novel | ナノ



余った分でいいよ
 
あ、生徒会長。
「ちゃーす、先輩」
放課後の騒がしい教室から出ると、ちょうど生徒会室に行くところなのか、目の前を会長が通ったから挨拶をすると、会釈を返してくれた。
よかった、この階に生徒会室があって。運が良ければ1週間会わない日はないときもある。
今日も、かっこいいです。胸の内で、こっそり囁く。
真っ黒でサラサラな髪と、それと対照的な真っ白い肌も、夏の青々とした若葉のような色をした目も。全部全部かっこいいと思う。

「ウルキオラー!」
ずだだだだだだ!と効果音を口で叫びながら、女の先輩が走ってきた。そのまま会長に抱きつこうとしたらしかったが、見事に交わされていた。
「うわあん!なんで避けるのー」
ぶーとむくれた先輩に、会長は呆れたように言った。
「懲りないな、名前」
「えへへー、ウルキオラが見えたから走ってきた!」
名前先輩はけらけらと笑って言った。そんな先輩に、会長は行くぞと声をかけてすたすたと歩いていってしまう。
「待てコラ」名前先輩もそれを追いかける。
短いスカートが風に吹かれて、真っ白な腿が見えた。

ウルキオラ先輩は名前先輩と付き合ってる。ウルキオラ先輩が選挙に立候補したときから、校内には噂話としてその話が広まった。噂、というかほんとのことらしい。あたしは直接二人に聞いたことないから知らないけれど。
その話を聞いたとき、あたしはショックだった。あたし、ずっと好きだったのに。ずっとって言っても半年くらいだけど。
きっかけは、4月に花粉症でずびずびだから保健室に行ったとき。その日は家にマスクを忘れてちゃって、しかも次が数学だからめんどくさいし、保健室で寝ようと思って行くと、先輩が一人いた。それがウルキオラ先輩だった。
せんせー花粉症で辛いから寝かしてくださいーと言ったら、ベッドが3つ全部空いてたから寝かしてもらえることになった。やったラッキー、と思ってると、見知らぬ先輩(しつこいけど、ウルキオラ先輩のこと)が、マスクと箱ティッシュを差し出してくれた。
「ありがとう、ございます」
びっくりしてそう言うと、先輩は無表情のままうなずいた。先輩もマスクをしていて目も涙目で、きっとこの人も花粉症なんだと親近感を覚えた。
それからあたしは、先輩に会うと挨拶をする程度の仲になった。そうして、あたしの中の恋心は目覚めた。

あたしも、ずっと好きだったもん。
あたしは名前先輩の真っ白な腿に呟く。
名前先輩は、きっとすごくウルキオラ先輩に愛されてるんだろうな。一途そうだし。羨ましい。
あたし、汚いな。どす黒い感情が胸の中でのたうち回ってる。あたし名前先輩に嫉妬してる。嫌な子。

あーあとため息をもらす。せめて、せめて名前先輩に向ける以外の感情をあたしに向けてほしい。余ったのだけでいい、全部受け止めるから。どうしたってきっと叶わないだろうから、だから先輩、せめてもの後輩の願いを聞いてください。


---Thank You!---
お題はguilty様より