迷子 | ナノ

…混沌の陣地内。
カオス神殿と名付けられたその場所は、神殿、と呼ぶにはあまりにも禍々しい空と大地の中にあった。
赤黒い雲が、見渡す限り何処までも広がり、広大な大地は光を吸い凹凸さえ解らない闇色。
そんな中に、ぽつん…と。
この、今はもう、天井さえ戦闘で崩れてしまった、床や側面の壁、半ばから折れた柱しか残らぬ、崩れかけた神殿があって。
…他には何も…無い。
神殿でも、カオス、と名が付いている以上、適した場所に適した風貌で存在いるのだと言ってしまえばそれまでだろうか。
ゆるり…と。
赤黒い雲が、神殿の上空、高い位置で幾重にも渦を巻いていた。
赤黒く禍事の様に光る空と、深い闇色の大地と。崩れかけた神殿の上空に発生している渦。
…それは…それらは、酷く…陰惨な光景に思えた。
例えばその渦が、轟、とでも音がしていれば、それなりに頭でも精神的にも納得が出来ただろうが、音も無く、ただただ巨大な渦がこんな荒涼とした悲惨な世界の上空で赤黒い雲を捲き込んで自分の頭上にある等、今正に戦闘中で他に気を割く余暇の無いことを差し引いても、非常に不気味で…。
この場所で聞こえる音と言えば、自分と、自分の宿敵が相手を叩き伏せんと打ち鳴らし合う剣の音、だけ…。
それさえも、空の渦に吸い込まれているかの様に、音が薄くて。
戦闘で散った塵が、灰が、武器で傷付けられた神殿の破片が、傷付いた身体から滴った血が。
1度は荒れた神殿の床に落ちたそれらが、重力に逆らい、浮き上がってはゆっくりと空の渦へと上って行く…。
…あまり…。見ていて気分の良いものではない。
「腑抜けたか。光の戦士の名が、笑わせるわ!」
自分の目の前を、ゆら…と。
昇っていく、自らの血が付着した神殿の破片を、思わず呆けて目で追ってしまったウォーリアに、宿敵ガーランドの怒号が降ってきた。
はっとして、宿敵を仰ぐ。
背後にある神殿の扉から、奥にある玉座までの緩やかな上り坂。その玉座のやや手前で跳躍したガーランドの、鎖で飛距離を伸ばした重い重い大剣の切っ先が、頭上からウォーリア目掛け、狂暴な速度でもって降り下ろされてきていて。
たんっ。と。
具足裏で、赤い敷物が敷かれた床を蹴って、ウォーリアは右に逃れた。
獲物を取り逃がした大剣の切っ先は、つい先程までウォーリアが居た床を、赤い敷物ごと粉々に砕いて、持ち主の元へと引き戻されていく。
…ウォーリアはガーランドに向かい、床を蹴る。
利手に携えた剣を上段に構え、大剣の切っ先を引き戻したばかりのガーランドの首、その重装の左継目を狙って。
首の甲の継目を狙い、正確に降り下ろされたウォーリアのその剣を、ガーランドは左籠手で受けた。
そして間を置かず大剣を振り上げ、ウォーリアが居た場所を横に薙ぐ。
しかしその時には既に、ウォーリアは床を蹴ってその場を離れていて。
…避けられること等、100も承知だったのだろう。
間を置かず、今しがた剣を薙いだその軌跡をなぞるように、ガーランドが大剣をもう1度、先程と反対の方向へ横に薙いだ。
瞬間、大剣の継目が外れ鎖が伸び、離れた場所へ退避したウォーリアを、その鎖で伸びた大剣の切っ先が追う。
ウォーリアはそれを剣で弾いた。
…が、やはり重いのか。
切っ先を弾いたウォーリアの体勢が大きく崩れた。
よろめき、倒れかかる身体を支える為、ウォーリアの利足が大きく後方へ下がる。
しかし、体勢を崩したウォーリアに、ガーランドからの追撃は無くて。
ウォーリアの剣に弾かれたガーランドの大剣の切っ先は、赤い敷物が敷かれている坂になった通路の脇、段になった床のその1つの角を盛大に破壊し、きつく食い込んで止まっていた。
…両者が体勢を整え終えたのは同時だった。
…暫く。
呼吸を整えつつ、互いを睨み、牽制し合う。
ごとり、と。
ウォーリアの背後で床が鳴った。
先刻、ガーランドが破壊した扉付近の床が、空へ吸い上げられる過程で鳴った音だった。
大小様々な大きさに砕かれた床の破片は、小さいものからゆっくりと浮き上がり、次々と空へ昇り始めていく。
その光景は…未だに慣れない。
ウォーリアは、砕けた床に自分が背を向けていることに若干の安堵を覚えた。
…ウォーリアがこの場所へ来たのは、初めて…では、ない。
幾度となく足を運び、幾度となく建物を破壊した。
…が、次に来た時には、破壊の形跡は跡形も無く、全て元通りに癒えていた。
…ここだけではない。
他の世界の断片、それら全て。
毎回、行く度に前回の戦闘の痕跡が消え、何事もなかったかのように戦闘前の世界へと戻されている。
