偶には兄妹的に | ナノ

ティナの鼻先に、ふわり、と。
良い香りの綺麗なものが飛んできた。
と思ったら、ほわ、と弾けた。
「…?」
ティナは瞬きする。
首を傾げたティナの鼻先に、それはまた、ふわり、と飛んできた。
透明で丸くて、表面に虹色がゆらゆらと流れている。
…と思ったらまた、ほわ、と弾けた。
ティナはまた瞬きをする。
そのまま待っていれば、また飛んでくるのではないか。そう思って待っていると、上からくすくすと笑う2つの声が穏やかに降ってきた。
ティナは上を見上げる。
武装を解いたセシルとバッツが、木の上の、横に張り出した太い枝に腰掛けてティナを見下ろしていた。
「おいで、ティナ」
「来いよ、ティナ」
2人に微笑み掛けられて、ティナは何だか嬉しくなる。
地面を蹴って宙に浮き、そのまま2人の居る枝の高さ迄舞い上がった。
2人が間を開けてくれたので、ティナは2人の間に腰を下ろす。
少し視線を下げると、そこからホームの様子が一望出来た。
深い森の中に偶然見付けた、ちょっとした空地のホーム。
柔らかな色合いのテントは、その空地の外れに、今日は2つ。
中央には、夕方からの炊き出しの為の、ちょっとおおきな薪の山が組んであった。
直ぐ近くに、焚火に足す為の薪の山もあって。
生い茂る木々の葉を通して淡くなった日の光が、地面に風と同じ旋律で、揺れる模様を描いていた。
その中で、皆思い思いに時間を過ごしていて。
ウォーリアは向こうの木の根元に座り、幹に背中を預けて剣を磨いており、ティーダはそんなウォーリアと同じ幹に背中を預けて、ウォーリアから時々何事かを教わりながら、自分の剣の手入れをしていた。
スコールはフリオニールと何事か話しており、ジタン、オニオンは、手合せでもした後なのだろうか、下草の上に引っ繰り返って眠ってしまっていた。
クラウドまで、その2人とは若干離れた所で、木の幹に身体を預けて居眠りをしている。
楽しくなって、思わず笑ったティナに、両側からティナと同じ種類の笑い声が聞こえた。
「良い場所だろ?」
得意気に笑うバッツに、ティナは頷いて、素敵ね、と応える。
俺が見つけたんだ、と、応えるバッツに、でも…、とティナは言った。
「バッツ、高い所は苦手だったでしょう? 大丈夫なの?」
バッツは、にひ、と笑った。
「このくらいの高さなら、平気」
言いながらバッツは、ティナに小さな木の椀と草の茎を渡してきた。
椀に入っていたのは、白濁した水。
先程、ティナの鼻先に飛んできたものと同じ香りがした。
「…?」
きょとん、としたティナの横から、セシルが、ティナがバッツに渡されたものと同じような草の茎を、膝上に置いた椀へ差し入れてきた。
…と思ったら直ぐに引いた。
「?」
不思議に思い、訳を聞こうとバッツを振り返る。
直ぐ側にある、バッツのきらきらした目と目が合った。
「見ててみな」
言われて、ティナはきょとんとした表情のまま、今度はセシルを振り返る。
セシルは珍しく、悪戯好きな表情を浮かべてくすりと笑うと、手に持った草の茎の端をくわえて、そっと息を吹いた。
直ぐに反対側の端から、透明な球体が膨らむ。
表面に、虹色がくるくると踊っていた。
適当な大きさになると、それは茎から離れて、ふわりと風に乗った。
先程、ティナの鼻先に飛んできたものと同じものだった。
「わぁ…!」
ティナは思わず感嘆の声を上げる。
「バッツがさ。いつも石鹸を作ってくれるだろう?」
セシルが言った。
「その石鹸を溶かしてやる遊びだって、さっきバッツに教えて貰ったんだ。よくやってた遊びなんだって」
やってごらん、と言われて、ティナはうきうきと頷き、貰った茎を椀の水に差し入れた。
茎を椀から引くと、口にくわえて、そうっと吹いてみる。
直ぐに透明で綺麗な球になった。
