォーリアも本当はセシルを叱りたくないんだ。解ってやれ」
気持ちの良い風が吹いてきて、ジタンの髪を撫でていった。
ジタンは枝からひょいとクラウドを見下ろす。
「どーいうことだ?」
クラウドは目を閉じて風に当たっていたが、ジタンの声で目を開けた。
「…。怪我をした。俺とウォーリアだ。ジタン、お前達が逃げてきたイミテーションの群れにいた、オニオンが危険だと言った砕け掛けた『ウォーリア』でな」
「強かったっス。マジで」
クラウドの言葉にティーダがいつになく真剣な声色で同意した。
スコールが続きを話す。
「危険だと解っていたから、ウォーリアとクラウドが2人で掛かっていった。掛かっていって直ぐに、ウォーリアが盾に弾き飛ばされ、クラウドは蹴られて地面に投げ出された。最強タッグがああも簡単に宙に放り出されたんだ。俺やティーダが突っ掛かって行っては返り討ちに合っただろうな」
「そんな、俺やウォーリアが2人掛かりでもてこずった上に怪我までさせられるような相手に対して、あそこまで砕ける程戦った上に、重傷の身でジタンとオニオンを守り抜いて、生きて逃げおおせたんだ。本気で奴は大した奴だと思う」
スコールに続けて、そう言うクラウドに、半ば膨れてジタンは言った。
「じゃあ余計にあいつが怒られるのは理不尽じゃんか」
クラウドは苦笑した。
「…だから、ウォーリアも叱りたくはなかったんだ」
「じゃあ何で」
「セシルの為、だろうな」
クラウドの言葉に、頭の上にはてなを上げるジタンやスコールとは対称的に、ティーダは、ああと納得した声を上げた。
視線を合わせて首を傾げる2人に、クラウドは言う。
「誰かが叱ってやらないと、あいつは自分を責め抜くからな」
「責めるってか、いびり倒すって方が近いっス」
そうしないと自分を許さないのだと。
自分を許さなければ、その場から前に進めないことをセシルは理解しているし、実際、悩みごと以外…今回のような、自分の失態を繕う際には短時間で立ち直ってくる。
ただしその方法が…。
「立ち上がれなくなるまで、自分をいびり倒すんだ、セシルって」
周りが自分を許した場合、余計だとティーダは言う。
「あいつ…人には簡単に自分を許せって言う癖に…」
「文句は」
クラウドがジタンの言葉を切った。
「ジタン、お前がセシルとは違う方法で、セシルより早く立ち直ってから言え。少なくともあいつは、自分を許せなければ、誰も許せず誰も護れないことを知っている」
それが嫌だから自分なりの許し方を見つけたんだ。
それをさせるのが嫌なのはこちらの自由。
だからウォーリアは止めさせるために叱責したのだと。
「まぁ、今回はどうあってもジタンの方が立ち直りは遅いだろうな」
「そうっスよねぇ。ウォーリアが怒ったってことは、セシルもう立ち直ってるだろうし…って、あ」
「どうした?」
ティーダが間の抜けた声を上げ、3人が問う声が重なった。
間を置かずに、樹の下から声がする。
「みんな〜」
「お。ティナちゃん」
ジタンは樹の下を覗いて破顔した。
「…ティナが居れば直ぐにでも立ち直るんじゃないか、ジタンは」
言うスコールに、
「違いない」
クラウドが言い切って、ティーダが爆笑した。
「ティナちゃーん、どーしたー?」
ティナは笑顔で手を振っていた。
「皆の姿が見えないから、探していたのー!」
お話の邪魔してごめんなさい、と。
叫んでくるティナに、全力で全く気にしなくていいと叫ぶジタン。3人は流石に若干情けない顔をして溜息を吐いた。
「あ。そーいえば、クラウドは何でここに来たんスか?」
話するタイプじゃないのに、とティーダが言えば、ああそうだったとクラウドが返した。
「スコールと手合わせの約束をしていたんだが…姿が見えないから探していたんだ」
「あっ…!」
はっとしたように声を上げるスコールに、ジタン達は笑い声を上げた。

青空に白く雲が浮かび、穏やかな風薫る、気持ちよく晴れた日だった。
「よし! じゃあティーダ、俺達はお宝探しにでも行こうぜ」
俺の体力作りも兼ねてさ。
と、ジタンは言う。
ティーダは起き上がってジタンを見上げた。
「俺でいいんスか?」
「あれ? 前に俺、今度一緒に行こうぜってティーダに言ったじゃん?」
大丈夫、この世界からは出ないし。
…それに。
「俺、頑張るからさ。何かあったらティーダも俺のこと護ってくれるだろ?」
ティーダは一瞬、きょとんとした表情を見せ…次には力強く頷いた。
「うっす!!」
それをみたクラウドとスコールは、お互い顔を見合わせて肩をすくめ、僅かに笑った。

ジタンが樹を降りようと下を見下ろせば、支えがあれば立てるようになったらしいセシルが、フリオニールの助けを借りて、テントから出てきたところだった。
その少し離れたところでは、オニオンとバッツが腕立て伏せで競争していて、それをティナは笑って、ウォーリアは苦笑して見ていた。

ふわりと風が吹いてきて、療養中に幾分伸びたジタンの髪を揺らしていった。







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