3 | ナノ

他の敵の攻撃を避けながら、特殊強化された敵と戦うのは得策ではない。
故に強化された敵の攻撃を避けながら雑魚を削ることにした。
少しづつでも、敵の数を減らしていきたい。
そんな中。
強化された敵の攻撃を躱しつつ、ジタンが浅くない傷を負いながら倒した敵の数、およそ8体。
ジタンは長期戦が得意な戦士ではない。
長時間の戦闘で、無数の傷を負った身体が、いい加減、疲労を訴え始めていた。
「ちっきしょ…何体いるんだよ!」
ジタンの叫びに、
「あと5.6か、もう少しいるかな」
直後ろで応答が聞こえて死ぬ程ビビる。
「背中ががら空きだよ、ジタン」
言われて、柄にもなく焦っていた自分に気付いた。
「いつもはそんなことないだろう。今日は何かあったのかい?」
…らしくない、なんて自分でも解ってはいた。
自分から素材調達を言い出したこと。
年下に馬鹿と言われたこと。
仲間に期待されたこと。
連れに対して意地を張っていたこと。
そして、何が何でも、皆を驚かせられるようなものを持ち帰りたい、という、盗賊としての意地。
それらの思いの為に焦っていたのだ。総合すれば、朝の時点から調子が狂っていた。ということになるのだろう。
…何て死んでも言えない。
だから、
「夢見が最高だったもんで、調子に乗り過ぎた」
とだけ返した。
青い軌跡を残す『フリオニール』の斬撃を、身を低くして躱しつつ、その後ろの『ジェクト』に迫る。
一撃食らったら終わりになりそうな大剣の切っ先を上に飛び上がって躱す。
そのまま相手の頭上を越え…足場である浮遊岩の縁をも越え、頭から下の岩へ落下する途中、『ジェクト』の背面を二刀の刃で切り付けた。
『ジェクト』は一瞬硬直し、次に切り付けたその背面の傷から崩壊していく。
ノイズの掛かったような、しかし本人と同じ声の絶叫に、僅か、ジタンは眉根を寄せた。
そして、砕けた『ジェクト』の向こうからジタンを追ってくる『フリオニール』。
「お前は後だっての!」
慌てて宙を蹴り、下の岩へ急ぐ…が。
下の岩に立ち、こちらを見上げる『ウォーリア』。
「うわわわわっ!」
慌てて軌道修正をした。
特殊強化された敵2体が相手だなんて、いくら何でも分が悪過ぎる。
しかし、軌道を変えた自分を、2対の硝子の様な目が、ちらりとも外されること無く追ってきていて。
ざわり…と。
背筋が冷えた…。
『ウォーリア』に投げ付けられた盾は、避けられなかった。
回避しようとしたジタンの足首に、投げ付けられた盾の縁が食い込む。
骨が砕けた。
「――っ!!」
ジタンの口が悲鳴の形に開く。
が、このままその場に留まり続けては、斬撃の餌食になることは解っていた。
無事な足で宙を蹴る。
その足を。
『フリオニール』の放った矢が貫いた。
血が溢れ、熱を感じ、熱が激痛に変わる。
ヤバい…。マジで…。
『ウォーリア』が、敵に斬撃を繰り出す格好で飛び出してくる。
『ウォーリア』を援護する形で、後方から『フリオニール』が第二の矢をつがえていた。
足の自由が利かない中、その2体の攻撃をどれだけ防御できるものなのか。
ジタンは利き手に持った剣を身体の前に持ってきた。
防御しきれないことは解っていた。だが食らいっぱなしにはなれなかった。
今日はポーションを見つけられていない。ホームにも残はなかったから持ち出して来られなかった。セシルの白魔法にも限界がある。
今日これまで、先に行っていたクリスタルワールドでも戦闘が無かった訳ではないのだ。何度か回復もして貰っている。
ジタンは魔法に疎いが、その力が無限ではないことは知っていた。
…ここに来てしまったことを、心底後悔する。
『ウォーリア』の斬撃の前に、『フリオニール』の準備が整ったらしい。弓につがえられた矢の先が自分を狙うのをジタンは見た。
が、その弓が引き絞られるのと、白い光が立て続けに数回、『フリオニール』を貫くのは同時だった。
次いで、『ウォーリア』の剣撃がジタンを襲うが、その太刀も2度ジタンの刃を叩いだだけで、直ぐに白い光に貫かれる。
2体が標的を変えた。
「セシル!」
2体が向かった先に白い影を見付けて、ジタンは叫んだ。
「ジタン、上!」
帰ってきた応答に、上を振り仰ぐ。
視界に映った、『ジタン』と強化『ジタン』。
「…へ…へへ…」
もう笑うしかない。
「厄日だって。俺」
最奥部の最も広い足場に、受身を取りつつ背中から着地した。
膝で立ち上がり上の2体を睨む。
…死の香りが、した気がした。
「死ぬかも」
呟きに。
「させないよ」
なんて。
それ、いつもは俺の台詞だって。と。
強化型2体を退けたか、2体の『ジタン』とジタンの間に割って入ったセシルに軽口を叩いた。





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