ふわ、と風が吹いてくると、それは茎の端から離れて宙を泳いで行く。
木漏れ日が球の虹色に反射して綺麗だった。
「凄ぇじゃん、ティナ!」
これ、意外と加減が難しいんだぜ? と、嬉しそうなバッツに、ティナは満面の笑顔で、ありがとうと返す。
そんなバッツが椀に茎を差し入れて来たのでそのまま見ていてみる。
茎を口にくわえて吹く。
そこまではティナやセシルと同じだったが、バッツがそうして作りだした球は、ティナが見ている間にみるみる大きくなっていった。
バッツの頭くらい大きな球にすると、バッツは茎から口を離し、茎を軽く振って球を茎から離す。
そのくらいの大きさになると、もう球の形を保てないのか、風に揺られるまま、ほわほわと形を変えながら飛んで行った。
ティナも真似をして、大きく作ってみようと茎を吹く。
が、途中で風がさらって行ってしまったり、弾けてしまったりで、中々上手くいかない。
むぅ…とするティナの肩を、セシルが突ついた。
「見ててごらん」
言われて、セシルが茎を吹くのを見ていてみる。
セシルは少し強く茎を吹いた。
小さな球が幾つも幾つも飛び出しては宙に舞い、3人を囲む様に漂いだした。
「わぁぁ…!」
これなら出来そうだ。
ティナは椀の水に茎の先を付けると、口にくわえて宙に向けて、そうっと…しかし少し強めに…吹いてみた。
大きさの揃った小さくて綺麗な球が、セシルが吹いた時よりも沢山飛び出してきてくれた。
「上手いなぁ、ティナ!」
嬉しそうに2人が言ってくれて、ティナは喜びで頬を紅潮させながら、ありがとう、と返した。
暫く3人で、その綺麗な球を作っては飛ばして遊んだ。
バッツが一番大きな球を。
セシルが中くらいの球。
ティナは小さくて数の多い球。
ゆらゆら、ふわふわ。
木漏れ日に当たって眩しく光りながら、それらはゆっくりと下で過ごす仲間の所へと飛んでいった。
初めにフリオニールが気付いた。
フリオニールは上を見上げ…風に舞うその透明な球の群れを見付けて、目を見開き口元を綻ばせた。
フリオニールと話をしていたスコールは、フリオニール同じように上を見上げて、いつもあまり動かさないその表情を、僅かに穏やかなものに変えた。
ティーダは流れてくる球の舞いを見付けると、顔一杯に喜色を浮かべて寄り掛かっていた木の幹から跳ね起き、その流れを次々に目で追い始める。
ウォーリアは群れを外れて漂ってきた球に触れようとして…止め、その手でそっと扇いで群れに戻した。
ジタンとオニオンはいつの間に起きていたのか、下草の上に腕を枕に仰向けに寝そべって、上を流れていく球を見送っていた。
ジタンが片手のグローブを外し、指先を舐めて下に降りてきた球に触れると、球はジタンの指先に止まって揺らめいた。
オニオンが、真似をしようと指先を舐めて球に触れると、しかしそれは弾けてしまい。
ムキになって上半身を起こし、球を目で追うオニオンを、こちらもいつの間に起きていたのか、クラウドが木の幹に背を預けたまま、僅かに笑って見ていた。
ティナは細かな球を作るのを止め、最初の大きさの球を作ってみた。
それを見た両側の2人が、今度はティナの真似をする。
似たような大きさの球は、3つ同時に茎から離れた。
ふわふわと漂う球は、やっぱり透明で、表面が虹色。
くるくると色が踊るその球に、日の光が当たって眩しいくらい綺麗だった。
3つの球は、風の向きの所為か、ゆっくりゆっくり、ティナに集まってくる。
両側の2人が笑った。
ティナは、嬉しそうにぎゅっと目を瞑った。
ティナの前髪が触れた3つの球は、3つ同時にぱちんと弾けた。





リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


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