novel | ナノ



とけて消えちゃわないで
 
早く帰ってこないかなあって、暖房の効いた部屋で一人、ソファで足をぶらぶらさせる。
誰が帰ってくるの待ってるかってゆうと、一緒に住んでるウルキオラ。
あたしがチョコ食べたい!って朝からずっと言ってたら、さっきお昼食べてちょっと休んだあとに、コンビニ行ってくるって出てった。
優しいよねえ。
普段は冷たいけど、でもなんだかんだ言って優しい。
要するにツンデレってことだね!

そう、ウルキオラが出掛けちゃってるからあたしは今すごく暇。
ついてけばよかったなあ。
外寒いからやだーって行かなかったけど。
あーあ、ってあたしは横に倒れる。
ソファはぼすんって沈んで、あたしを受け止めた。
あーあ、つまんないの!
早く帰ってきてよ、ウルキオラ!!

ぷーっと頬を膨らましたとき、玄関を開ける音がした。
「おかえり!ウルキオラ」
玄関まですっ飛んでって抱きついた。
「…ただいま」
彼の腕がそっとあたしを包んで背中をぽんぽんってした。

リビングで買ってきてもらったものを物色してると、あたしの頼んだチョコの他に、アイスとグミが入っていた。
「果汁グミじゃん、どーしたの?」
「名前が前言ってたから」
なんか言ったっけあたし?
首をかしげるあたしにウルキオラは付け足した。
「この前果汁グミが好きなんだとベランダで叫んでた」
あー!
夜にベランダで好きなものを叫ぶってゆうなんか意味わかんない企画をグリムジョーたちとやったときだ!
でもよくそんなん覚えてるなあ。
あれやったの去年の夏ごろであたしも覚えてないぐらいなのに。
「ありがと!」
顔中で笑って言ったらふんってそっぽ向いた。
照れ隠しってばればれだからね言っとくけど!
「このアイスは?」
「俺のだ」
ふーん、ウルキオラってアイスとか食べるんだあ。

あたしアイスって苦手なんだよね。
口にいれたらすぐ溶けちゃって無くなっちゃうじゃん。
けどその点、グミはちゃんと口のなかに入れても残ってるからいい。
だからすき。

てゆうかなんか…ウルキオラがアイス食べたら、同化しちゃって消えちゃいそう。
あたしの目の前から。
したら悲しいし辛くて辛くて死んじゃうかも。


「…だめだよ」

アイスの蓋を開けようとしていたウルキオラの腕をそっと止める。
「アイスは、だめなの。代わりにあたしのグミあげるから、ね?
お願い、アイスは食べないで」
なんで、と彼の唇が動いた。
「アイス食べたら、ウルキオラ同化しちゃいそうなんだもん。だめだよ、だめだめだめ。あたしの前から消えないで頂戴」
幼児のように、駄々っ子のように頭を振って言う。

そしたら、ウルキオラがちょいちょいって手招きをした。
あたしが椅子を立って彼の方へ向かうと、彼は膝の上にあたしを座らせた。
そうしてあたしと目を合わせて言った。
「俺が目に見えるものしか信じないのは知ってるだろう。だから、この先必ずお前と一緒に居るなんて約束はできない。
だが、今お前の目の前に居るのは誰だ?その目を見開いてよく見てみろ、俺しかいないだろう?
今、この一瞬で目の前に居る、その存在がすぐに消えるわけがない。
その目でよく見ろ、確かめてみろ」

そう、強く強く言った。
彼の細い指はあたしの腕を千切るんじゃないかってぐらい強く握ってて、あたしは申し訳なく思った。
そして、すごく嬉しく思った。

「……うん、あたしの目の前に居るのはウルキオラ。他の誰でもなくて。

ありがとう、ほんとありがとう」

あたしがそう言うと、ウルキオラは珍しいことに、ぎこちなくちょっと微笑んだ。
ああ、これが幸せか、って気付いた。
太陽でもなくて、熱々のココアでもなくて、暖かい真冬の布団でもない。
この人が、あたしの幸せそのものなんだ。


ウルキオラ、あたしの大切な人。
幸せって何かを教えてくれた人。
あたしとウルキオラの存在を確かなものだといってくれた人。

あたしの、大好きな大好きな、愛しい人。

---Thank You!---
半年ぶりぐらいに更新。
アイスは〜のくだり、マスクたん様ありがとうございました。遅くなってごめんなさい。