…それが…堪らなく気持ちが悪い。
ガーランドが、厚い面覆の下で笑う声がした。
…何とも愉しげで、喜悦に満ちた声だった。
それでこそだ。
それでこそ、儂の宿敵だ! と。
先程の打ち合いを褒める様子で。
そしてひとしきり満足そうに笑うと、再び、苛烈かつ狂暴な攻撃を繰り出してきて…。
……。
自分の宿敵が、何故に道を踏み外したのか。
秩序の戦士を率い、最も秩序の神の加護を受け、最も強靭な肉体を持ち、秩序の戦士最強と謳われる光の戦士、ウォーリア・オブ・ライトは知らない。
…否。
覚えていない。
彼が元々、何処かの国の騎士であったことは、確か何処かで…誰かに訊いた。
だが王国騎士ともあろう者が、何故に道を踏み外したのか。
何故、世界の安定と秩序に背を向け、何故、世界の崩壊と混沌を選んだのか。
何故、自分の敵となったのか。
…今のウォーリア・オブ・ライトは、知らない。
「何故だ、ガーランド!」
…だからだろう。
闘争を好み戦闘を悦楽とする己が敵、ガーランドの名を持つ猛者が、自分を仕留めたらんと苛烈な攻撃を繰り返すその合間に、猛者に向かい、そう叫んだのは。
…だからだろう。
混沌の神カオスに仕え、混沌の戦士最強の名を冠すその猛者が、自分に向けて獰猛に振るう剣の合間に、自分への明確な殺意を敏感に見出だしてしまったのは。
混沌の戦士達の数は、自分達秩序の戦士達と同じ。
きっかり、10人。
彼等は、元居た世界で相まみえた、宿命とも言うべき敵同士なのだと聞く。
そして、そんなただ中にあり、唯1人、このガーランドが自分を宿敵と呼んだ。
他の混沌の戦士達が、己が宿敵に最も関心を示す中、己が宿敵は自分なのだと、ガーランドは自分に最も高い関心を示した。
強い執着を示した。
余る程の敵意を。
恐気をふるう憎悪を。
愛着を、興味を、殺意を。
あるいは敬意を、好意を、嫌悪を。
そして嫉妬を。怨みを。憧憬をさえ。
凡そ敵に向ける感情としては相応しくないものまで全て。
最も自分に示してきた。
…そんなガーランドが、何故自分の宿敵となったのか。
ウォーリア・オブ・ライトは知らない。
何故だ。
何故。
ウォーリアがその疑問を持ったのも、今回が初めてではない。
1度目に剣を交えた時既に、この宿敵のことを何も知らない自分に気付いていた。
…それ以上に。
宿敵のこと以外のことですら、何も知らない自分に気付いていた。
自分は何者なのか。
自分の宿敵と名乗るこの猛者は何者なのか。
理由を知らないからこそ、己が宿敵をさえ、救おうと思えたのかもしれない。
だがウォーリアは、例え理由を知ったとしても、この信念が揺らぐとも思えなかった。
だから…問うのだ。
何故だ、ガーランド。
何故、お前は私の敵になった。
何故、お前は王国騎士たるを辞めた。
何故、お前は輪廻に囚われている。
何故だ。
何故。
…ガーランドが攻撃を止めた。
赤い敷物が敷かれた緩やかな坂の両側に設えられた段。入口の扉から見て、その左最上段に、攻撃を止めたガーランドが着地する。 
…暫く。場が膠着した。
ウォーリアは上段に佇むガーランドを、神殿の扉付近に出来た大穴の縁に立って見上げていた。
ごとり。
再び。音がして。
先刻、ウォーリアが弾いたガーランドの剣の切っ先により破壊された段の角が、上空の渦に吸われて、細かな破片から順に、ゆっくりと浮き上がっては昇っていった。
ガーランドの面覆の奥、感情の読めない目が、ひた、と、ウォーリアを見詰めている。
「ウォーリア オブ ライト」
感情というものが一切欠如した、抑揚の無い声がウォーリアを呼んだ。
不意に感じた悪寒に、ウォーリアは眉根を寄せる。
「クリスタルに選ばれし 光の戦士」
「ガーランド――」
「貴様が儂の名を呼ぶか!」
…突然。
神殿全体に響き渡った怒号に、ウォーリアは目を見開いた。
「ガーランド、お前は――」
「黙れ! 貴様さえ――」
――貴様さえ居なければ――
再び跳躍し、ウォーリアへ剣を振るうガーランドの、隠そうともしないあからさまな憎悪と殺意に。
一瞬、ウォーリアの対応が遅れた。
何故、ウォーリアの対応が遅れたのか。
…自分への、ガーランドの憎悪や殺意に対して、全く…本当に全く…身に覚えが無かったからだ。
この世界での敵として憎悪や殺意を…というのであれば話は解る。
しかし今、ガーランドがウォーリアへ向けてきた憎悪や殺意は、ガーランド個人がウォーリア個人に対して向けているものであり、陣営ごとの闘争には関係が無いように思えた。
彼は私に何をされた?
