それは、まぎれもない悪夢 | ナノ
 
蒼様より
短編「アレ」の混沌サイドを頂いてしまいましたっ!!
御本人様の御意向により、

・虫表現
・キャラクター崩壊

上記の表記をさせて頂きます。






悲鳴にも似た音を響かせながら、小石を巻き上げ風が逆巻く。闇というには明るく、夕暮れというには昏い、真紅と漆黒の空の下。勇者は一人佇んでいた。
 周りに広がるは、廃墟。無秩序に積み重なった瓦礫からは所々どす黒い煙がたなびき、いまだ燻り続ける炎が小さく揺らめいている。
「・・・・・・・。」
僅かに秀麗な眉をひそめた勇者の、その視線の先。かつて荘厳であっただろう繊細な意匠を施され、しかし現在は見る影もなく崩れ去った玉座の前。そこに男が、倒れていた。
 男。闘志を纏い、幾度となく己と剣を交じえ、死闘を演じてきた宿敵。混沌陣営最強の名を欲しいままにする銀色の武人。混沌の神の指先。猛者の異名を持つ彼は、うつ伏せに倒れたまま動かない。猛者の纏う外套はぼろぼろで、所々焼け落ち、甲冑もまた、まるで気まぐれな子どもに弄ばれた玩具のごとくあちこちがひしゃげ、欠け、壊れていた。
「・・・何があった、ガーランド。」
 勇者は問う。己の宿敵に。彼の強さを知る故に、目の前で倒れ伏している状況は、勇者の予測を超える事態が起きたことを明確に語っている。
「・・・・・。」
 猛者は応えない。もう一度、勇者が問いかけようとしたとき、風に乗って小さな囁きが、勇者の耳に届いた。
「もうやだもう知るか何が神々の闘いだ何が混沌だ輪廻だ宿敵だそんなものどうでもいい疲れた儂はもう疲れた闘争なんぞもう知るか殺せいっそ殺せそうだそれがいい勇者よ儂を殺せ果てなき戦いに終止符を打ってくれ」
「っ!?と、とりあえず落ち着けガーランド!というか、お前そのセリフは自分の存在意義を否定していないか!?」
 猛者が死んだ目をして虚ろに呟いた、あまりの内容に勇者は慌てた。非常に珍しいことである。・・・まあ日頃、闘争闘争うるさい宿敵が自ら闘争なんぞまっぴらだと言っていたら驚く。さらにそんな呪詛めいた怨嗟をえんえん呟いてれば引くってものじゃない。さすがの勇者もドン引きである。
 ブレないことに定評のある勇者をうろたえさせていることにも反応を返さない猛者は、虚ろな思考で先程までの場面を思い出していた。勇者の呼びかけを半ば子守唄がわりに聞きながら。



