大好きだと言い続けるくせにいやに聞き分けがいい。毎日うっとうしいほど後をついてくるくせにいざとなると一人で問題を解決しようとする。気ばかり遣って自分は決して見せないのだ、あの女は。
あんな女は、絶対にごめんだ。
「……っ、!」
また一人で泣いている。おそらく俺が声を掛ければ(いや、物音のひとつでも起てれば)直ぐに何時も通りの笑顔を装ってまた下らないバカでもやるんだろう。
(…………、)
一目では分からない程度に肩を震わせて泣き続けるその後ろ姿をしばらく見つめた。
「………おい、」
「…っ!、マル、コ隊長、」
どうしたんですか?なんて笑い掛けてくるなまえは一歩ずれて暗い影の方へ。然り気無いが故意だ。泣いた顔を隠そうとしている。宵闇の中で船室から漏れる明かり以外にその顔を晒そうとするものはない。
俺はその影へと足を運んだ。
「どこまでもふてぶてしい女だよい」
びくっとなまえがほんの少し動揺したのがわかった。
追い討ちをかけるようにまた一歩進んで強引に腕を掴み、明かりの届く船縁に引き出した。
「やっ…!」
しまったという顔を一瞬だけ見せて、すぐになまえは俯く。ちっと舌打ちすればまたなまえはびくっと体を硬直させた。
「お前よい…好き好き言うわりには随分と冷てェじゃねえか。俺のことばかにしてんのかよい?」
「ち、ちが…!」
顔を上げたなまえの目は赤く腫れて、潤み、揺れている。
(はっ、)
よっぽど欲情的じゃねえかよい。
「てめェの手の内も晒さねェで…人の手の内は知れねェだろうよい」
冷たく言い放つと同時になまえの目からぽろりと涙がこぼれた。それは止めどなくぼろぼろと落ち続ける。
そうだ、それでいい。
そのお前なら愛してやる。
泣き落としなら落ちてあげる
(だから君は優しさに落ちろよ)
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