おとなこども | ナノ
 
ひゅ、と空気を斬る音に、鋭さが欠け始めた。
飛び散る汗と共に振った刃は、ぶれたせいで風の抵抗を受け、切っ先が震える。
無意識の内に出た舌打ちに気付いて、オニオンはきゅっと眉を寄せた。

……くやしい。
くやしい、くやしい!

無心に剣を振っていたつもりなのに、込み上げるのはそればかり。
燻るもやもやを乗せて薙ぎ払った剣は、無様に歪んだ軌跡を描いた。
もうこれ以上は時間と体力の無駄だと判断して、オニオンは剣を納める。
拳を固く握りしめ、乾いた唇を噛みしめた。
きっと今、ひどい顔をしている。
それでも、そうせずには居られなかった。
力を込めすぎた拳がぶるぶると震えるのにまた苛立ち、全身の力を抜いたオニオンはどさりと仰向けに倒れた。
見上げた先には、雲一つなく、憎らしい程に晴れ渡った空。
暖かい日差しがまぶしくて、瞳を伏せたオニオンは深呼吸を繰り返す。
冷えた空気で肺を満たし、ぬるい空気を吐き出して。
吐き出す空気と一緒に、このもやもやも全部出て行ってくれればいいのに。
ちっとも収まらない苛立ちの原因は本当に些細な事で、普段ならばさらりと流せるものだった。
多少怒りを覚えたとしても、こんなに後を引くことはない筈だ、多分。
原因が解っているから、余計に腹が立つ。
吸い込んだ冷たい空気は、沸騰した頭を少しは冷ましてくれただろうか。
重たい息を吐き出して、オニオンは瞳を開けた。
けれど瞳に映ったのは青空ではなくて、自分を覗き込む影。

「うわあ!」
「え?あっ、」

ごちん、と鈍い音。
驚きで勢い良く起き上がったせいで、影と額をぶつけてしまったようだ。
思い切りぶつかってじんじんと痛む額を押さえながら、オニオンは影の主に視線をやる。

「気配消さなくたっていいんじゃない?」
「……消してたつもりはないんだけどな」

オニオンと同じ様に、額を押さえて涙目になっているのは、セシルだった。
恐らく、むくれたまま館を飛び出したオニオンを探しに来たのだろう。

「……心配しなくても僕は平気だよ」
「心配はしてないよ」

ああでも、カオスの戦士達やイミテーションに囲まれたりしたら心配かな。
呑気に笑うセシルに唇を尖らせて、オニオンはようやく痛みの引いた額から手を離した。
オニオンの隣に膝を抱えて座り込んだセシルは、青空を見上げて眩しそうに瞳を細める。
やわらかな風が足下の草をさらさらと揺らし、吹き抜けた。
気持ち良さそうに深呼吸するセシルを横目に、オニオンはぽつりと呟く。

「……何も、言わないの?」
「言って欲しいのかい?」
「……」

正直な所、慰めなんて欲しくない。
至らなかったところ、未熟さ、もやもやの正体は、嫌と言うほど解っているのだから。
けれど、それを素直に受け入れるには、まだまだ自分は幼いのだ。
どうしようもない程に。
くすりと、セシルが笑う気配がして、オニオンは顔を横に向ける。

「大人子供の定義って何だろうね」
「?」
「まぁ、確かに僕らは年齢だけは大人なんだけど。それだけじゃあ計れない事ってたくさんあるだろ?」

例えば知らない物を目にしたウォーリアやティナは幼い子供のように瞳を輝かせるし、おもしろい遊びや悪戯を思いついたバッツは言わずもがな。
普段落ち着いているクラウドが一般常識に弱かったりするし、生真面目で冷静なフリオニールやスコールだって、むきになったりする事がある。
年少組に入るジタンやティーダが誰よりもしっかりした意見を述べたり、する。

「誰も大人になりきれてないし、かといって子供でもない」
「……セシルも?」
「恥ずかしながらね。でも、それでいいんじゃないかなぁって、僕は思うんだ」

ぽん、と頭を撫でて、セシルは立ち上がる。
帰ろうか、と、掌を差し出して。
素直にその手を借りながら、オニオンも立ち上がった。
じっとセシルを見上げてみると、彼はゆるい笑みを浮かべたまま首を傾げる。
深い瑠璃の瞳は、宥めるような色。
肩を竦めて、オニオンはセシルの手を握りしめた。
困ったように笑うセシルの手を引いて、オニオンは歩き出す。
話している内に、もやもやは綺麗さっぱりなくなっていた。
慰められたくなんかなかったけれど、結局、セシルの言葉に慰められて、宥められて。
単純だ、やっぱり僕はまだまだだ、なんて思うけれど、それでもいいか、と思える位に、心は軽くなっていた。
きっとまた、同じ様な事があったら苛立って、もやもやして、自己嫌悪に陥るんだろう。
……でも、それも悪くはない。
躓いて転んだって、また起き上がればいいんだ。
そうやって少しずつ、進んで行けばいい。

「ねぇセシル」
「ん?」
「また僕がもやもやしたら……今度は愚痴、聞いてくれる?」
「もちろん」

穏やかに笑う気配に、オニオンはゆっくりと振り返る。
見上げた瞳は、年下を甘やかす大人の瞳。
だけどこれが、小さな子供みたいになる時がある事を、オニオンは知っている。
だから。

「……セシルが愚痴を言いたくなったら、僕の所に来ればいいよ」

話ぐらいなら、聞いてあげられるから。
瑠璃色が小さく見開いて、それから、ふと細められた。
僅かな間を置いて、頼りにしてるよと帰ってきた涼やかな声に、自然と唇が緩んでいく。
ふと見上げた空は、晴れ晴れと美しい青だった。 








イベントにて御一緒させて頂きました、みたそ様、あさと様、10様が、るてのリクエスト受け付けてくださるとの、神のごとき心の広さを御披露目してくださったことに甘えまくるるての図(再び)。
みたそ様からこちらのお話を強奪してしまって参りました!!

っぎゃあああああああ2人とも可愛いよおおおおおぉっ!!

文字ではこんな感じで叫んでおりますが、実際には読み返しては「……っ!!」みたく息を止めて枕を理不尽に殴り続けるるて。
あはあはあははあー幸せ!
もう自分でセシル書けないから禁断症状でセシル干魃期に、この恵みの雨!
しかもオニオンセットでしょう!?
こう…オニオンが何に悔しがってたかが解らない感じなのに、セシルには解ってた、みたいな、ね!
更にそれをはっきり言わないで対等みたいな!? みたいな!?
たまらんのですよ!
駄目だこの2人本当好きだ!!

みたそ様、お忙しい中、有難うございます!


頂き物


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