やさしくあるなら感傷を2 | ナノ
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今宵の獲物である8人の男たちを招いての酒宴は、ささやかながら大いに盛り上がっている。
宴もたけなわ、ティーダの見せた1人蹴鞠が終わると、小姓として客たちの間を動き回っていたオニオンが襖を開けて踊り手を招き入れた。

すらり、開いた襖の向こうに立つ、2人の青年。
奔放に跳ねる茶色の髪、浅葱色の着物を着て、手に朱色に塗られた鉄扇を持った青年がにこりと微笑む。


「今宵この宴の場にお招きいただき、大変光栄に思います。拙いものではありますが、私どもの舞が皆さまを少しでも楽しませてさしあげることが出来ますれば幸いにございます。それでは暫しの間、お付き合い願います」


前口上を淀み無く言い上げた踊り手は、彼のやや後ろに座った唄い手にちらりと視線をやった。柔らかな微笑みで視線を受け止めた白銀の髪の唄い手は、暗い朱で塗られた撥でそっと三味線を弾いた。
やや低く甘い声が、三味線と絡み場に満ちる。鉄扇と着物の裾を翻して踊る青年の土色の瞳は喜色に染め上げられていて、誰もがそれに見惚れてしまう。
――その動きが、あまりにも自然だったものだから。
彼の振っていた鉄扇が、獲物である男の1人の頭に振り下ろされたときも、誰も動けなかった。

ゆっくりと男が仰向けに倒れる。頭蓋からはみ出た脳漿と血液が、畳を赤黒く染めていく。
いち早く虚脱状態から抜け出したのは、殺された男に酌をしていたティナだった。
ターゲットが呆然としている今がチャンスだ。
彼女は自分の髪を飾っていた螺鈿の簪を引き抜くと、振り向き様に自分の後ろに座っていた男の喉に突き刺した。鋭く尖った三叉の簪は、呆気なく急所を貫通する。
そこまでしてようやく、男たちは意識を取り戻した。


「う……うわああああ!!?」


腰が抜けたか、四つん這いで唄い手の隣を逃げ出そうとした男の首筋を撥が襲う。ティーダは隣にいた男の脳天に鉛の蹴鞠を叩き込み、オニオンが投げた手裏剣は逃げ出そうとした男の着物の裾を縫い止め、フリオニールの投げた造花はその男の心臓を縫い止めた。その隣でジタンが指を動かせば、部屋に張り巡らされた糸が絶妙に動いて獲物の1人をばらばらに切断する。
襖の向こうから銃声がひとつ。外に逃がしてしまった獲物を、スコールが仕留めたのだろう。
ティーダが指差しで死体の数を確認する。


「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお、ろーく、外ので、なな」
「……1人足りない。逃げられた?」


撥を深紅に染めた唄い手がことりと首を傾げる。
フリオニールは、それに苦笑しながら首を振った。


「……いや。どちらにしろ逃げられやしないさ」


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視界も覚束ない豪雨の中、男はひたすらに走っていた。早くあの旅籠から逃げなければ。そればかりが頭を支配する。
だから彼は、唐傘を差した男と擦れ違ったことも、その男が唐傘の柄から刀を抜いたことも、その刀が自分の身体を通り抜けたことすら気付かないままに、足と胴体を分けることになった。


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「……残党は始末したが…もう少し気を付けなさい」
「あ、おかえりライト」


雨の滴る唐傘を持ったまま座敷に上がってきたライトが苦言を提せば、聞いているのかいないのかずいぶん暢気な返事が帰ってきた。
そこにいるのは、何時ものメンバーと、どこかで見覚えのある2人。
少し考えたライトは、ややあって合点したように頷いた。


「…君たちは、社にいた…」
「…その唐傘、もしかしてあんときのお兄さん?」


あの時の艶然とした雰囲気は何処へやら、頷けば無邪気な笑顔が返された。
彼は部屋を見回し、その笑顔のままに言う。


「あーあ、せっかくの此方の獲物だったのに」
「それは此方の台詞ッス」
「ごめんね。こっちも驚いたんだ」


ことりと首を傾げる唄い手が言えば、隣の踊り子もあっけらかんと頷く。
同業者ならば口封じの必要もない。ほっと息を吐いたフリオニールは、簪を丁寧に拭っているティナに呼び掛けた。


「なあティナ、道明寺ってすぐに作れるか?」
「…ええ、もちろん。食べたいの?」


くすりと微笑むティナを見て、自分があまりにも子供っぽいお願いをしていると気付いたのだろう。フリオニールは照れ臭そうに俯いた。
その隣で、道明寺と聞いた唄い手が目を輝かせる。


「えっ、道明寺!?僕も食べていいかい!?」
「へぇ、あんた道明寺好きなのか?」
「大好き。もう好きすぎてどうしよう」


尻尾を揺らしながらジタンが問えば、唄い手はぶんぶんと首を縦に振った。その様子に、周りから笑みが零れる。
簪で髪を纏め直したティナは、立ち上がると「じゃあ、私は先に帰って準備してるね」と言って座敷を出ていった。その後をジタンとオニオンが追いかけていく。
つられて各々が身支度をし始めた時、ティーダが踊り手たちに問い掛けた。


「そーだ、名前。名前教えて欲しいッス」
「ん?ああそうだな。おれはバッツ、こいつはセシルだ。よろしくな!」


踊り手――バッツは屈託無く笑う。後ろで頭を下げたセシルだが、意識は既に道明寺に向かっているようだった。
「ティナの道明寺は絶品だぞ」とライトが笑い混じりに言えば、光の速さで身支度を終えたセシルは店の場所も知らぬまま旅籠を飛び出そうとしたので、慌ててフリオニールはその肩を掴んだ。


「待ってくれ、一緒に行こう。……俺だってティナの道明寺が食べたいんだ」


肩を竦めて片目を瞑って見せれば、セシルはにっこりと微笑むと「それもそうだね」と笑った。
ようやく身支度を終わらせた他の人たちと連れ立って旅籠を出れば、あれだけ降り頻っていた雨はすっかり止んでいた。










やさしくあるなら感傷を
傷を舐め合う僕らにも








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妄想にて、和装暗器妄想をしておりました際、何と! 颯人様がそれを文章に書き起こして下さいましたのですよひゃああああああっ!
有難うございます有難うございますっ!!

どうしようセシルバッツ綺麗可愛い格好良い…!
ちょっとティナちゃん綺麗可愛いじゃないですかわあああフリオ! 牛肥!
あああああオニオン可愛いよおおおおうっ!!
ウォーリアさん渋いっ!
渋いよっ!
ヤバい素敵だ!
ああもうこれどうしたらよいの!?
るては幸せ者ですっ!

颯人様、本当に有難うございます!


頂き物


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