名字と名前の距離 | ナノ
 
「俺はジタン。ジタン・トライバル。表向き劇団やってっけど、これでも一応盗賊やってんだ」
じゃあ…トライバルって呼んだ方がいいか?
「は? いいよ、ジタンで。何で名字? それこれから禁止な。何か擽ってえ」
「…つか、何笑ってんだよ? 俺の名前、変か? いや、確かに俺名字ないから勝手に名乗ってっけどさ」

何て言われて。
俺は笑いながら手を振って否定する。

あ〜、いや、何かさ。今まで初対面で自己紹介された時、名字まで紹介されたことなくて、何か新鮮だったもんでさ。
や〜、嬉しいもんなんだな。
俺はバッツ。バッツ・クラウザー。しがない旅人さ。
「ふうん。じゃあ、バッツって呼ぶな」
おうっ!
「で、バッツってさ、前の世界の仲間って、こう…外れ者か王皇貴族様ばっかだった?」

…流石盗賊、と思う。
そんな観察力や、即時の理解を嬉しく、心地好く思う。

おうっ! 凄ぇだろ!
でも何で解った?
あ! あれだろ、初対面で名字まで自己紹介されたことがないって言ったからだろ?
「自覚してんじゃ突っ込めねぇな…」
これでもずっと1人旅だったんだぜ?
その位の観察出来ねぇと、やってらんないって。

…そう、この位、即時気付けないと、1人旅なんてやっていられない。
この位警戒しないと、1人旅なんてやっていられない。

「バッツさぁ、それ、気付いた時、何とも思わなかったか?」
ん〜?
特に何も。
つか、だから俺、旅の道連れになんの、初っぱな1回目は断ったし。
自分から自己紹介したことも無かったしなぁ。
「さっすが。いい具合に擦れてるじゃねぇか。外れモン同士、仲良くしようぜ?」

…そうだ。
それが密かな自慢だ。

だろ?
ま、仲良くしようぜ、ジタン。


初対面の旅人風情に王族が本名全てを名乗れないのは当然。
初対面の旅人に、外れ者が名前を全て名乗らないのは当然。
名前を全て名乗らない者を、天涯孤独の旅人が信用しないのも当然。
名字と名前は、どちらもその人の名前ではあるが、その実、この2つの間には、途方もない距離がある。
さて、この新たな友人の他に、俺に名前全てを名乗る奴は、此処にどのくらい居るのだろう。
…まさか名字の無い奴や、自分の名前も記憶に無い奴まで、居るなんて思わなかったけれど。


SSSTOP


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