私は彼に何をした?
解らない。
解らない。
…知らない。
それが解らない、という事実が、ウォーリアの判断を一瞬、ほんの一瞬だけ、鈍らせた。
…が。
手練れの戦士同士の決闘では、その一瞬の対応の遅れが命取りだった。
跳躍したガーランドが、宙で剣を横に薙ぐ。
剣の切っ先が鎖で伸び、射程距離が大幅に伸びる。
薙いだ際の力に加えて、繋がれた鎖に引かれて宙を切る速さが切っ先に乗る。
与えられる衝撃が増す。
重い、重い攻撃となる。
その、攻撃力の増した重い切っ先は、ガーランドが剣を振るうその力の為、その重さからは通常考え難い速度を伴い…。
一瞬対応の遅れたウォーリアの曖昧な防御を弾いて、その攻撃力が衰えぬまま、その重さと速度でもって、ウォーリアの胸甲を直撃した。
「…っ!!」
派手な音を立てて胸甲が割れ砕け、胸に受けた衝撃に呼吸が詰まる。
受けた衝撃の強さに足が浮き…。
ウォーリアは間を置かず、神殿の扉、向かって左側の壁に背中から叩き付けられていた。
「…」
ガーランドは、無言で切っ先を引き戻し、ウォーリアに全身を向けて立つ。
…胸と、背と。
両面に強い衝撃を受けたウォーリアは、尚ガーランドに向かおうとするも、数歩足を進めた所で堪らず床に片膝を付き、盾を取り落とした。
肩膝を付いた反動で、支えを無くした背甲が床に落ちた。
込み上げる強烈な吐き気に、額に脂汗が浮く。
粗く呼吸を継いで吐き気をやり過ごそうとするも、己が宿敵たるガーランドは、自分が吐き気と痛みを完全にやり過ごせるまで待っているような手合いだとは、毛頭思っては居なかった。
滲む汗をそのままに、顔を上げ敵を探す。
目の前を、砕かれた胸甲の欠片が、上空の渦へ向かいゆっくりと浮き上がっては視界の上へと消えていった。
…ガーランドは直ぐ近くまで歩み寄って来ていた。
剣を取り立ち上がろうとするが、痛みと吐き気に手足が震えて身体の自由が効かない。
…委細を承知しているのか、ガーランドに急いだ様子は見えなかった。
悠々と剣を持ち変え、柄の先をウォーリアへ向け…。
そして軽く剣を振りかぶると、剣の柄の先に刀身の重さを乗せて、ウォーリアのこめかみを狙い、斜めに打ち下ろしてきた。
…金属が金属を叩く、鈍い音。
刀身の重さが乗ったその打撃に、ウォーリアはその場に倒れた。
強く打たれた兜の留具が弾け、ウォーリアの頭から兜が外れて離れた場所に落ちる。
兜はそこから、更に離れた場所まで派手な音をさせて転がって行った。
こめかみの部分が凹み、変形していた。
戦闘で欠けた床の窪みで止まった兜は、暫くその場に留まり…。
僅かな間の後、ゆら…と浮き上がって、上空の渦へと消えて行った。
…ウォーリアは、それを視界の隅で見届けた。
頭を強く打たれ、視界が歪み、痛みと吐き気が酷い。
こめかみから流れ出た血が、髪に絡んで酷く不快だった。
えずくまい、と。
ウォーリアは必死に浅く粗い呼吸を繰り返す。
…そんなウォーリアに。
ガーランドは足を掛け跨ぐようにして上になった。。
「…?」
霞む目で敵を見上げる。
憎悪に、爛、と光るガーランドの目。
薄暗いこの場所では、僅かな光を地上に投げ掛ける空を背にしたガーランドが、逆光の為、爛と光る1対の目以外はまるで人の形をした黒い影の様で。
ガーランドの影、その輪郭だけが、銀と黒の鎧の色彩を保っていた。
ガーランドの背後の上空では、音もなく回り続ける赤黒い渦が見えていた。
ガーランドはウォーリアを仰向けに転がし、腰鎧の継ぎ目に大剣の刃を当て、力を込め圧迫してきた。
「っ、痛…!」
ウォーリアは痛みに呻く。
同時に、嫌な音がして、腰鎧の継ぎ目の金具が壊れた。
大剣で壊れた腰鎧を剥ぎ、捨て。
ガーランドはウォーリアの腰の位置で馬乗りになり、抵抗出来ぬよう脇を膝で締めてきた。
「…っぐ…!」
胸と背に大きなダメージを負ったウォーリアには、これが相当辛くて。
顔を歪めて苦悶の声を上げ、身を捩る。
ガーランドは委細構わず、大剣を再び持ちかえ、床と垂直に剣を構えると、切っ先を利腕の肩に当ててきた。
…嬲るつもりか!?