 話は数十分前に遡る。
 その日、混沌陣営は珍しくカオス神殿に集まり、互いの近況を報告しあっていた。
仮初とはいえ、同志。そして、それぞれが胸に秘めている目的を達成するためにも定期的に報告の機会を設け、状況を報告しあうと同時に腹の探り合いを行っているのである。
それぞれの報告が終わり、解散の空気が流れ始めたとき、ふと、暗闇の雲の目は気になるものを捉えた。
好奇心のおもむくまま行動するのが妖魔である。暗闇の雲は好奇心の命ずるまま、見たこともない生物をつまみ上げた。手に持ち、まじまじと観察する。
それは、黒く、脂ぎった光沢を放つ、楕円形の虫―頭文字(イニシャル)G。
「暗闇の雲、何をしているのです?」
 妖魔の行動に疑問をもった魔女が問いかける。
「いやなに、見たこともない生き物が床を這っておってな。ふむ、何というのじゃ。なかなか素早かったが・・・」
 ほら、という言葉とともに、ずいっと捉えた生き物を差し出して見せる。
 その瞬間、カオス神殿はかつてないほどの静寂につつまれた。
「っいやあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 時の魔女の悲鳴が、神殿の止まっていた時間を引き裂く。
「ぎゃあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 静寂を好む死神が、らしくもない悲鳴を上げる。
「なんじゃ、こいつが何かしたのか?というか、なぜにそのような悲鳴を上げるのじゃ。少しも脅威を感じないぞ?」
 悲鳴を上げる魔女たちが理解できず、さらに手の中の生き物を知らない妖魔は困惑しながら魔女に近づく。
「いやっ!近づかないで!来ないで、来ないでぇーっ!!!」
まるで秩序陣営の魔道少女のようなセリフを言いつつ、涙目になりながら逃げる魔女。常にはありえないその様に、暗闇の雲は笑みをこぼす。どうやら自分が捉えたこの小さな生き物は、なんだかわからないが、魔女や死神を混乱させるという力を発揮するらしい。
 面白い。暗闇の雲の興味は、生き物の正体ではなく、悲鳴を上げながら逃げ惑う魔女に向いた。心底楽しそうにGを持って魔女を追いかけはじめる。
 魔女の悲鳴が一層大きくなった。
「あれ?あれ?アレぇーっ?いっつも余裕タップリに気取っている死神クンは、この虫はお嫌いかなぁ?かなぁ?かなぁ!?」
 一方で、道化もまた、どこからか別のGを捕獲し、意地悪な笑みを浮かべて死神を追い詰めはじめた。
「ばっ・・・!ち、近づくな!その汚らわしい生物をボクに近づけるなっ!!うわ、来るなぁーっ!!」
 死神が慌てて逃げ出す。それどころか、面白半分におぞましい物体Xを持って追いかけてくる妖魔と道化に対し、魔女と死神は錯乱し、手当たり次第に魔法を放ちはじめたからたまらない。魔力の矢が、斧が、炎弾が、光球が、カオス神殿に飛び交う。加減?なにそれおいしいの状態で放たれる魔法は、はっきり言って直撃をもらったらタダでは済まない威力である。しかも、速度もある。ここカオス神殿は、混沌と化した。
「ええいっ!アルティミシアっ!クジャっ!魔法を放つのをやめろ!暗闇の雲も、ケフカも、奴らを追い詰めるでないわっ!!」
 何とか事態の鎮静化をはかる猛者が叫ぶ。が、叫び終わらないうちに慌てて身を前方に投げ出した。その背後を、唸りを上げながら巨大な光球が通り過ぎる。避けられた光球―クジャの放ったホーリースター―は猛者がいた場所を通過し・・・背後で事態を眺めていた幻想に直撃した。
「マジかよっ・・・!」
 打たれ強いはずの幻想が一発で沈むのを見て、猛者の顔色が青くなった。―良かった。避けることができて。回避成功時に現れる「Dodge」の文字がいまこの時ほど輝いて見えたことはない。
 沈んだ幻想に心の中で合掌をし、猛者は再び事態の鎮静化に挑む。とりあえず、何とかして混乱を生む原因の妖魔と道化の動きを封じるのが先決だ。
「皇帝っ!貴様、手伝えっ!!貴様の魔法で、あやつらの動きを封じろっ!!!」
 叫び、相手の動きを封じる術に長けた暴君を振り返った猛者の動きが、止まった。
「ふんっ!情けない。あのような虫ケラごときに、ああまで動揺するとは・・・見苦しいにもほどがある。」
 ・・・セリフだけ見れば嫌悪感ナンバーbPのアレにも動じない、頼もしい味方に見える。しかし、偉そうに余裕綽々なセリフを言い放った暴君は、狭い通路の奥に陣取り、眼前にはフレア(設置型)、メランコリアの檻、雷鳴の紋章など、トラップをこれでもかと駆使して一大要塞を築き上げていた。Gを侵入させない気満々である。
「そのような有様で、偉そうなセリフを言うでないわぁーっ!!!」
 思わずイラっとした猛者が、全力で暴君に炎を叩き込んだのも、致し方ないだろう。
 ウボァー!
 暴君の断末魔が響き渡った直後、猛者は嫌な予感がよぎり、後方に飛び退る!
 直後、魔女の放った巨大な魔法陣―ヘル・ジャッジメント―と、死神の放ったアルテマが眼前の空間を引き裂いた。
 轟音と共に崩れ去る神殿を見ながら半ば呆然として、猛者は思った。・・・良かった、回避性能アップつけといて。自分グッジョブ!
 現実逃避に走り始めた猛者の眼前を、突如、白き閃光がよぎった。
 英雄の繰る長刀から生み出された衝撃波である。人形めいた雰囲気の英雄は、このような生物の襲撃に対しても眉ひとつ動かすことなく、淡々と衝撃波を繰り出し、妖魔の、道化の手からGを叩き落とした。
「・・・舞え」 
低い呟きとともに、さらにいくつもの剣圧を飛ばし、逃げ惑う二匹のGを一か所に追い詰めてゆく―遠距離攻撃に徹しているあたり、流石の英雄も直接斬るのはイヤだったようである。
「展開する!」
 英雄が一か所にまとめたGの頭上を、魔人の操る黒き球体がよぎる。黒き球体は、正確に光弾を放ち、Gどもの真上にあたる天井を崩し、瓦礫でGの動きを封じる。
 その様を見届けた英雄が、間髪入れずブラックマテリアを頭上にかがけ、叫ぶ!
「いまだ!パワーをメテオに!!!」
「いいですとも!!!!」
 ・・・そのセリフは何なんだとか、お前ら仲良いなとか、ていうかキャラ違わないかとか、その他諸々のツッコミを猛者が脳内で繰り広げる眼前で、英雄と魔人、二人の強大な魔力で放たれたメテオは、凄まじい威力で瓦礫ごとGを爆砕した。
「・・・あっけないものだな。」
「・・・ふん・・・。」
 そうして、勝利ポーズをとる英雄と魔人に、カオス陣営勝利のファンファーレが(猛者の脳内で)鳴り響く・・・すまなかった、セフィロス。何考えてるかわからん不思議野郎と思って。すまなかった、ゴルべーザ。さんざん裏切り者と罵倒してきて。今日の貴様らは、まず、間違いなく輝いておるぞ!神々しいまでに!!
 と、猛者が感動で涙を堪えている背後で、壁が崩れる音がした。
 それを目の当たりにした英雄と魔人の動きが・・・止まった。
 状態異常:錯乱からようやく脱した魔女と死神の動きも、止まる。
 それどころか、あれほど事態を面白がっていた妖魔と道化の動きさえも、停止した。
 
