闇を厭う闇 | ナノ
 
闘争を厭うたからこそ、この牢獄に閉じ込められたのだ。
と、混沌の軍の1人、魔人:ゴルベーザは思っている。
闘争を厭うた故に闘争から遠ざけられたのであれば、それは寧ろ褒賞だろう。
罰とは、罪を負い罰を受ける者が厭う内容でなければならない。
故に、己が唯一の兄弟がこの牢獄へと投獄されたのも、己への罰の一環なのであろう。
己が心根の弱き故に闇に魅入られ虐げた、たった一人の肉親。
たった1人の弟。
己とは真逆の、強き心根で己が闇を退け光を纏うに到った騎士。
……己が与えてしまった数々の傷が、せめて経年と共に癒えますように。
そして叶うなら、どれほどささやかであったとしても、せめて唯幸せになれますように。
そう願い、罪に塗れた己を彼と彼が生きる世界の害悪として、自ら別離を選んだ。
その弟が。
幼き頃この手で捨て去った、たった1人の弟が。
様々な命を摘み取り彼の愛した者達をも嬲り傷つけ屠った己を尚兄と呼んだ彼が。
残りの生涯を賭して守ろうとした唯一の肉親が、己の敵としてこの閉鎖された牢獄に投獄された。
それほどまでに、自らが犯した罪は重かったのだ。
彼だけは……。
唯、彼だけは……。
せめて幸せに……。
……せめて、平穏に。
そう、願ってしまったからこそ、それは叶わなかったのだ。
そこまで徹底的に罰せられるこの罪の、如何に深いことか。
償うことが、如何に不可能か。
己が犯した罪全てを償うことが不可能ということに、悲しいかな、肉親が投獄された直後に明確に理解した魔人は、他の全ての罪を負い罰を受け続けること決意し、代わりに必ず全うすると決心したただ1つの物事にのみ集中した。
それが、己が弱き心根の為に人生を根本から狂わせてしまったただ1人の弟、秩序の騎士、その人をこの牢獄から解放することだった。

「それが貴様の望みか」
故にこの望みが皇帝に露見しても、もう、怖いものなど何も無かった。
「いかにも」
「……ふん」
故に微塵も動じなかった。
「私に露見しても問題はないとでも言いたげだな。気に食わん」
「事実、問題はない」
「……何?」
正真正銘の、闇と悪意がこの身に巣くっていたのだ。皇帝の知略知慮など怖くはなかった。
人間の知略知慮など、怖くはなかった。
「闇はな、そなたが考えているよりも冷酷だ」
「知れたことを」
「いいや、そなたは解っていない」
だから怖くなどないのだ。
「操ることのできる闇など、怖くはないのだ」
「何だと……?」
巨悪としての闇は、真に残虐だ。
敵味方の区別などせず、闇に身を置く者をすら、分け隔て無く傷つけ、深い疵痕を刻んで絶望に叩き落とし再起を不能にする。
そして敵味方分け隔てなく、傷つき苦しむ様を悦ぶ。
それが、闇。
真なる意味において、純粋な、悪意。
人が操り、操る者自らに害のない闇など闇ではない。
傷つける者を選ぶ闇など闇ではない。
悪でさえない。
故に噛んで含めるように畳み掛けた。
「そなたの、それは、単なる、属性だ」
「貴様……」
「所詮は人間だ」
闇を厭わない限り、真の闇など見えはしないのだ。
暗闇の雲やケフカの存在を見てもまだ学ばぬそなたなど怖くはないのだ、と言えば。
やはり血族か、戯れ言ばかりを言う。
と、皇帝は憎々し気に吐き捨てた。


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