名前も知らない貴女3 | ナノ

暫く…誰も口を効かなかった。
ざあざあと、木の枝や葉が風に揺すられる音だけが聞こえていた。
ふと…クラウドは、何の気無しに、ホームの方へとそれとなく気を向けてみる。
同時。
ホームの方向から、ウォーリアの幾分鋭い気が感じられて…。
クラウドは、ひくり…と、肩を跳ねさせた。
見れば、セシルも気付いているのか、ホームの方向へと視線を上げている。
敵の出現…を、知らせる気の張り方ではない。
とすれば…。
…そろそろ帰って来い…ということなんだろうな…。
クラウドは、どう切り出したものかとセシルを見た。
セシルは困った様に肩を僅か、竦め…。
…伝わったことは解るだろうから…という意味だろうか、肩を竦める以外の反応は見せなかった。
クラウドは視線を宙に浮かせる。
…森の外れであるこの場所は、木々が疎らなおかげで見晴らしは良く、遠くまでが良く見渡せた。
遥か彼方まで続くと思しき、月明かりに照らされた白い平原はしかし、近い彼方の大地の途中で不自然な空気の歪みに断ち切られ、先までを見通すことが出来なかった。
…溜息が聞こえる。
クラウドは浮かせていた視線を、溜息の主へと移動させた。
ジタンだった。
ジタンは利き手で頭を掻き…胡坐をかいた両膝を、両手で打って掴んだ。
ぱん、と。
小気味よい音がした。
「解らねぇこと考えても、結論なんて出ねぇよ。コスモスは今迄、俺達を助けてくれたし! 俺達は今、生きてる。当面はそれに満足しようぜ?」
らしいと言えばらしいその言葉に。
1拍置いた後…皆個々に…控えてはいたが心から…笑いを溢した。
「んで、だ!」
それに気を良くしたか、ジタンはにいっと笑ってスコールを見上げる。
「堅物のお前のハートを射止めたのは、どんなレディなんだ?」
…まさかこの流れで訊かれるとは、思っていなかったのだろう。
スコールは呆気に取られた様に、暫くジタンを見つめていた。
…が、ややあって。
スコールは、ふ…と何時もの表情に戻った。
…そうして、何か、枷でも外れたのか、動揺も躊躇いも見せずに答え始めた。
「性格やら付随するものは全く解らないんだか…。まぁ、取り敢えず自慢できるくらいには美人だ」
「なぬ?!」
こういった類の話題には、俄然乗り気になり目が輝き出すのがジタンらしい。
対して、クラウドは「美人」と言えたスコールに、半ば驚きの表情を見せて呟いた。
「顔まで思い出せたのか」
「詳しい容姿を求む!」
クラウドの直ぐ後に言ったジタンに、クラウドは軽く吹き出す。
スコールは、クラウドに軽く頷いて返答を返した後、ジタンに…皆に、言った。
「黒髪長髪。細部まではまだ曖昧だが、若干勝気そうな感じがした」
「黒髪美人! いいねぇ!」
にまり、と、満足そうなジタンに、スコールまでもが軽く吹き出した。
そうして、今度はジタンに問い返す。
「お前はどうなんだ?」
ジタンはにやり、と笑った。
「俺とスコールの趣味って、似てるのかもしれねぇぜ?」
その言葉に、心底嫌そうに眉根を寄せるスコール。
ジタンは吹き出した。
そうして答える。
「俺の彼女も黒髪美人! 勝気そうでさ! ま、でも髪は長くはなかったみたいだけどな」
「背は? ジタンより低いんスか?」
面白そうに…やはりこういった話は好きなのか、ティーダが目をきらきらさせてジタンに訊く。
ジタンは、う゛っ…と言葉に詰まった後、後ろにひっくり返った。
「う゛あ゛〜、解んね…。低いといいなぁ〜…!」
その様子に、皆笑った。
「ティーダはどうなんだい?」
ジタンをひっくり返させたティーダに水を向けたのは、セシルだった。
ティーダは首を傾けて答える。
「…顔まで思い出せてないんスよ…。夢みたいではっきりしなくて…。でも何か、凄ぇ頑張り屋で。優しいけど心は凄ぇ強くて。自分のことより人のこと大事にしちゃうコだった」
「いいコじゃん!」
ジタンが飛び起きて言った。
ティーダは嬉しそうに、自慢気に。胸を張る。
「勿論っス!」
「ティーダには勿体ないな」
スコールの、本気ではない茶々入れに、ティーダも笑いながら「何だと!」と返していた。
「セシルは?」
今度はティーダが、自分に水を向けたセシルへと、逆に問い返して。
「ん? ああ…」
セシルは緩く首を横に振った。
「淡い金髪で、いつも白い服を着ていた…ということ以外は、何も…。ただ…」
「ただ?」
興味津々なジタンにせっつかれて、セシルは苦笑した。
そして言った。
「溺愛していたよ」
「ぶっふわぁっ!」
ジタンとティーダが同時に叫んで、同時にひっくり返る。
「しれっと、そーゆーことが言えちゃう男になりてぇ〜!」
「なりたいっスねぇ〜!」
「なんだいそれ。言えばいいじゃないか」
苦笑しながらセシルが言うのに、クラウドは笑いながら手を顔の前で振ってみせた。
「こいつらの歳では、まだ無理だな」
「なんだとぉっ!」
2人同時に叫んで、同時に跳ね起きた様子に、クラウドは肩を竦めて笑ってみせた。
「そう言うクラウドはどうなんだ」
と、問い掛けてきたのはスコールで。
クラウドは空を仰ぎ見る。
…さて、色々な意味で雲行きが怪しくなってきた。
「…そろそろ戻ろうか…」
そう言って腰を上げれば、口々に飛んでくる非難。
「ずるいっスよ自分だけ言わないとか!」
「言うまで帰さねぇぞ!」
「…クラウド」
「居ないことはないんだろう?」
…さて困った。
クラウドは皆にくるりと背を向ける。
そうして、重い口を開いた。
「クラウ――」
「…思い出せたのは、ティナとは似ていない、ということだけなんだが…。確かに大切にしていて…」
へえ…! と、背後で上がる声をクラウドは聞いていた。
…溜息でない息を吐くのは、今夜、これで何度目だろうか…?
クラウドは、もう1度口を開いた。
「…2人…同時に思い出せてしまってるんだが…」
……………………。
…は?
と。背後で唱和する声。
クラウドは首を軽く横に振った。
「…どっちだろうな?」
と、クラウドが振り返った瞬間。
先程にも勝る爆発的な非難の声が上がり…。
解った! 解ったから! 今は夜だから…! と、クラウドは慌てて宥めることとなった。
風は強くはなかったが、冷たく。
彼方に、少しづつ。
厚い雲が見え始めていて…。
それを口実に、クラウドは皆を強引にホームへ戻そうと四苦八苦していた。

「セシルお前も文句言ってないでこいつらを帰らせろ! そういう立場だろ!」
「…。よし解った! 皆、今回は帰ろう。ジタン、ティーダ、君達はクラウドと同じテントだろう? 尋問を頼んだよ」
「解った任せろ。よ〜し帰ろうぜ〜」
「ちょ…、ちょ…!」
「スコール。どういうことなのかがっつり訊いて、明日教えるっス」
「頼んだ」
「いやだから、俺にだって大部分は思い出せてない…おい、頼むから聞け!」





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

ホシノヤドリギ様へ。精一杯の感謝を込めて。


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