 ・・・ところで、読者の皆様はこんな言葉をご存じだろうか。
“一匹見かけたら30匹はいると思え”
 閑話休題。どうしてこのようなことを聞いたか、察してほしい。

 猛者の背後で、無数に何かが蠢く気配。ざわめき。忌まわしい、足音の群れ。
 ―振り向くな。振り向いてはいけない―
 そう、理性は警告するが、身体は勝手に、まるで惹きつけられるように振り返り―。
 そして、見た。黒き脅威が、密かに神殿内部に打ち立てた一大帝国を。その異様、もとい威容を。無数に蠢く黒。黒、黒―。
 誰も、動けなかった。元の世界では、世界を敵に回して戦ってきた、彼らの誰一人として、その、圧倒的な物量に声を上げることもままならない。
 魔女と死神は言うに及ばず、Gを弄び、玩具にしていた妖魔は硬直し、道化は常日頃浮かべている軽薄な笑みどころか、何の表情を浮かべることもない。
 先程果敢に戦った英雄の表情がわずかに歪む。それは、日頃、英雄が執着している兵士に与えたいと願う感情―まぎれもない絶望、だった。
 魔人の黒い鎧からのぞく、深い知性と憂慮を秘めた瞳の光は消えうせている。
 暴君と幻想、そして大樹は、黙して語らない。
 そして、黒き帝国から、一匹、ぶーんと、重たげな羽音を立てて飛び立つものがいた。
 飛行速度はそれほど速くない。むしろ、優れた戦士たる混沌の軍勢の面々には、遅く思える速度だ。だが、誰一人として、動けなかった。金縛りにあったように、または、どこか惹きつけられたように、呆然とその動きを見ている。
 そうして、耳障りな羽音を立てて、Gは・・・最も近くにいた猛者の顔面に着地した。

 ・・・・・・・・・。

 時が、止まる。
 その時、猛者は一瞬、己の身に起こっていることが、わからなかった。いや、無意識に理解することを拒絶した、といった方が正しいか。しかし、カサカサという不愉快な音、禍々しい気配が、容赦なく現実を認識させる。
「・・・・・っぎ、」
 猛者の喉が引き攣った音をたてる。
 ・・・奴が、忌々しい黒き不快生物が、這っている。どこを。他でもない、己の身体を!
 その事実を自覚したとき、猛者は―いや、ガーランドというひとりの男の中で、何かが音を立てて壊れた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁっ!!!!!!!」
 ガーランドの口から、かつてないほどの絶叫がほとばしった。
 まばゆい光とともにガーランドの鎧が変わる。
クラスチェンジを無意識に発動させたガーランドは絶叫とともに、奴らの帝国がある方向めがけて、無茶苦茶に“ほのお”“たつまき”を放ちはじめる。
加減どころか、技を制御する余裕もなく放たれた技の数々は、クラスチェンジで増幅されていることもあり、通常ではありえぬ威力を持って、Gを強襲する!
轟く爆音と、すべてを飲み込み切り裂く風の唸りを前に、Gは、生物が持っている本能に従い行動を開始した。
即ち、全力で逃亡。
膨大な数のGが、一斉に四方八方に散った。
「「「「っぎゃああああああああああああああああああああああああああぁぁっ!!!」」」」
 当然、夥しい数のGが、そこかしこを走り回ることとなり・・・呆然と事態を見守っていた混沌勢を、混沌の渦に突き落とした。
 それは、まぎれもない悪夢であった。
 神殿中を走り回る黒き悪夢。絶叫と悲鳴。広がる錯乱。アポカリプスが、アルテマが、セクターレイが、ブラックマテリアが、波動砲が、アルマゲストが飛び交い、破壊の限りを尽くしていく。
 強大な力を持つ混沌の軍勢が、手加減なし、全力全開で放つ数々の技に対し、バトルフィールドとなった神殿が耐えられるはずもなく・・・。
 結果、カオス神殿は、ガレキの塔よりもガレキの名を冠するにふさわしい、瓦礫の山と化した。
 