頭を打たれ霞む目で、ウォーリアはガーランドを睨め付ける。
ガーランドは一切を無視した。
切っ先が、勢いを付けて打ち下ろされる。
「…っ…!」
鈍い、酷い音がして。
ウォーリアの肩鎧が破壊され、骨にまでその衝撃が届いた。
指先に力が行き渡らなくなり、手から剣が外れる。
切っ先が移動し、反対の肩へ。
「っ…が、ぁっ…!」
やはり肩鎧が破壊され、肩が破壊された。
…が。
その頃には何故か、ガーランドの視線から、自分への殺意は抜けていて。
「…?」
憎悪のみでもって自分を見下ろすガーランドを、ウォーリアは苦痛の混じる不信の眼差しで見上げた。
何故殺意を消した?
私に憎しみを向けても、私を殺める気は無い…のか?
その不信に、ガーランドは応えない。
…不意に。
ガーランドが大剣を納めた。
「…、…?」
ますます不信に思い、ウォーリアは眉根を寄せる。
…ガーランドの、鋭い爪を持った手が、ウォーリアの首に伸びてきた。
そう、来る、か!?
ウォーリアは苛立たしげにガーランドを睨み上げる。
最も苦しむ方法で殺めようとするのか!?
殺意も無いままで!
…伸びてくる手を避けようとして。
ウォーリアは自由の利かぬ身体で顔を逸らし、抜け出そうと足掻く。
ぷつ、と。
ガーランドの中指の先の爪が、ウォーリアの喉に傷を付けた。
「…貴様さえ居なければ…」
聞こえたのは、ガーランドの呪詛。
「…?」
ウォーリアは、ひた、と身動ぎを止めた。
それは、先程の怒号とは違い、ウォーリアへの呪詛の他に、ガーランド自身への言い訳も多分に含まれている…ように…聞こえて…。
ウォーリアは問い質そうと息を吸い、視線をガーランドへ戻そうとした。
…それよりも一瞬先に。
ガーランドの利手が、ウォーリアの黒い鎧下衣を、首から腹まで一息に引き裂いていた。
「!?」
…解らない。
ガーランドが、何をしたいのかが解らない。
憎しみは殺意にまで到っては居ないのか。
ならば何故自分に、そんな半端な憎しみを抱いているのか。
自分が憎いなら、何故己に対しての言い訳が出てくるのか。
一体、ガーランドは何をどうしたいのか。
…どうしたら。
どうしたらガーランドは救われるのか。
「…。…?」
…自分の黒い鎧下衣を裂き。
全く動きを止めてしまったガーランドを、ウォーリアは静かに見上げる。 
胸と背に受けたダメージと。
頭に受けたダメージと。
脇を締められている苦しさに呼吸が上がり、冷や汗が流れる。
…が、それでもウォーリアはガーランドを見上げた。
「…何故だ」
お前は一体、何がしたい。
そう問い掛ければ。
「――――――――!!!」
ガーランドから発せられたのは、最早声にもなっていない絶叫だった。
馬乗りになったウォーリアから跳ね退き、1度納めた大剣を抜き、神殿の壁を打つ。
床を打つ。
崩れ欠けた天井を打つ。
なだらかな坂に敷かれた赤い敷物を。
その両脇の段を。
半ばから折れている柱を。
神殿の扉を。
坂の上に置かれた玉座を。
荒れ、叫び神殿を破壊するガーランドを、ウォーリアは止めることも忘れ、ただ唖然として見ていた。
…何故だ。
…何故。
…。
…ややあって。
手酷く神殿を破壊したガーランドは、肩で息をしながら、倒れたままのウォーリアへ顔だけを向けた。
「…何故」
ウォーリアは問う。
もう、解らない。
己が宿敵が、全く、解らない。
床に倒れたまま、ウォーリアはガーランドへ、もう何度目か解らぬ問いを投げ掛けた。
…ガーランドは。
そんなウォーリアを、初め、鼻で笑った。
その笑いは、次第にはっきりとした哄笑に代わり…。
やがてそれは大仰な。
…悲痛な。
盛大な、神殿内部に響くような高笑いとなっていった。
