激しく呆ければキツく突っ込まれる訳で… | ナノ

「だ〜から、俺は計算だって!」
「嘘吐け〜」
「いやマジだって! なぁスコール」
「…知らん」
「ほらみろ!」
「待てって。スコール知らないしか言ってねーじゃん?」
「計算かどうかなんて知らないと言ったんだ。表面上ジタンが正しいだろう」
「いぇ〜いっ! 俺正しいっ!」
「スコール〜〜〜、俺よりジタンが良いのか〜〜〜?!」
「っ離れろ暑苦しいっ!」
決して広いとは言えないテントの中、決して静かとは言えない声で騒いでいるのは、仲間内では仲良しトリオ…もとい騒がしい組の、バッツ、ジタン、そしてスコールである。
…因みに深夜である。
…因みにスコールはこの組扱いを偶に嫌がる。
一向に静まる気配の無い3人を、テントの隅で面白そうに見ているのは、ティーダで。
「仲良いっスね〜!」
見ていて面白かったらしい。
楽しそうに声を掛けるティーダに、バッツとジタンは
「だろ〜っ?!」
と胸を張る。
1人スコールだけは今回、
「一緒にするな!」
とかなんとか叫んじゃう感じだったが、ティーダの、
「ヤダ」
の一言で取り敢えず撃沈した。
「なあなあ! ティーダはどう思う? バッツ絶対自然体で阿呆だよな?!」
潰れたスコールを台にして、ジタンはティーダに詰め寄る。
そしてティーダが答える前にスコールに跳ね飛ばされて、テントの天幕に跳ね返って胡坐をした状態ですとんっと戻ってきた。
どうやら先程までの会話は、『バッツが天然か否か』だったらしい。
「そうっスねぇ…」
ティーダはバッツを見る。
自分より歳上の割に童顔である。
目がこれでもかという程きらきらしている。
面白いことが大好きである。
悪戯にかける情熱パネェ。
気が付くと誰かに怒られている。
あんま自分と歳変わんない気がする。
そしてこれ重要。罠に何度も引っ掛かる。
ティーダはジタンに向き直った。
「うん。アホだと思う」
「なんでだぁぁぁ?!」
という、しかし何故かまんざらでもなさそうなバッツの絶叫と、ジタンの大爆笑が響いた。
「あ、あとさ〜、俺、ティーダも天然だと思うぜ?」
言ったジタンに、良く言われるっス! と、何故かティーダは胸を張って応える。
そこは自慢にならない、という突っ込みは無い。
「なら」
代わりに、今迄潰れていたスコールが起き上がってきた。
…誰も構わないので寂しくなったのだろうがそうではないということにしておこう。
敷布に寝そべって、頬杖を付いた状態でスコールは言う。
「嗜めるのは誰だろうな」
要するに突っ込み役だ。
「突っ込み…ねぇ…」
その場に居る、スコール以外の声が唱和した。
流石仲間。スコールの嗜めるという言葉が何を差すのか、一瞬で伝わったらしい。
「俺が思うに」
寝そべったスコールが、足の膝から下をゆっくりと交互に上下させて、敷布を爪先で軽く叩きながら言った。
「ジタンは総突っ込みだと思う」
「おお、マジで?! 嬉しいね」
ジタンがスコールの言葉を受けて大きく笑った。
隣ではバッツが頬を膨らませている。
やめてくれ。20歳だろ頼むからやめてくれ。
「はいはーい! 俺は? 俺は?!」
身を乗り出して、ティーダは勢い良く手を上げた。
スコールは真っ直ぐに目をやる。
「あんたさっき自分で天然だって言ってただろ」
「そうじゃなくてー! 誰に対して何とかー! ジタンみたいに総何とか、とかー!」
「総ボケじゃないのか」
さっきの仕返しとばかりに返される、テンポの良いスコールの切り返しに、今度はティーダが撃沈した。
バッツやジタンは爆笑し、腹を抱えて転げ回る。
バッツが爆笑しながら、ティーダの肩をばしばしと叩き、栄誉じゃん、とか言って慰めていた。
