貴方の全部も私の全部もただ痛い

身体を起こそうとしたところで違和感に気付く。腹が、痛い…重い、痛い、手足が冷たい、そして寒い でも暑い。これは、まさか。
確認しない事には本当にそうだとは限らないから…と重い体を引き摺ってトイレまで這うようにして向かう。いや、でももうこの身体のだるさ100%そう。熱が籠るみたいな感覚もそうだし、下腹部いってえし、重てえし、出せるなら出させて欲しいこの感じ。下着を下ろした瞬間に大きな溜め息が出た。…ハイハイ、今月の生理ね。それだとわかった瞬間また身体がだるくなった気がした。はあ〜〜〜毎月毎月毎月毎月誰の許可を得て私の体内から血を流してくれているんだろうか。受け入れられない、永遠に受け入れられない。下着に多い日用のナプキンをべったり貼り付けてはまた這うようにしてベッドへ帰る。途中コップへ水を注いだ。それをサイドのテーブルへ置く。もう今日は勘弁してくれ。神よ。もう、もう今日と明日だけはここから動かないことをお許しください。幸いずっと休みだ ラッキー。休みを無駄にしてしまうのは心苦しいがまぁずっと休みなんだけど言ってる場合ではない為傍らの引き出しから痛み止めを取り出し口に入れるのと同時に水でそれを流し込んだ。効きますように。飲み込んでからはもうさっさと布団の中へ潜り込みただただ丸くなった。ダンゴムシである。この世に痛いことのひとつやふたつやみっつやよっつやあるが、これは本当に3本指に入るくらいの痛みである 個人差があると聞いたときはナメやがって!!!!!!!!!と暴れ回りたくなったものである。私のこの毎月の痛みを決めているやつがいるなら どうか今ここにきて前に座ってもらいたい。一思いにお前を殺してやるという思いでいっぱいだ。体内で捻じ切れるんではないかというほどの痛み、下腹部の重さ、身体のだるさ、訳もわからずただただ冷たくなる手足、なのに布団を被れば大量の汗をかくほど暑くて、もう、何だ?更年期なのか私は?今こうやって色々考えているが口からはずっと「痛い」という単語が出続けている。いたい、本当に痛い。今日はもう何もかも本当に無理である。布団を頭まで被り、ふと時計を見た。まだ6時やんけ!!!!何時に起こしてくれてるんだ 休みだと言うのに。そういえば、と一緒に住んでいる人のことを思い出した。まだ帰ってきてないということは遊びに行っているか任務か任務か任務だろう。多分任務だ。もうこの際遊びに行っていてくれてもいいや、もうそんな事より私は己の腹の痛みを優先する。痛い、痛いんだ。あ、と自分のスマホの存在の事を思い出して手に取り微睡む意識の中で確認したらメッセージが入っていて『悟』の文字が表示されていた。開けば「任務で遅くなるけど朝の8時には帰るからね」と記されていた。8時かー、あと2時間か。それに対して「了解」とスタンプを送ってスマホを置いた。いてえ!!!!腹が痛え!!!寝よう もうすぐしたら薬も効くはずだ。頼む効いてくれ。2時間後には元気になっていますように。そういえばベッド汚れてないかな。そんなのを確認する元気はもうなかった 気付けば意識は落ちていた。






「◎ー!たっだいまー!」
「……、悟。おかえり」

ふと愛しい声が聞こえたので意識が覚醒した。どんな目覚まし時計より有能だよね 一応身を起こそうと試みたけど痛すぎて無理だったので諦めた。布団の中から見上げるだけの私の顔を覗き込むようにして首を傾げた悟が目隠しを少しずらしてその蒼い瞳を覗かせた。ううん、顔が良い。

「どうしたの、顔面蒼白だよ。体調悪そうだね?…もしかしなくても生理?」
「そうです……、ご飯は?食べた?」
「ああ。いいよいいよ。寝ときなよ。自分でできるからさ。痛いんだろ?覇気がないもん。ってか毎月死にそうな顔してるし。」
「いてえ、重てえ、寒い、暑い、身体のバグ感やべえ…ぐう」
「僕のことより◎は?もうすぐお昼だけどご飯食べた?」
「えっ…もうそんな時間?出迎えもしなくてごめんね…ご飯はいいかな、食欲がないです。」
「いいってば。じゃあ寝てな。一緒に寝てあげようか?」
「隣で痛みに対してぶちギレててもいいなら」
「あはは、毎回だから気にならなくなったよ」
「流石ぁ。」