そうして、唖然としたままのウォーリアから視線を外し、破壊した扉の外へと目を向けて、乱暴に吐き捨てる。
「儂が教えるとでも思うたか」
それは、ウォーリアの今までの…。
そしてこれからの…。
全ての。
問い掛けに対する返答の拒否を示す言葉だった。
儂と貴様は敵同士なのだ。
それを忘れたか。
それで光の戦士か。笑わせる。
貴様の記憶が無いことは、儂にとっては丁度良いわ。
精々苦しめ。
ならば儂の胸も多少は透く。
…ウォーリア! と。
ガーランドが視線を向けていた扉の外から、仲間達の声がした。
仲間達が神殿内部へ、踏み込んで来ると同時にガーランドは姿を消した。
逃げるでもなく、引くでもなく。
何事も無く、ただ帰ろうとしただけのような。
…そんな…姿の消し方だった。
「ウォーリア!」
神殿内部へ踏み込んできた仲間達に、ウォーリアは視線だけを向けた。
踏み込んで来たのは、バッツ、クラウド、セシル、フリオニールだった。
…ティナが、私とガーランドが此処で戦っていることを察知しての人選だろうか?
ウォーリアはふと、そんな、どうでも良いことを考えた。
仲間達は、床に仰向けに倒れたウォーリアの姿を見ると、あからさまに表情を硬く引き攣らせて駆け寄ってきた。
全員、血の気が引いていた。
頭に衝撃を加えられていることを察知し、フリオニールがウォーリアのこめかみに手を翳し、真っ青な顔で、震えた声で、回復呪文の詠唱を始める。
「何をされた!?」
そんな声を上げたのはバッツで。
普段、飄々としたバッツが、顔色を蒼白にして、そんなに厳しく強い調子で、切羽詰まった声を発する程、私は酷い状態に見えるのだろうか?
ウォーリアは口を開いた。
「…彼の者と戦い…敗れただけ、だ…」
「本当にそれだけか!?」
「…?」
尚も問い詰めてくるクラウドに、ウォーリアは僅かに、首を傾けた。
フリオニールの隣で、セシルがウォーリアの胸の上に手を翳し、フリオニールと同じく、青い顔、震えた声で回復呪文の詠唱を開始する。
ち…と。
バッツが、彼からは聞いたことのない舌打ちをして、ウォーリアの肩に手を翳し、回復呪文の詠唱を開始した。
「戦闘以外では、本当に何もされていないのか!?」
「…」
クラウドの問いに、ウォーリアは答えに窮する。
私は何かされただろうか?
何故、皆、これ程必死だ?
「バッツ、セシル。回復が終わったらウォーリアが口を割るまで此処に居てくれ。フリオニール、俺と一旦ホームに戻ってくれ。3人が戻るまでホームの奴等を宥める」
クラウドの言葉に、詠唱をしながら3人が頷いた。
「クラウド――」
「ウォーリア。本当に何もされていない奴ならな、そんな顔しないんだよ」
…そんな、迷子みたいな表情はしないんだ。
…その言葉に。
ウォーリアは返す言葉も無くて。
そのまま静かに目を閉じて息を吐いた。
その場では、それしか、出来なかった。
…ガーランドが破壊した神殿の瓦礫が。
重い音を立てて浮かび上がり始めていた…。
再び、目を開ける。
上空に、音のしない渦が、ゆるり、と回転している様子が見えた。
特に静寂が嫌いな訳ではないが。
出来ればあれに、轟、とでも音が欲しい、と。
ウォーリアはそんな…。
そんなことを…少し…。






リクエストありがとうございました!
遅くなりまして、申し訳ございませんっ…!!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

永藤様へ。精一杯の感謝を込めて。


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