novel | ナノ



衛生的な吐息に沈む
 
ふう、と真子の吐き出した煙草の煙が宙でゆらめく。
煙草を吸ってるときの、手と指が好き。なんだか、キスしてるときの真子とは違う艶っぽさ。好きだなあ、と胸の中で反芻する。声に出して言うと調子乗るから。
つんと煙草の匂いが鼻をつく。いいにおい。きっと、それは真子が煙草を吸うから。その辺のジジイが吸ってる煙草は汚いし臭くて臭くて仕方がないと思う。

真子からピントを外して、代わりに背景だった窓の外にピントを合わせる。今日も快晴。雲ひとつない、綺麗な青空。ああ、幸せ。口の中で呟く。つかの間の幸せって、こういうこと言うんだろうな。頭の中は、透き通るような空色。
「…真子」
こらえきれなくて、真子を呼ぶ。
「ん」
「あたしねえ、なんだかとっても幸せ。窓の外は快晴だし、あともう少しで春でしょ、それに隣には真子がいる。藍染なんて、今だけは忘れちゃうくらい。何もかも、全て上手くいってるような錯覚に陥るくらい」
それを聞いて、真子は鼻で笑った。失礼な。
「アホか、俺は名前とおるときいっつもそんなんや」
「ダメじゃん。みんなと練習してるときもそーゆーんじゃ強くなれないじゃん」
半分照れ隠し。真子の言葉、めちゃめちゃ嬉しかった。
「ええんや、二人おるから」
「は?」
イミワカンネ。
「名前のことめっちゃ好きで幸せな俺と、藍染がうざったくて憎たらしゅーてかなわん俺と二人おるから」
「ふうん」
なんだかわかるようなわかんないような。それで大丈夫ならいいんだけど。

真子はまた煙草をふかした。白い煙は揺らめいて昇って消えてゆく。
やっぱり煙草の匂いは好きだと思った。幸せを肺腑まで吸い込んで、あたしは目を閉じた。

太陽と、春と、青空とそれから煙草の匂い。



---Thank You!---
お題はguilty様より