一体どれだけの間を上りつづけたのだろうか。
永遠に続くように思われた螺旋階段がついに終わりを迎える。
どうにか王都軍にかなり差をつけることができたようで何も知らない哀れな兵隊と哀れな信者の戦いの轟音も、上り始めに比べて全く聞こえなくなってきていた。
ここは、大天主マティウスが率いるアルカ教団の本拠地黎明の塔。
すなわち、始まりの塔。
かつて地に落とされた罪深き天上人の望み、天への帰還への強い信仰心の産物であることだけあってその高さはルカの知る世界で最高だろう。
しかし言うまでもなく元天上人の彼らが焦がれる天上界に塔が届くことはなかった。
それから長い年月が経ち、己が神だったということも、塔へかけた願いも、かの天上界の光景も、憶えている者はいない。
ルカたち転生者を除けば、だが。

「この奥に、マティウスと創世力が!」





夢の中の僕は





マティウスとの最終決戦を前にしたルカの声は緊張のためかいつもより更に上ずっていた。
後ろを振り向けばここまで旅をともにしてきた五人の仲間も真剣なまなざしをルカに向けてそれぞれ深く頷いた。
しかしそこでルカはすぐに気付く。
ただ一人、ルカから目を反らしてうつむく少女がいることに。

「イリア」

ルカの声に赤毛の少女がびくりと肩を震わせた。
髪と同様燃えるような赤い彼女の瞳は今にも泣き出しそうだ。

「私、苦しいの。私がルカにこの世界を滅ぼさせ、今でもたくさんの人々を──」

両手で顔を覆いながらイリアは小さい声で心の内を明かした。
その姿はまさに淑女、女神そのものだ。
そんな彼女にまず言葉をぶつけたのはスパーダだった。
彼の前世、聖剣デュランダルもまた、天上崩壊の引き金を引いたのだったがこの旅の中でスパーダがその記憶に囚われることは一度たりともなかった。
そんな彼の落ち着いた声が黎明の塔、最上階に響き渡る。

「今さら何を恐れている。前世に縛られては成せることも成せなくなる、とルカに言ったのはお前自身だろう」

続いて傭兵リカルドがライフルを強く握り、声を張りあげた。
彼の美しい黒髪が夕暮れの優しい風になびく。
最年長の彼はこれまでの旅でも仲間たちを引っ張ってきたのだ。

「しっかりしろ! この苦しみからも今、終わる! そう、今日のために! 俺たちは戦ってきたのだ!」
「リカルド殿のおっしゃる通りです」

自らの胸に手を当て、今度はアンジュがイリアに語り掛ける。
ナーオスの聖女アンジュ。
一度、ルカたちと刃を交えることになったが、彼女が心乱れたのはその時だけだ。
彼女は常に冷静沈着でその判断力にこれまでの旅も助けられてたことは数知れず。
そして決戦を目の前にしたこの時も彼女はいたって落ち着いていた。

「私たちのこれまでの戦い、それがこの愚かな戦争を終わらせる鍵になってきました。そしてこれから私たちはその鍵で最後の扉を開けようとしている。ただ進むのみですよ」

はっとして顔を上げるイリアに、仲間の中で最年少の少女エルマーナが肩を叩き、にかっと歯をみせてひまわりのような笑顔をみせた。

「そうじゃよ、イリア。わしがついておることを忘れたのかえ?」

最後にルカがイリアと向き合い戸惑いなく一息に彼女を抱き締める。
身長に大差ない二人であったがイリアはそれでもその温かい抱擁によって少しずつ胸の不安を消えていくのを感じた。

「イリア、俺を信じろ!」
「……ルカ」

六人の転生者は目をつむり、思い起こす。
遠い遠い昔、栄光の象徴天空城で全てが崩壊したあの日のことを。



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