冷徹(問題児)の行くリテイナー日誌.7 | ナノ
 


 わたくしのマスターは冒険者でございます。
 と言っても、所謂【光の戦士】様と肩を並べるような者ではない……とマスターは強く申しております。
 マスターにとっての御自身はそうなのでございましょう。しかし最近では此処リムサ・ロミンサの黒渦団の中で小隊長をお勤めになられる傍ら、各国の蛮族とも少しづつご交流を持たれ、蛮族の考えや暮らしまでをも幅広く理解しようとなさるマスターは英雄であろうとわたくしは思っております故、お仕えするのを誇らしく思っているのでございます。

 わたくしは自身が庶民であるという自覚がございます。故に蛮神の神降ろしを幾度も繰り返し、人の暮らしを脅かしてきた異種族である蛮族など、わたくしにとっては敵以外の何ものでもございません。理解するに値する存在ではない、と、どうしても思ってしまっておるのです。
 ええ、帝国と同じです。言葉は通じれど敵、という認識なのでございます。これはどの国であっても、庶民の皆様の間で共通する認識でございましょう。だからこそ各国はグランドカンパニーなるものを設立し、民の生活を守り蛮族と日夜交戦を繰り広げているのでございます。
 しかし、マスターにとっては少し違うご様子でございました。蛮族の中にはテンパードになった者以外とは対話が成立するシルフの他にも、少数ながら人とお話が成立する小団体が居ることもあるのだそうで、マスターはそうした蛮族の困りごとをすらそのお手をお貸しになられているご様子でございました。
 確かにわたくしは蛮族を敵とみなしております。しかしマスターがその蛮族と対話なさっているからと言って、マスターにわたくしが思うところはございません。寧ろマスターは蛮族をすら広くお救いになるのだと誇らしく思うと同時に、蛮族と関わり始めた頃から、マスターは帝国との抗戦前後や暁の血盟の拠点移動時よりも少し落ち着かれたように見えましたこともございまして、わたくしの蛮族に対する偏見も幾ばくか和らいだものでございます。
 そんな折。
 リムサ・ロミンサは宿屋にてマスターがわたくし共をお呼びになられました。
 「参上致しました」
 「ほんとうに……わたしでいいの?」
 ……。
 また……お泣きでいらっしゃった……。
 しかし今回はテーブルに伏せてはいらっしゃらなかった。通常通りわたくし共と接するおつもりでその場に佇んでいらっしゃいました。
 少し気が抜けたので、つい……という風で、慌てて目元を拭われると、ばつの悪いご様子で苦笑していらっしゃいました。
 その後、マスターは荷の整理をなさりながら、少し、わたくし共にお話くださいました。
 暁の血盟が拠点を移されたモードゥナにて、古代アラグ文明の遺産であるクリスタルタワーの研究にご参加されていたことを。
 クリスタルタワーの内部構造が解明され、現代にあっては危険な技術だと再封印の運びになった時、ご一緒に研究をなされたという、古代アラグの皇族の血を引くお仲間の方が、人が古代アラグの文明・技術の進化が追いつき再びクリスタルタワーを開くその日まで、技術とその使い方の知識を持って、クリスタルタワーと共に千年の眠りに着かれたことを。
 その方は御自身でその道を選ばれたそうです。ですからマスターは人類を未来へ繋ぐためにこの世界を護ると、その方とそうお約束をして、クリスタルタワーの扉が再び閉ざされるまでその背をお見送りし、そうして、此処にお戻りになられたのだそうです。
 でも、と、マスターは仰いました。
 悲嘆に暮れるような別れではないのだけれども、いざ一人になってみると、果たせたか確認できない約束を結んで二度と逢えない仲間の背を見送るのは……。
 ……なんだろう。
 寂しかった……んだろうな……。
 と……。
 ……。
 ……。
 …………。

 ま……。
 
 ま………………!

 マスタああああああああああああっ!!
 わたくし共はそう叫びたい気持ちを、マスターに判らぬよう互いに背中をつねり合って必死に堪えたのでございます良かった彼女と共に此処に居て! もし彼女につねられていなかったらきっとわたくしは叫んでおりました!
 一度志を共にしたお仲間との離別が寂しいと!?
 その方とのお約束が果たせたか確認出来ないことがお辛いと!?
 嗚呼、マスターは一人の人でいらっしゃった! 英雄である前に一人の人! 周りに流されて英雄だと勝手に持ち上げていたわたくしをお許しくださいマスター!!
 わたくしは一体マスターの何を見てきたのか! かつて沢山のお仲間や懇意のシルフを亡くされた時にあれほどお嘆きになられていらっしゃったのに!
 別れが、離別が辛くない人など居る筈もないのに! 離別が辛いからと新たな出会いを忌避する者も居る程に心を寄せた人との離別は辛いものなのに! わたくしはいつの間にかマスターはそうした感情とは無縁と思ってしまっていた……!!
 お嘆きのマスターをこの目で見ていた筈なのに、あああわたくしは一体何を……!!
 ご安心くださいマスター、わたくし共はいつだって此処に居りますしお呼び下さればいつでも馳せ参じます!! 決してマスターを置いて何処かへ行ったりなど致しませんからああああああっ!!
 ……。
 ……大変失礼致しました。
 取り乱しました。
 ああしかし、願わくばもうこれ以上、マスターがお辛い離別を経験するようなことがございませんように……。
 主には戦闘を生業とする冒険者にあって、それは叶わぬ願いと解ってはおりましたが、離別を厭われるマスターに、わたくしは、わたくしどもはそう願わずには居れないのでございました……。




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