手を… | ナノ
 
手を繋ぐ、ということ。
ティナはそれが苦手だった。
多分、きっと。
以前は、きっと。
何処へ行くにも、何をするにも。
自分の意思が固まる前に、物事はどんどん進んでいった。
自分で何かを決めるには、どうしても時間が掛かったから。
だから、物事についていけないことが、多分、きっと、沢山、あった。
遅れないように、必ず誰かが手を引いてくれていたような気がする。
でも、手を引かれると、遅れないように、その人を引っ張らないように、必死に着いていくことに一生懸命になってしまって。
気付いた時には、全然別のことを考える段階に来てしまっていて。
でも考えていると、また遅れてしまうから。
だからまた、誰かが手を引いてくれて…。
…多分…。物事全てでは無いけれど、多分…。
きっと…。
自分はいつも、こうだったのではないだろうか。
誰かに手を引かれれば、それは悪い結果にはならなかったのだと思うけれど。
だから今、自分は生きていられているのだと思うけれど。
でも、こんな、訳の解らない世界でだけでは、自分の足で走りたかった。
訳の解らない世界だからこそ、自分の足で、走ろうと思った。
訳の解らない世界だからこそ、せめて自分の足で、走ることを決めなければならないと思った。
共に居てくれる人に、せめて自分まで抱え込ませないようにしなければならないと思った。
…だから、自分を護ってくれると言った、小さな赤い騎士相手でも、ティナは極力、手を繋いだりはしなかった。
…けれど。
「オニオン!」
ティナが悲鳴で呼ばわったのは、そんな、自分を護ってくれると言った小さな赤い騎士の名前。
騎士がその小さな身体に見合わない、大きな魔術を使って体勢を崩した瞬間のことだった。
騎士が狙った敵とは別の敵が、横合いから騎士を狙っていて。
ティナは悲鳴を上げていた。
そうして、騎士へと高速で飛行していた。
庇おうと思った。
連れて逃げようと思った。
そんなティナの思考は一瞬だった。
小さな赤い騎士の元へと飛んだティナが手に掴んだのは、繋ぐことを厭うていたその小さな手で。
騎士に振り上げられた凶刃が騎士に降り下ろされる前に、ティナは騎士の片手を両手で掴んだまま、大空へと飛び出していた。
「凄いや、ティナ!」
そんなティナが、そんな自分に気付いたのは、大空へと連れ出した小さな赤い騎士が、高揚してそんな言葉を叫んだ時。
「ティナ、ありがとう!」
凄い、と地上を見下ろしながら、屈託なく笑って叫ぶ騎士は、拘りも躊躇いも無く、騎士の手を掴んだティナの両手、その、掌側の片手を強く握り返してきてくれた。
拘りも躊躇いも無く、自分に手を引かれて、一緒に大空へと逃げてくれた。
それを喜んでくれた。
凄いと言ってくれた。
お礼を言ってくれた。
…だからティナは、安全な場所まで逃げて、地上に降りた時も、繋いだ騎士のその手を放さなかった。
「疲れてる?」
騎士が自分を見上げて問う言葉に、嬉しそうに微笑みながら、首を横に振る。
じゃあ、行こうかと、今度はその小さな赤い騎士が自分の手を引いてくれた。
ティナはその手に、躊躇いなくついて行けた。
ティナが騎士を救う為に考えて引いた手に、騎士はついて来てくれた。
だからティナは、自分を護ると言ってくれた騎士の手に、ついて行こうと決められた。
自分できちんと考えて、ついて行こうと心に決めた。
それまで繋がれたことの無かった手が、ちゃんと、きちんと、結ばれた。


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