どっちを選ぶ? | ナノ
 
何となく。
バッツは特にティナを女性扱いしなかった。
無論、よい意味で。
何となく。
セシルはティナを偶に年上の女性扱いをした。
無論、良い意味で。
どちらも他の仲間達とはティナの扱い方が少々違っていたことに加え、多分、その扱い方がティナにとって居心地の良いものだったっぽい。
更にバッツとセシルが同い年で性格が真逆なものだから馬が合って。
それ故この3人はひじょーに仲が宜しかった。
クラウドに言わせると「新婚さん」だそうだ。
…対象は2人ではない上に、誰が夫で誰が嫁なのか、その辺りは全く解らないのだが。
…さて。
そんな彼等だからこそお互いが大好きで、お互いが大好きだからこそお互いの関係性に可愛いヤキモチを焼いたりする。
以前はバッツがいつもティナと一緒にいるオニオンにヤキモチを焼いたかと思えば、3人の中で自分だけ凡顔だとドン底まで落ち込んでみたりと大変だったらしい。
…そんな訳で。
今回ヤキモチを焼いたのはティナだった。
色艶のよい頬っぺたを僅かにふくっと膨らませて、ティナはセシルにぶーたれる。
「絶対、絶対バッツは私よりセシルの方が好きよね。だって私より綺麗だし、同性だから気兼ねも無いでしょう…? 私だってバッツが好きなのに…。男の子になりたかったわ…」
そんなことないよ…! と、セシルは驚いてティナに言う。
「…悔しいけれど、バッツはティナの方が好きだと思うな。君は可愛いし、君もバッツも魔法に通じているから話も合うだろうし、女の子だしさ。バッツだって男なんだから、女の子の方が好きだと思うよ…悔しいけど…」
これにはティナも驚いて。
「あのね、セシル。私セシルも好きよ?」
セシルは笑った。
「僕だってティナも好きだよ。でもそれと――」
「――バッツがどっちを」
「――好きかっていうのは」
「――全然」
「――違う」
「――話」
「――なのよね…」
…交互に言葉を紡ぐ2人は、言葉が進むにつれて、段々と無表情になっていって…。
「…」
暫く。
その場に沈黙が訪れた。
ややあって、どちらともなく呟く。
「…本人に確認しよっか…」

