novel | ナノ



03
 
ルフィがあたしを誘ってくれたあと、ゾロとナミさんを除いてみんながあたしによろしくって言ってくれた。ゾロはあたしをまだ疑ってるみたい。ちょっとやだけど、贅沢は言えない。だって、他の人はみんなあたしを歓迎してくれてるから。この船には個性的な人がたくさん乗ってる。
ミスコンに出たら絶対1位取りそうなビビにナミさん。ビビはアラバスタ――アバラスタ?王国の王女様なんだって!それで、その王国がいまバロックワークスとかいうところに潰されそうになっているらしい。今あたしがいるところについても、いろいろ話してくれた。話してるうちに、ビビがだいぶ常識人だっていうのはわかったけど、たぶんナミさんも常識人だ。だってちゃんと病気になってる。ルフィは風邪引いたことないんだって。
ビビのカルーはもふもふでかわいい。あたしもほしいくらい。それに、ビビと信頼しあってるのがよくわかる。
それから、船長のルフィ。こどもっぽくて、麦わら帽子がよく似合う。さらっさらな黒髪が羨ましい。あのおっきな目も羨ましいし。常に薄着で元気。すごいのはゴム人間ってとこ。"悪魔の実"を食べたらしい。ゴム人間だからびよーんって伸びる。おもしろい。
ルフィと仲が良いウソップは嘘ばっかつく、鼻の長い男の子。長い鼻の中に骨はあるのかと思って、試しに鼻を平手打ちしたら「痛ぇ」って怒られた。ウソップの話は、最初は信じてたけど、スケールがでかくなるとビビが決まって「名前、それ嘘よ」って言ってくれたから嘘つくんだってよくわかった。ちなみにルフィは嘘つくのが超下手。
あと、コックのサンジさん。サンジさんは女好きらしい。女の人がいると目をハートにして向かっていくんだって。ビビが言ってた。サンジさんが言うにはいつでも"レディーファースト精神"を持ってるから、らしい。でもそれって相当な女好きってことじゃない?あたしそういう人はあんまし好きじゃないんだけど、でも、あたしがナミさんの様子を見てると、たまに飲み物をくれる。優男っだ。まぁ、ほとんどルフィにあげちゃうんだけど。だってのど乾かないんだもん。ルフィがほしそうな顔するし。
それに、あたしたちの乗ってるこの船。ゴーイング・メリー号って言って、船首に羊がある。その羊の上にはルフィがよく乗ってる。ルフィは"悪魔の実"を食べたから泳げなくなったのに("悪魔の実"を食べると泳げない体になるんだってビビが教えてくれた)、何故かその位置が大好きだ。この船は、ウソップの知り合いがくれたらしい。詳しいことは知らないんだけど。

ある日、あたしとビビとサンジさんとカルーでナミさんの部屋にいると、突然船が傾いた。
「わっ!?」
あたしはすってんころりん、頭をしたたかにぶつけた。
「なんなのこの揺れはっ!!!」
「しっかり柁とれよ、ナミさんに何かあったらオロすぞてめェらァ!!」
ビビは転んでないし、サンジさんはと言えばナミさんのベッドをつかんで足で固定してる。…そりゃまあ海賊だから運動神経もいいんでしょうけれど。サンジさんや、あなたの足の筋肉どうなってるんですかい。
船はまだぐらぐら揺れて、だけどだんだん揺れも小さくなってきた。あたしの額のたんこぶはでかくなってきたけど。
「ビビちゃん、名前ちゃん、ここ頼むっ!!」
「ええ」
「イエッサー」
あたしはぴたんと敬礼して、階段を走りさるサンジさんを見送った。
「上で何が起こってるのかな…」
「さあ…。大きな波に飲まれそうになったとか」
「ああ、確かに。でも最近波は安定してたし」
「そうよね」
ビビも思案顔でうなずいた。
ナミさんの顔は依然として真っ赤に火照っていて、息も苦しそうだ。これだけの間ずっとこの調子だと、ただの風邪ではないのだろう。だけど、この世界にインフルエンザがあるのかすら分からないし、下手に手を出しても悪化しては元も子もない。だから今あたしにできることは、氷まくらと冷えぴた(紛い)と水を用意して見守ることだけ。なんもできないなんて、あたし使えない野郎だなあ…。今までどれだけ親を頼ってきてたかよく分かるし、自分がどれだけ無能で無力なのかが思い知らされる。あたしも、皆の役にたてるようになりたい。

ドドドドド!!!
突如、上が騒がしくなった。
「銃声……!?」
はっとビビが顔をあげて、「カルー、名前さん、ナミさんをみてて!!」
と叫んで階段をかけ上がって行く。
「グェ!」
「ラジャー!」
あたしたちは敬礼をビビの背中に返した。今のあたしの仕事はナミさんを見守ってること。カルーと二人で頑張んなきゃ!

しばらくしてから大きい音がして、一瞬静かになった後一気に人のどよめきが聞こえてきた。それからまた静かになってって、ビビもサンジさんも帰ってきた。二人が言うには、敵襲だったらしい。相手はなんかよくわかんない奴で、サンジさんに言わせると"ただのアホ"だったんだって。

まあ、相手がどんな奴であろうと。あたしがこの船においてもらってから初めての敵襲。あたしは何もすることはなかったし、何もできなかったけど、記念すべき日になった。