novel | ナノ



プラットホームでキスをして
 
「ウルキオラは二外何とったの?スペ語?」
秋だったか、冬だったか。落ち葉が風でかさかさと音をたてていて、LHRの時間に皆で焼き芋をしていた。あたしとウルキオラは火に手をかざして暖まってた。
「そうだ。名前はフランス語か」
「そ。スペ語か迷ったんだけどさー、やっぱ安定のフラ語かなって。
でもやっぱスペ語やりたいなあ。3年の全選でやろっかなあ」
その時、あたしはウルキオラとずっと一緒にいるんだと思ってた。こうやって普通にしゃべって、皆にイチャつくなよって冷やかされて、卒業しても一緒にいるかと思ってた。
高2の夏まで。

別れた原因は、あたしにあった。あたしが自己中だったから。ほとんどのことを黙って許してくれたけど、度が過ぎたんだと思う。
あの静かな声で別れようって言われたときには、一瞬で私の世界が白黒になった。だけど、仕方ないねって笑って言った。ほんとは泣きわめきたいぐらい嫌で、だけど馬鹿みたいに物分かりのいい女を演じた。あたし的には。

あたしの親友はあたしをあの手この手で慰めてくれた。彼女はいつも明るくて、よく笑った。
ようやくあたしも彼女のおかげで立ち直れた、その頃にあたしは友達の一人から話を聞いた。
――あの子、ウルキオラ君と付き合ってるんだって

事実、あたしは二人が仲良く登下校したりしゃべったりしてるのをよく見かけていた。天罰なのかなと思った。あたしがあまりにも自己中で。
あたしは彼女を責めたりなんかしなかった。ただただ憎たらしかった。彼女はウルキオラを好きになっただけなのに、あたしと同じなのに、なぜか憎たらしかった。それは認めようとしても認められない、目を向けて凝視するにはあまりにも醜い感情だった。


そうしてあたしたちは最高学年になって、受験生になり、卒業を迎えた。
あたしとウルキオラは関わりを失った。一言も交わしていなくて、心臓が干からびたようだった。
あたしは未練があった訳じゃない。二人の関係が冷えきってしまったことに、親友がウルキオラを寝とったことに、失望しただけだ。きっと、それだけ。

結局、あたしはウルキオラとしゃべらないで卒業した。たまに、まだ好きなのかなあって自問したけど答えは返ってこなかった。
これで、よかったんだと思う。何もなかったかのように、アホな女を上手く演じれたと思う。
ウルキオラがどう思ってるのかは知らないけど。


何年か経って、あたしの元に一通の結婚式の招待状が届いた。ウルキオラと、あたしの親友からだった。
あたしは行くかどうか迷ったけれど、その日はまだ予定が入ってないし入れる予定もないから行くことにした。
当日、あたしは出来る限りの正装をしていった。清楚な化粧、シンプルな真っ白のワンピース、真っ白なハイヒール。あまりにつまんない格好だったから何か違うものを着ようかとも思ったけどやめた。考えるのが面倒だった。

式場は小綺麗な教会だった。式は順調に進んで、眠たくなるくらいだった。花嫁入場のとき、あたしの親友はびっくりするぐらい綺麗になっていた。
「――を誓いますか?」
神父さんの声が静まり返った教会の中に広がる。
「はい」
彼女が透き通った声で答えると、神父さんは二人に向き直った。
「それでは、誓いのキスを」
新婦のベールを捲りながら、ウルキオラがふとこっちに目を向けた。

あ。



目が合って、数秒間固まってしまった。恐ろしく清謐な時間で、とても長く感じた。
そうしてウルキオラはベールを捲って彼女に顔を近付ける。
やめて!
そう叫びそうになって、あたしは口をパチンと両手で押さえた。
何でだろう、何でウルキオラが彼女とキスをするのが嫌なんだろう。別にいいじゃない、もうあたしとウルキオラはただの知り合い程度なんだし。そう慰めても、あたしの感情は乱れたままだった。

そのあとに、今度は披露宴があって、二人がケーキ入刀したそのケーキが振る舞われた。何だか味がよくわからなかった。
披露宴は立食で、皆自由に動き回っていた。
「名前!」
新婦が駆け寄ってくる。
「来てくれてありがとう。あんた私を差し置いて目立ちすぎなのよ、スッゴイ綺麗なんだもん」
「はいはい、ありがと。今日のあんたも相当可愛いから」
世間話をして、だけど彼女は今日の主役だからいろんな人に話しかけられる。あたしがずっと独り占めってわけにもいかなくて、あたしはまた一人になった。
あたしは無意識に、彼を探す。――いた。一人だけどこか違う世界にいるみたいに、すぐに見つけられる。
「おめでとう」
近寄っていって挨拶をする。何を話そうとうわけでもなかったので言葉に詰まってしまう。
「アー…」
「さっき、目が合っただろう」
彼が口を開いた。ああ、そう、彼はこんな声だった。あたしをかき乱す、低くて清らかな声。
「その時、俺は、……」
ウルキオラは躊躇った。
「あたし、あの子にキスしてほしくない、あたしにキスしてほしいって思ったの」
躊躇った彼の代わりに、あたしの口が喋っていた。何いってるんだ、あたし。
ウルキオラは驚いた素振りを見せた。そりゃそうだよね。
そして彼は、静かにあたしの頬をなぜた。
「俺たちが一緒にいたのは、随分昔だな」
私の頬を生暖かい涙がつたった。
「そうね」
ウルキオラはあたしに、触れるだけのキスをした。まるでそうするのが自然だとでもいうかのように。
「ウルキオラ」
あたしも何故か、妙に落ち着いていた。
「あたしがもう少し大人だったら、新婦になったのは違う人だったかもね」
ウルキオラはふんと鼻で笑った。
「もう会わないのか」
ウルキオラとあたしと彼女とで?そんなんあたしが爆発しちゃうに決まってるでしょ。
「そのつもり」
「…そうか」
今までずっとあたしの頬をなぜていた彼の手が離れて行く。
「バイバイ」
あたしは微笑んで小さく手を振った。
「ありがとね」
ようやく、これから出発できそうだから。
ありがとう、ウルキオラ。



---Thank You!---
お題はguilty様より