無題2 | ナノ


 聖騎士の鎧が大きな樹の影に立っている。
 …聖騎士の鎧「だけ」が。
 整理して収納できるようにしておかず、あえて樹に立てかけて立たせておいたのはティナだが、一体何の意図があってそんな真似をするのだろう。いや、それよりもその鎧の中身はどこに。
 聖騎士の鎧、その首を通す部分にぽっかりと空いたカラの虚ろをしばし眺め、クラウドは踵を返した。あの鎧の上に、白く輝く銀髪と柔和な美青年の顔が乗っていないと落ちつかないものだ。
「セシル?」
 とりあえず呼びかけたが、答えは返らない。見える範囲にいないし叫んで呼んだわけでもないのだから、近く(=呟くように呼んで聞こえる範囲)にいないのはわかった。
 さて。
 クラウドはいつも通り、やや俯き加減でゆったりと歩きだす。いざ「セシル」とセシルに呼びかけたらどういう反応がくるかと、頭の中で妄想のセシルに何度も呼びかける。
「なに?」それっぽいが、実際のセシルはそこまでやわやわした喋り方ではない。
「はい、呼びましたか?」…いや、自分リーダーじゃないし。セシルが自分に敬意をもつ意味がわからない。
「何だい?」有力候補。
(無言でこちらを見る)ありえない…とは言い切れない。ただ、首を傾げるとか笑うとか、とにかく愛想はいいと思うが。誰かより。
「え?」なぜこれが一番ありそうだと思うのだろう。
 やがてクラウドは、いくらも歩かずに目的のものを見つけ出した。鎧が立てかけてあった場所からほんの少しだけ離れた別の樹の傍に、裸のセシルが横たわっていた。(おそらくはカオスの誰かの攻撃で)火傷をして、ポーション待ちというところか。腹の左の方と首の付け根にただれた部分があり、皮膚が少しめくれて湿っていた。しょうもない怪我をして、治すほどでもないと思って放置しておいたら膿んでしまった時のような臭いがする。
「セシル」
「ああ。クラウド」
 実際のセシルの反応は、クラウドの妄想の中のセシルたちのどれとも違っていた。籠手もない裸の右腕を上げてご挨拶。
「見張りも、癒し手も、誰もいない…」
 クラウドは周囲を見渡してぼやいた。怪我人が無防備で寝ているのだから誰か横にいるべきだと思うのだが。
「見張り? 必要ないよ」
 はたりと落ちたセシルの右腕が何かに触れた。指先の動きを目で追ったクラウドは、傍らに投げだしてあったセシルの武器を見てとる。誰か敵に見つかったら、自分で何とかできるから見張りは別に必要ない、と。
「アンタ、『肉を切らせて骨を断つ』みたいな性質だろう。鎧なしで勝てるか? 怪我して寝てるのに、余計怪我するんじゃないのか?」
「かもしれないな。でも、皆それぞれやることがある。それこそ『余計怪我する』くらいで済むなら、自分のことは自分でやる」
 厳しい口調で言い切った後、セシルはクラウドを見上げて柔らかく微笑んだ。
「…とはいえ、できることなんて敵に注意しながら寝転がってポーションを待つことだけなんだけれどね」
「誰がポーション取りに行った?」
「…コスモス」
 駒の為に? ちゃんと余力は残してあるのだろうな、女神さま。土壇場であんたが倒れたら困るぞ。
 クラウドはセシルの腹の横辺りで腰を下ろした。コスモスが戻るまで、見張りくらいは引き受けてやろうと思う。
「立てないか?」
「立てるけど変に動いたらずる剥けるから動かない」
「ウ…」
 見た目よりは酷い火傷だったようだ。寒気に目を閉じたクラウドは、その変な不快感と浮遊感と悪寒が収まってからセシルの体をざっと見た。