 そんな出来事が走馬灯よろしく倒れ伏す猛者の脳内で蘇っていたのだが、読心術の心得などない勇者にはわかるはずもない。
 彼は、猛者がどんどん気配を薄くし、床と一体化しそうになるのを止めようと、必死に励ましの言葉をかけ、手当の準備まで始めていた。
「しっかりしろ、ガーランド!お前は、こんなところで、終わる男ではないだろう!!何があったかは知らないが、自身を否定するな、生きる意欲を失うな!!」
 励ましながら、勇者は状況を把握しようと視線を走らせる。
 周囲の瓦礫には、そこかしこから極彩色の靴を履いた足とか、黒っぽいコートの切れ端とか、金ぴかの角とかが見えていた。よく見るとぴくぴく動いているので生きているようだが、混沌の軍勢が壊滅状態である。
 異常事態だ。
 勇者は思考をすばやく巡らせた。混沌の軍勢をここまで追い込んだのは一体何なのだ。仲間割れ、混沌の神の逆鱗に触れた、まったく未知の第三勢力の介入など様々な憶測をする勇者の視界の端に、ふと、黒い何かがよこぎった。
 ―あれは先日、秩序の戦士の約半数を混乱の渦に叩き落とした―。
「まぁだ生き残りがおったかああああああぁぁぁぁっ!!!!!!!」
 という叫びとともに、いままで返事がないただの屍のようだ状態だった猛者が、ぐわばっと身を起こし、鬼気迫る雄たけびを上げながら、黒い楕円形の虫を追いかけはじめた。
「お、おい、ガーランド?」
 あまりの豹変ぶりに、当惑しながら勇者が声をかける。しかし荒ぶる猛者は、その声に気付く様子もなく、ギミックブレードを元気に振り回し、Gを殲滅せんと次々に技を繰り出している。
 何となく事態を把握した勇者はため息をついた。
「・・・あの虫が嫌いならば、身辺の整理を怠るでない・・・・。」 
半ば暴走状態に陥っている宿敵に届くかどうかは微妙だが、数日前に自軍にも言った助言を置き土産に勇者は踵を返した。
 後日、混沌の軍勢の総力を結集して再建されたカオス神殿は、塵一つない、きらっきらのぴっかぴかだったとか。

終われ。






蒼様より、短編「アレ」の混沌サイドを頂いてしまいましたっ!!
もう混沌さん達が可愛過ぎます!
アルティミシアの乙女っぷりにきゅんきゅんしますとも!
世にも貴重なガーランドさんやクジャさんの絶叫をごちそうさまです!!
そしてウォーリアさん、お疲れ様です(笑)

蒼様有難うございます!!
るては幸せ者ですっ!!


以下、蒼様的混沌勢のGに対する反応だそうです。
可愛い♪

・魔女&死神&皇帝:まったくダメ。一匹でもダメ。
・魔人&英雄:少数なら耐えられる。複数は無理。
・道化&妖魔:基本大丈夫だけど、さすがに一大帝国レベルは無理。
・幻想:全然平気。一大帝国にも動じないレベル。で、その件で息子をからかい、親子の溝が深まる。
・大樹:無反応。小説で暴れたのはカウンターが発動したためです。
・猛者:まったくダメ。魔女たちよりダメ。でも、意地とかプライドとか、根性とかで平気そうなふりをする。その分反動がでかい。

ガーランドさんてば意地っ張り(笑)
ああもう素敵だなぁ…。








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