奪い取る光 | ナノ
 
未来は奪い取るものだと、貴女は常々口にしていた。
そう、目の前の小さな影に言えば、その人物はそれはそれは愉しそうに目を細めていた。
「ええ、それはもう」
散々辛酸を舐めてきた上で勝ち得た優越。それをもって、その人物は口角を美しく上げる。
「けれど良く覚えていたものですわね。褒めて差し上げますわよ」
…解らなくて。
首を僅かに傾けてそう言えば、その人物の細められた目が、面白そうに、更に細められた。
理由を促されているのだと、何となく悟り、傾けていた首を戻して告げる。
「未来とは…不確定な…実際にその時が来ないと解らないようなものではないのか」
その人物は高笑いをした。
呆れられ、下に見られたことが判る笑い方だったが、実際に自分はこの人物よりも様々な面において下なのだろう。
だから腹は立たなかった。
ひとしきり笑うと、その人物は肩を竦めて首を振る。
「そうですわねぇ…。では、貴方がより詳しく理解できるように、子供でも判る優しい問題を出して差し上げますわ」
悪戯を思い付いたように、その人物は、また美しく口角を上げて。
「仲間が敵の凶刃の前にあった時、貴方は見捨てて?」
「いや…」
「あら。敵にその仲間を殺さなければならない正当な理由があったとしても?」
「それは…」
暫し悩んだ。
が、悩んだとて、出る答えは始めに思い付いた答えと変わらなかった。
「助ける…だろうな」
「なら貴方は、仲間を殺さなければならない事情があるその敵から、仲間が居ない未来を…貴方が仲間と共に過ごすという未来を奪い取り得たことにならなくて?」
…絶句した。
納得をしてしまった反面、認めたくないと思う気持ちが頭をもたげて目を見開く。
自分が絶句したことに気を良くしたらしいその人物は、満足したようにもう1度、高笑いをした。
「そういうことですわ。未来は、正義は、人生は。他人の未来を正義を人生を踏みにじって捩じ伏せて力ずくで奪い取って押し付けて暴力的且つ一方的に押し通すもの。万人が共通に幸せになれる未来など有りはしませんの。未来を多く奪い取ることが出来た者にのみ都合の良い世界になっていくのがこの世の理ですのよ?」
ならば。
…ならば。
「私の思う光も、一方的…」
「その通り」
「それを押し付け、押し通すのが、力ずくで未来を奪い取ること…」
「然り然り」
「例え相手に事情が有ろうが、正しいと思うことを貫き、相手を考慮をしないことが正義」
「物分かりの良い子は嫌いではなくてよ」
「…理解した」
「お利口さんですわね。それじゃあ…」


いってらっしゃい。



「――お前をすら救ってみせよう!」
朽ち掛けた神殿内部で、朗々とそう言い放つのは苦では無かった。
…世界を光で満たす。
その世界には、敵をも含まれている。
だから。
…私から、光から逃げることは許さない…。


SSSTOP


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