 優男だが肉体的には仲間達の中でもトップクラスにごつい。とはいえ不格好ではなく、怪我をして横たわっている今でさえ戦士的な色気は十分に含んでいる。あの長い槍のような剣は実は結構重いのか、肩や腕には相当の筋肉。胸もまぁまぁ。腰で多少細くなり、また(相応に長いが)筋が張って盛り上がった太い足へと続く。裸身で寝ているからには男として彼の体の一部が非常に(比較的な意味で)気にはなったが、クラウドはあえてその辺りはスルーした。腹の方が火傷は酷いようだ。中心部が少し破れて黒ずんで、水が垂れている。首の方の火傷は、皮膚はややふやけて捲れていたがただ赤いだけで、それほど悲惨でもない。損傷部分の端の方は、赤さが白い肌と筋肉の筋の盛り上がりに溶けていてかえって美しかった。…怪我を美しいだと?
「そうか、破壊美か」
 なぜ綺麗と思うのか。その答えを探したクラウドは、数秒もかからずに求めた答えを見いだして手を打った。セシルが苦笑する。
「何だ、それ」
「いや、笑ってるが、あるんだぞ本当に。美女と傷の組み合わせは古典の昔からエロティシズムだ」
「大真面目に語らなくていいから。それと僕は美女じゃないから」
「似たようなものだろうが。なんで化粧してるんだ」
「化粧してるから美女と似たようなものなら皇帝もか」
「真面目に、そうだと思う」
「ケフカ?」
「悪かった」
「許す! …あのね、僕の化粧は洒落てるのでも女装してるのでもなく権威の誇示。皇帝もそうだと思う。ケフカは趣味だろうけれど」
 大仰に言いきった彼は、その後すぐに柔らかい口調に戻した。…さっきもそうだ。威勢よく、あるいは権威たっぷりに何かを言った後、即座にそれを自ら崩すような優しい声と顔に戻す。まるで意識して優しく弱い喋り方を実践しているように。どちらも「らしい」から不自然ではないのだが、ならば男性的な態度の方を隠すのはなぜだ。どちらもセシルだろうに。
「権力者であって、それを誇示するくらいには誇りに思っていながら、そういう態度は取りたくないのか」
「それくらいでちょうどいいんじゃないかな。どうしてもの時に独裁するくらいで。権力に固執すれば皇帝みたいになってしまう」
 色々考えているらしい。
「王は国民を庇うものだ。だから国民はお礼に権力をくれたんだ」
「…なるほど」
 クラウドは頷いた。セシルは常に誰かを守り庇い助ける戦士だった。その逞しい肉体は忌まわしきものの刃を自ら受けて傷つき、背後にあるものを庇うためにある。…剣を、突き刺すためにある。
 健常な皮膚との境目が煽情的で美しい火傷痕。均整のとれた肉付き。手も足も長いのにすらりとした印象はないという、奇跡の男性美。鎧を着ていては解らなかった。なぜ鎧を着るか。なぜ隠すか。いや防御力の為だというのは解っているんだが。
「庇い…傷つくための体か」
「うん」
「剣は力の象徴、闘争本能の表れ。闘争心は男の本能の一部。剣を刺す、という行動は時に別の行為を比喩する。あんたの体が他者の剣をその身で受けるための肉体なら」
「いや、待って、不穏だからやめて欲しいな、その話題」
「戦場においてあんたは受け取る、攻め入られる側、つまり女性に等しい」
「やめてって言ったのに」
「ポーションが届いたら手合わせを頼む」
「断る!!」
 何かを狙ったクラウドの言葉は、当然ながら全力で拒否された。



妹に、ウォーリアさんの裸体小説を書け! との無茶振りを受けたので、セシル裸体小説書いてくれたら書いたる! と無茶振り返しをしたら、本当に書いてくれやがりました。
何が萌えたってセシルが裸体なことでもなく、クラウドが横になってるセシルを見てたことでもなく、セシルがちょっとグロい怪我をしていることでもなく。
酷い怪我をしているのに普通に話せていることや、口調が統一されてないことにとてつもなく萌えた! 萌えたんだ!
…と、お礼と感想と共に妹に言ったら「おかしいんじゃないの?!」と言われてちょっぴり傷付きました。
でも書いてくれて有難う妹!
ウォーリアさん裸体話真剣に書くから! 覚悟しなよ!


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