さて。
2人がそんな話をしているなんてことは知らない当のバッツは、ジタンとオニオン相手に戦利品の自慢なんぞをしていたりする。
「バッツ!」
そこへ前述の2人が駆け込んできて、バッツは顔を綻ばせた。
「おー、2人も見てくれよ! 今回大収穫だったんだ…って、どした? そんな切羽詰まった顔して」
近くへ来た2人の表情を見て、きょとん、と、目を丸くするバッツ。
そんなバッツに、2人は真剣な表情で詰め寄った。
「バッツ!」
「え…はい」
「お付き合いするなら僕(私)と彼女(彼)どっち!?」
「…なっ!!」
…目眩がしたのはその場に居合わせていたジタンである。
当のバッツはと言うと、手に持っていた戦利品を取り落とし、全身を戦慄かせて、この世の終わりが来たような表情。
「そんな…! 考え直してくれ2人共! どっちか1人しか選べないなんて、そんな残酷な…あんまりだ!!」
そんなバッツの言葉に、目尻に涙なんか溜めちゃったティナがゆるゆると首を振る。
「…生涯を共にする人は、1人じゃなきゃ駄目って、クラウドが言ってたわ…」
「あいつ凄ぇ浮気性じゃないか! ティナ、あいつの言うことなんて聞かなくていい!」
「彼が浮気性だから、だよ。バッツ」
今度はセシルが、やっぱり目尻に涙なんか溜めちゃって微笑む。
「君が同じ非難を受けるなんて耐えられない。…ティナを…頼むよっ…!」
「待ってくれセシル! 時間を…俺に時間をくれ…!」
…何故そんなに必死なんだ。バッツ…。
ジタンは顔を引き攣らせてじり…と、後退りした。
…至極まっとうな反応だと思われる。
そんなジタンの背に、がしゃりと何かが当たって音を立てた。
降り仰げば、一般常識がすっぽぬけていると評判の我らが将、ウォーリア。
「何事だ?」
…と問う彼がこの事態をどうにか出来ると思っては居なかったが、ジタンは取り敢えずことの次第を説明した。
「…ふむ…」
と、暫く思案顔をするウォーリア。
その後、彼が口を開く一瞬前に物凄く嫌な予感がしたジタンだったが、ジタンが発言を止める前にウォーリアは言葉を発っしていた。
「気持ちがどちらかに揺れているなら許し難いが、双方共に真剣に向き合えるならば、何も問題は無いのでは?」
…悪い予感、的中。
「いや、止めろよ!」
思わず振り返って叫ぶも、なにも解っていないらしいこの鉄面皮は、僅かに首を傾げるだけ。
…話した俺が馬鹿でした!
両手で頭を掻き毟って、バッツ達の方へ向き直れば、ウォーリアに対して喜色満面の笑顔を見せているバッツを見てしまい、血の気が引く。
「有難うウォーリア!」
そう言うが早いか、バッツはセシルとティナに向き直り、両腕を一杯に拡げて2人の首に抱きついた。
「2人共結婚してくれ!」
「バッツ…!」
「嬉しい…!」
…おいおい。
血の気が引き、引き攣った表情で、ジタンは反射的に味方を求め、さっきから1言も発しないオニオンに、3人を引っぺがすべく進言した。
「はぁ?」
…オニオンの返答はにべもなかった。
「ティナが伴侶にするって決めた人なら、誰だろうと何人だろうとティナも含めてその人すら護ってみせるのが騎士でしょ。なに言ってるの?」
…ジタンはオニオンのその余裕っぷりに絶句した。
ぱくぱくと二の句を継げないジタンを、オニオンは、ふん…と、鼻で笑う。
「何、ジタンってその覚悟も無いのにティナに色気出してた訳? へぇ、ふ〜ん」
…何この敗北感。
ともあれ、このままでは聖域で3人婚の結婚式なんぞぶちあげられかねない。
それこそ堪ったものではない、洒落にならん。と、ジタンはその後、急遽外部にも味方を求めた。
…即ち、セシルに妙な虫が付くことを嫌う過保護兄、ゴルベーザ。
しかし月の渓谷で出会った、彼の返答はこうだった。
「喩えあれが選んだ者が誰だろうと、何人だろうと、私はあれを否定しない」
「オニオンに何か変な騎士道吹き込んだのはあんたかああああっ!!」
ジタンは思わず絶叫した。
…こうなったら1人で止めるっきゃない。
バッツが絡んでる以上、スコールは当てに出来ない。
正に四面楚歌。
…やるっきゃない。
1人でやるっきゃない。
何がなんでも止めてやる。
ジタン・トライバル、満16歳。
彼はその年齢にして、年齢に似合わぬ、仲間に対しての悲壮な決意を固めて、遠く月の渓谷から、慣れ親しんだホームの方向へと視線を投げた。

――合掌。






Twitterにて開催された5月バッツ祭に便乗しまして、お持ち帰りフリーでどうぞ。
書き散らし駄作ではございますが、お気に召しましたら光栄で御座います。
…ジタン以外馬鹿しか居ませんが(笑)
本当はバッツ主格にする筈だったのにプロット甘くて最終的な主格がジタンになりましたが(←)
取り敢えず馬鹿でいちゃつく456で5がモテる話…と言えなくもな…い…? と思うので御許し下さい…。

親愛なる皆様へ、そしてFF5へ、愛を込めて。

バッツ祭期間が終了致しましたら、Twitterに上げた超SSSもフリーで公開させて頂きますね。


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