先程の自分と同じ様に頬を膨らませるティーダに、バッツは益々笑いが止まらなくなる
「ひー! 苦し! じゃあさぁ! バッツ、スコールは?」
笑い過ぎて浮かんだ涙を拭いながら、ジタンはバッツに訊く。
「それがさあ!」
バッツもジタンと同じ様に、目に涙を溜めて笑いながら言った。
「ここだけの話、俺抜かした保護者組の間では、スコール結構天然で通ってんの!」
「な、に?!」
交互に揺らしていた足をぴたりと止め、頬杖から顔を浮かせてスコールがバッツを見る。
バッツは息も絶え絶えに笑いながら、興味津々で身を乗り出してくるジタンとティーダに身振りも加えて説明を始めた。
「俺達がさ、『おお、スコール格好良い!』って思うことがあるとするだろ? でもそれ、同じ場面をあいつらが見ると、なんか雰囲気ほわんっとさせちゃってさ! 『あれはわざとか?』『いや、あれは素じゃないか?』『素か』『あいつ可愛いな』って話になってる訳! 俺それ聞いた時はもうさ、もう――!!」
声真似を混ぜて説明していたバッツだったが、途中から後はもう笑いが過ぎて言葉にならないらしく、バッツ本人とジタン、ティーダは転げ回って笑い始めた。
スコールは憮然としようとした…らしいが、客観的に考えてみると確かにそれは笑える図で。
本人的に不覚にも、笑ってしまって顔を伏せた。
「バッツはさー」
ティーダが笑いで顔を紅潮させながらバッツに顔を向ける。
「天然嫌がってるけどさー、誰かに突っ込んだりする事あるんスか?」
「よくぞ訊いてくれた!」
バッツはティーダの背中をばしばしと叩く。
「俺保護者組では総突っ込みよ?」
「マジか?!」
3人の声が重なった。
「正確には、呆けるし突っ込みもする感じなんだけどさ。お前達にはあいつ等格好良く見えてるかもしんないけど、結構すっとんきょうなんだぜ?」
クラウドが寝呆けて服の表裏間違えた、だの、セシルが自分の細剣に蹴爪づいて足指痛めて蹲ってた、だの、フリオニールがそこらへんの木に気に入られて、涙目になりながら枝に絡んだ尻尾髪解いてた、だの。
「極め付きはウォーリアなんだよ! フリオニールに稽古つけてやってた時さあ! フリオニールの斧避けようとして体勢低くしたはいいんだけど、兜の角までは避けきれなくって、斧が角に当たって首、ぐきって、首、超痛がって、さ……っ!!」
「見てぇーーっ!!」
もう止まらない。
4人とも敷布を叩いて転げ回った。
「それ、それ絶対突っ込み待ちじゃないスか!」
「だろ?! 俺ちゃんと突っ込んだよ」
「何て言って突っ込んだ?」
「『そーゆーのは俺の仕事!!』」
「さっき呆けは嫌だって言ってたじゃん!!」
空かさず叫んだジタンの言葉とタイミングに、またしてもテント内が爆笑で満たされる。
「流石っスね〜、総突っ込み!」
ティーダの言葉に、ジタンはにかっと笑う。
「おう! もっと誉めろ」
「ヤダ」
「誉〜め〜ろ〜よ〜っ!」
そうして始まるじゃれ合い。
暫く互いを擽ろうと攻防をしていたが、ふと、ジタンが顔を上げる。
「そう言えばティナちゃんは純天然だよな」
応えたのは、珍しく…本当に珍しく、笑い過ぎで仄かに頬を紅潮させたスコールだった。
「あれは天然というより、単にものを知らないだけじゃないか?」
「あ〜、解ってないなぁ、スコール?」
寝そべるスコールにのしかかったのはバッツで。
「無知は最強の天然なんだぞ? 要するにスターテス!」
「ステータスだろどけ鬱陶しい!!」
突っ込みがてら怒鳴って、スコールはバッツをもジタンと同じ様に跳ね飛ばそうとしたが、逆に押さえ付けられて、肩の上で頬杖を付かれる始末。
こうなるともうどうにもならない。
