talk in your sleep
〜R×I〜




粉雪は降り止むことなく白い地面は高くなるばかり。
外で経営する道具屋や武器屋の店主は自分の店が一晩分の雪の中に埋もれぬようにと屋根の上の雪を落とし朝一の客のために店の前の道をスコップで切り開く。
こうして北の国、テノスの一日は始まった。

「ごちそう……さまっ!」

明らかに苛立っている声色のイリアはミルクの入っていたコップを宿屋のフロアの全員が驚くほど大きな音を立ててテーブルに置いた。
というより、叩きつけた、という表現が適切かもしれない。
皿にはまだ大半の料理が残っている。
そしてこれまた大きな音を使って椅子から立ち上がると今度はドスドスドスと階段を力強く踏みつけて二階の二人部屋へと戻った。
ちなみに彼女が食事フロアに来たときもそれはそれはご機嫌斜めで彼女の大雑把な身振りが更に大雑把で朝からミルダ一行は周りの別の客の視線を浴びせられているのだ。

「イリア姉ちゃん、どないしたん? ウチ、朝からあのテンションはついて行けへんわ」

至って大人な反応でイリアより年下とは思えない発言をしたのは八人用テーブルの端に座るエルマーナ。
それでも中身はちゃんと十三歳の少女でウィンナーにフォークをぶっ刺すと飛び散る肉汁も気にせず口を大きく開けて放り込む。

「おい、ルカ。お前イリアに何かしたんじゃねェ? なんてったって昨日は二人部屋だったもんな」
エルマーナと対局の席でいやらしく笑うスパーダ。
それでも中身はちゃんと貴族でウィンナーをフォークで押さえてナイフで小さく切り分けている。

「ルカ君に限ってそんなことあるわけないじゃない。スパーダ君じゃあるまいし」

不快そうにため息をつくアンジュにスパーダがオイ、と突っ込む。
いち早く食べおわったのか、アンジュはフォークを置いてナフキンで口を拭くと今度は隣の傭兵兼引率者と向き合う。

「リカルドさんはどう思いますか?」
「昨晩はスパーダの就寝が早かったから俺もすぐ寝た。……ルカの部屋については知らん」

淡々とリカルドはそう告げると残り少ないホットコーヒーを飲み干した。
オイ、とまたもやスパーダの突っ込むが飛ぶ。
するとリカルドの正面のキュキュが席を立ち、フロントからコーヒーポットを持ってきてリカルドのカップに注いだ。
白いゆげが立ち上がる。

「すまんな、キュキュ」
「はい。……イリア、とても怒てた。キュキュでも分かる」

その隣でコンウェイがふぅん、と声を漏らす。彼のガラスのコップにだけ緑色の飲料が入っている
そして皿にはプチトマトが残っている。

「ルカ君、ずっと黙っているけれど心当たりがあるのかい?」

今朝はキュキュより先に起きてベッドから出たので彼女に知られずに済んだが昨晩勢いでキュキュ相手に理性崩壊しかけた張本人コンウェイ。
誰も知らないのをいいことに白々しくルカに問い掛ける。

「ヒャハハハ、やっぱり……ルカ!」
「しかし、イリアの残した朝飯はコーダが食べるぞ」
「スパーダ君? 今は黙りましょうね?」
「ボクのプチトマトも食べてもいいよ、コーダ」
「おっちゃん、それ嫌いなだけやろ」
「みんな、話してること、違う……。ルカ、話しずらい……」
「キュキュの言うとおりだ。全員静かにしろ。……ルカ、心当たりがあるのか?」

リカルドの注意でみな黙り、ルカの返答を待つ。
そのルカは食事にほとんど手をつけておらず、ずっとうつむいていたようだ。
しばらく間を置いてからルカは口を小さく開いてぼそぼそと話しはじめる。

「僕のせい……かもしれない。心当たりはないんだけど、朝起きたらすごいイリアが睨んでて。……それで僕がどうしたのか聞いても、目を合わせてくれないんだ」
「つまり、理由はわからないがルカに原因があるのは間違いないな」
「無意識かよ……やべェな」
「ルカの分も食ってやるぞ、しかし」
「牙突衝!」


全員イリアの憤慨の理由は気になってはいたがいちいち議論している暇はない。
テノス付近にあるであろう記憶の場、そしてアンジュの誘拐を謀った貴族アルベール・グランディオーザの情報を集めなくてはならない。
全ては創世力のため。
八人は支度をすると早々に宿屋を後にした。



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