話題は何でも良い | ナノ

「スコールのジャケットのファーってさぁ。本物? フェイク?」
ジタンがスコールにこんなことを聞いてきたのは、気の知れた3人で頭を突き合わせて、テントの補修をしている時だった。
何故補修等しなければならなくなったのか…。その理由は至極簡単明快。
朝方、テントの中で悪ふざけをして遊んでいたバッツとジタンが、敷いてあった敷布に足を取られてバランスを崩し、テントの壁布に突っ込んだ。
ただそれだけの話だ。
流石に丈夫な厚布であるからして、テントのどてっ腹に大穴が空く…等ということはなかったが、杭で止めた四つ角の布が、杭を刺してある穴の部分から嫌な音を立てて豪快に裂けた。
…そして今に至る。
当然、皆にこっぴどく叱られた。
勿論2人が。
自分は関係無い。
寧ろ2人を止めた側なのだ。
当然、お咎めはスコールには無かった。
…だが何故かスコールは、テントの補修を手伝っている。
「…そんなことより、何故俺が手伝わなければならないんだ」
ジタンの質問に答えるより前に、こんな愚痴が漏れるのも、仕方ないことだと思う。
「えー。だって俺達が頼んだら「やる」って言ってくれたじゃん」
と言ってきたのはバッツで。
なー? と、顔を見合わせて首を傾け、声を揃える2人に、スコールは思わず額に掌を当てて溜息を吐いた。
何故スコールが2人を手伝っているのか。
その理由も、実は至極簡単明快。
2人に拝み倒されて嫌と言えなかった。それだけだ。
つくづく舌の回らない自分が嫌になる。
しかも何だあんた達。人に頼んでおいて、頼む必要も無いくらい作業早いってどういうことだ。
俺が手伝わなくたって充分2人でできたことなんじゃないのか?
「で、スコール、そのファー、どうなんだ?」
初めに手を着けた部分の補修を早々に終わらせて、1つ残っていた厚布の裂け目部分に手を伸ばしながらバッツが言った。
…。
本気で俺、要らないだろう…。
スコールは溜息を吐いた。
手元の補修は、終わるどころかジタンの作業の半分も終わっていない。
大体こんな、原始的かつ本格的な野営テントなんて最近触り始めた人間に、補修をやらせるのはどうかと思う。
スコールは重たい口を開いた。
「…これはまだ訓練生の時に買ったんだ。本物な訳ないだろ…」
溜息混じりに呟く。
…。
…が。
呟いた後、2人から反応が返って来ない。
スコールは顔を上げた。
…別に、反応が無かったことが寂しかった訳では決して無い。
断じて無い。
視線を上げた先の2人は、ぽかんとしていた。
バッツが口を開く。
「…傭兵って…訓練中でもそんなに金貰えるのか…?」
「は?」
スコールは首を傾けた。
「そんな訳無いだろう。訓練生でも出来る警備くらいなら、依頼が回ってきて多少の金が入ることは有るが…普通は皆バイト――簡単な仕事をして、かつかつでやっている」
本来なら、ガーデン内で暮らす分には金等必要無い。
大抵は支給されるし、それで事足りる。
支給された分は、SeeDになってから返す、と。
こういうシステムの筈だった。
実際には皆、嗜好品…スコールの様な、好みの服やアクセサリー、菓子やゲームカードを求めて、バイトをしていたと思う。
だからスコールはそう言ったのだが…。
…。
それを聞いた2人の反応がどうもおかしい。
「ん? じゃあその…簡単な仕事ってのが高給な訳?」
今度はジタンが首を傾けて言ってきた。
「…?」
スコールは眉根を寄せて首を傾ける。
どうにも話が噛み合っていない気がする。
暫く逡巡し…口を開いた。
「もしかして…あんた達の世界では、フェイクファーの方が高いのか?」
スコールの問に、2人は顔を見合わせ…次にスコールに向き直り…2人同時に頷いた。
スコールはがっくりと首を落として溜息を吐いた。
それぞれ別世界から召喚された身。多少の価値観の違いやズレがあることは承知していたが…まさかこんなところにまでズレがあったとは思わなかった。
「…俺のところでは、フェイクの方が安い…」
そう呟けば、「へぇ〜!」という感嘆の声が2つ、返って来て。
「肌が弱いお姫様が着ても、肌が赤くならないような優れ物が安く手に入るなんて、凄ぇ!」
と、ジタンが言えば、
「だよなぁ。普通フェイクファーなんて庶民には手が届かない代物だもんなぁ」
なんて、バッツが返していた。
スコールは手元の厚布に視線を落とした。
何とか補修は進んではいる。
…が、余り上手くはない。
スコールは顔を上げた。
「…あんた達の世界のフェイクファーが何で出来てるかは知らないが…」
そして言った。
「俺のところのはポリエステルだからな…」
「それってどんなモンスターなんだ?」
けほっ!
空かさず入ったバッツの問いに、スコールは咳き込む。
…そうだった…と、思った。
価値観の違いの他に、カルチャーギャップという敵が居たことを忘れていた。
スコールは軽く首を振る。
「バッツ、あんたがよくやってくれる薬の調合と似たような感じで…何かと何かを合成して作った繊維のことだ。それを使うから安いんだ」
繊維自体も、高いものではないだろう? と、大分端折った説明をしてみた。
種類はこういうのがあって、材料費や作り方がこうだから安い…なんて説明していると夜になりそうだと思ったのだ。
が、2人にはこれで充分通じたらしい。
「繊維なんて合成して作れんのかよ?! 合金でさえすっげぇ難しいのに! 進んでるぅ!」
ジタンの目がきらきらと光りだした。
…手元の補修はちっとも進んじゃいない。
ちらりとジタンの手元に視線をやると、もう補修は終わっていて。
スコールは手元の厚布を投げ出した。
「もうあんた達だけで出来るだろう」
ジタンが、まぁまぁ、と宥める調子で寄ってくる。
「最後まで頼むって。な?」
やり方教えるから、と両手を顔の前で合わせて迫って来るジタンを睨む。
「下手なのは見て解るだろう。何で俺が―!」
叫びかけたスコールに、畳み掛けるようにバッツから声が掛かった。
「3人でこーゆーことが出来るようになれば、こーゆー感じで駄弁っていられるじゃん?」
だから出来るようになってくれると、俺達凄ぇ嬉しいんだぜ? と。
にい、とした笑顔でジタンに厚布を差し出されて。
受け取ってしまう自分の行動に、スコールは真っ赤になった。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

jiji様へ。精一杯の感謝を込めて。


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