「ティナは純天然だけど、それにしてはオニオンはティナに突っ込み入れないよな?」
諦めたらしいスコールの上で、バッツが言う。
3人は空かさず「無理無理」と声を合わせて顔の前で手を振った。
「あいつちょっとでもティナがズレたこと言ったら、直〜ぐ『それはね、ティナ』って始まるから」
ジタンが多少大袈裟に首を竦めると、ティーダが大きく頷いて同意した。
「俺なんかこの前、突っ込み待ちでわざとあいつの前で呆けたんスよ。そしたらすっごい呆れたような可哀想なもの見るような目で見上げられて!! 俺その後暫く『突っ込めよ!』ってオニオン追い掛け回してた」
『な、何だよ! 来るなよっ!!』
バッツがぽんっと、オニオンの声真似をしてみせる。
途端、再びテント内が爆笑で満たされた。
4人共敷布を叩いて転げ回ること転げ回ること。
「呆け殺しに呆け無視か。侮れないな」
「舐めて掛かれないよな」
一通り笑いの納まったスコールに、未だ腹を押さえて目尻を拭うバッツが言った。
その後はもう、誰がどれを言ったのか解らなくなる程に矢継ぎ早かつ笑いを堪えた甲高い声の応酬で。
「ウォーリアも呆けると呆け殺しに掛かるっスよね」
「違う違う。ウォーリアはそもそもこちらが呆けたらさらに呆けてくるんだ。ブレもなく。無自覚で」
「恐ぇ!!」
「成る程、呆け合いも全力の戦闘になるのか」
「ウォーリアなだけに?」
「勝てねぇーっ!!」
けらけらと笑う声はとめどなく…。
…。
もう一度言うが深夜である。
テントは厚布と言えど防音には一切役に立たない。
…今後の展開はお話しなくても良いような気がする。
…が、さわりだけ書いておこう。
「っ喧しいっ!」
突然。
テントの厚布でさえ引き破りそうな勢いで、ドスの利いた怒鳴り声と共にテント入口の布が捲り上げられた。
4人は硬直する。
暗闇でも判る程に怒りで爛と光る4対の目に、テント内は一瞬で静まり返った。
そこに居たのは、怒鳴り声を上げたフリオニールを始め、クラウド、セシル、それにウォーリア。
…要するにバッツの言う、『保護者組』。
暫くして、ティーダが上ずった声を上げる。
「…ど…どーしたんスか〜…? 皆してこんな夜中に〜?」
…テント内の温度が、確実に3度下がった。(後日、スコール談)
「夜中…という自覚はあるらしいな、ティーダ?」
フリオニールの先程の怒鳴り声を烈火とするなら、クラウドのこの声は、重力、または圧力。途方も無い重量。
身を寄せ合って震える以外、その時の俺達に何が出来ただろう。(後日、ジタン談)
「…さっさと寝なさい」
「明日の朝、話を聞かせて貰おう」
セシルの声は、例えるなら氷点下。ダイヤも凍てつく絶対零度。
ウォーリアの声、は、それら3つを合わせても尚足りない。例えなくても天変地異。
…頷かないと死ぬ気がした。(後日、ティーダ談)

…その後。
言うまでもないが、彼らは、しんと口を閉ざしたまま一睡も出来ず、さらに朝方にこっぴどい叱咤と仕置きを受けたのだった。
中でも一番酷い仕置きを受けたのはバッツで。
どよんっと真っ暗な雰囲気を纏い、膝を抱えていじけるバッツと、周りをおろおろとしているジタン、スコール、ティーダの姿が暫く見受けられたという…。



呆けるのは計画的に…。






リクエストありがとうございました!
ご希望に添ったものが書けているか解りませんが、少しでもお気に召して頂ければ幸いです。宜しければどうぞお持ち下さい。

リクエスト主様へ。精一杯の感謝を込めて。


リスト


TOP
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -