「そろそろ作り終わっているはずなんだが」
「うおっ! キッチンがめちゃくちゃになってる! ……メイドには悪いことしたかもな」
「(イリアのチョコ、イリアのチョコ、なんて言って貰えばいいんだろう!)」
「ふふ、四人ともがんばったみたいだね……」

お昼過ぎ、ついに男性陣がベルフォルマ家麗しのキッチンを訪れるとそこはまさに戦場だった。
使いっぱなしのまな板やボウルだけではなく、壁や床にまでチョコが飛び散っている。
そして独特の甘いにおいに包まれてどうすればいいのかわからず立ち尽くしていると。

「待たせちゃってごめんね、みんな」

キッチンの奥からエプロンを身につけた四人娘が現れた。
それぞれの手には包装された“ブツ”がある。

「あのなあ、ウチら男四人女四人でちょうどええやろ?」
「だからあみだくじであげる人を決めたのよっ!」
「あ、あみだくじ!?」
「ルカ、どうしたか?」

思わず声を上げたルカはきょとんとするキュキュになんでもないなんでもないと明らかに焦っている様子だ。
もちろんこの場にいるほとんどの者はその理由に気づいている。
自分に自信がなくイリアへの想いをうまく伝えきれないルカとイリアの素直でなくとも確かにルカに気をもっているという思春期の少年少女らしい小さな恋は旅仲間の間でほぼ公認だ(キュキュはまだいまいちわかっていないようだが)。
それを本人たちが気づいているかといえばまた別問題だが。

「はい、リカルドさんへは私からです」

まず始めにアンジュがすっと前に出て、水色の柔らかい布素材の袋をリカルドに手渡した。
リカルドは受け取り袋の白いリボンを引く。
そして袋から箱を取り出すと丁寧に開き、正方形の生チョコをひとつつまむ。

「すまないな、アンジュ。依頼に入っていない面倒なことをさせてしまったな」
「依頼なんて関係ありません。むしろこうやって感謝を形にしたいと前々から思っていたの。つくるのも楽しかったですよ」
「そうか。では頂くとするか」

何度かチョコの角度を変えて不思議そうに眺めるとリカルドは口にいれた。

「……ただの生チョコかと思っていたが。酒が入っているな」
「ええ。お口に合いましたか?」
「ああ、中々の味だ。残りは夜につまみにするか。……わざわざカードも、ありがとう、アンジュ」

アンジュが嬉しそうに微笑むのをみてリカルドもフッと口の端を緩める。
何より少女のような彼女のおちゃめな笑顔と薄化粧の下のほんのり赤く染まった頬がリカルドにとって新鮮だった。

「おい、エル。これお菓子じゃねェじゃん!」

突然スパーダのすっとんきょんな声がキッチンに響く。
彼の手にある開封された紙箱にはでこぼこした八つの球体。
しかも茶色のタレがかけられていて、なんと青のりがまぶされているではないか。
どこからどうみてもたこ焼き、である。

「さっすがスパーダ兄ちゃんや、ええ反応や。とにかく食べてみ? ほい、これで食べるんやで」

エルマーナから今度はつまようじを渡されて、スパーダは恐る恐るたこやきにぷすりと刺す。
そして口にいれると。

「これっ……シュークリームか!?」
「せやねん! せやねん!」
「タレはチョコレートか!?」
「せやねん! せやねん!」
「すっげェ。まんまとだまされたぜ。しかも青のりがいい味出してるな。ありがとよ、エル!」

興奮気味のスパーダはもうひとつたこやきもどきのシュークリームをほおばるとエルマーナの桃色のショートヘアをくしゃくしゃなでまわす。
えへへ、とエルマーナは照れると次は指を自分の口元に当ててこうささやいた。

「実はな、それだけやあらへん。それな、ひとつだけわさびがぎょうさん入ってん」
「マジでか!?」
「うっそやーん。ほんっと、びびりすぎやで。兄ちゃん」

エルマーナの冗談で最後にもう一本とられたスパーダだったが、彼の顔は本当に楽しそうでさらにひとつそれを口にした。





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