言いながら悟の頬へ手を伸ばした。きめ細かいしっとりした肌しやがって羨ましい。顔の整い方が最早肖像画なんだよね。人間ってこんなに綺麗な人間作れたんだー!って感想しか出てこない。顔ばっかり褒めてたらまるで顔が好きみたいになっちゃうけど。でも本人も顔が良いこと理解してるし。だから尚のこと、どうして私の事が好きなのか分からないし、本当に私の事が好きなのかって不安になるけど、聞いたところで疑ったところで全部無意味だし、全部嘘だったってわかった日には私が出て行くだけだからまぁいっか。みたいなとこがある。私なんて平々凡々の普通のその辺にいる女の人とあんまり変わらないし、敢えて自分のいいところを上げるとするなら、するなら。…手足が少し長い。(当社比)くらいしか出てこない。まぁでも、いっか。一緒に居てくれるならそれでいい。
布団の粽みたいになって寝ている私の隣で部屋着の悟が寝転がっている。こちらに向けて出された手のひらの上に自分の手のひらを重ねた。大きなしっかりした男の人の手、なのに綺麗な指。今は目隠しも取ってオフの悟なんだなぁ。えー、めっちゃ綺麗じゃーんなにー?悟見てるだけで生理痛も引くってもんよ。ごめんそれは嘘。痛いもんは痛いよ。何かもう突然痛みが来た。握る手に力を込める。ちらりとこちらを見た蒼い瞳と視線が合う。眉を寄せて居れば「痛い?」と声を掛けられたので何度か頷いて枕に顔を埋めた。厄介この上なく。悟の指が白くなる程に握る。暖かい、人肌の手。これがなきゃ私は一体何に縋ってこの痛みに耐えて居たんだろう。そもそも、縋るものもあったのかどうかも怪しい。悟が身体ごとこっちを向いた気配を感じた。少し顔を上げればもう片方の手が伸びてきている最中だった、その手は私の頭へ触れる。

「そんな顔しないでくれない?」
「そんなに酷い顔してますか?」
「痛くて仕方ないって顔してるよ」
「痛くて仕方ないからね」
「見てるとどうにかしたくなる」
「…………大人しくさせててくれない?」
「ふは、隣にいてそれは難しいだろ」
「難しかないよ、そこで痛みに悶える私を眺めてればいいだけじゃない」
「そういう訳にもいかないよ。据え膳って知ってる?」
「いやいい、今はいい。今はいい!無理無理無理、来たとこ!血みどろ!ダメだって!あ゛ー!やだぁー!ちょ、ちか、近っ」

身を起こした悟が微笑んだ。嫌な笑顔浮かべやがる。何だかんだと抵抗する私の身体なんか簡単にひっくり返されてすっかり跨られてしまった、ダメだっつってんじゃん。余りにも近すぎる顔を手で遮った。綺麗すぎる顔は最早目に毒だ。どうにかして逃げようと身を捩るも器用に押さえ付けられる。扱い慣れすぎてない?と複雑な気持ちが込み上げてくる。そりゃあこんだけ顔が整ってりゃあね。伸びてくる手を自分の手で払い退けるも大きい手が私の手首を一纏めにした。サイズの違いがここにも響く。己の無力さを直に感じる。ちょっと悔しくて唇を噛んだ。

「悔しそうにしてくれるじゃない」
「あと何回そうやって私の心を折ってくれるんだろうね」
「何回でも折ってやるよ。君は僕のものだからね」
「拾われた身は強く言い返せないんだよ、分かってやってるね。」

頬に触れる手に目を細めた。所詮拾われた身、何かを強く言えるわけではない。与えられるものを只々享受するしかないんだ。居住も、愛も。私ひとりでは生きていけない、もう二度とひとりで外に出ることは許されないんだろうなと言うのは随分前に気付いて、受け入れた。ここで飼い殺されるのも、悪くないってどっかで思ったんだ。
右脚を動かしたときに響いた鎖の音は聞こえない振りをした。私が玄関に近付けるのは精々扉から3メートルは離れている。そんな事しなくてももう逃げないよ。そう言ってもまだ伝わらないから、纏められた手を振りほどいて両頬に手を添えた。

「逃げないよ、信じてよ」
「まだ無理だよ。ごめんね。」

笑顔が痛い。そっか、呟いた声はどんな風に届いたんだろう。瞳を細めた隙間から覗く蒼はどんな気持ちで居るんだろう。不甲斐なくてごめんね、首に腕を回して抱き締めた。今お腹が痛いのは、生理痛なのかそれとも私の罪悪感なのか、どっちか分からないけれど、ただ置いていかないでねって縋るしかできなかった。「当たり前だよ」って抱き締め返してくれた腕が触れるところも痛い気がした。



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