短編 | ナノ

 1

失恋をした。



自分で終わりを告げたので、この言葉では正確には伝わらないかもしれない。けれど、どんな形であれ俺は恋を失った。だからこう言わざるをえない。「俺は失恋をした」。




3年ぶりの失恋になる。前回の失恋も同じ相手で、そのときは俺がフラれたほうだった。「お前にはもっとふさわしいやつがいる」と言われて、泣いて縋ってそれでも駄目で、諦めたフリをしてずっと機会をうかがっていた。

俺の作戦は成功して、そのひとつき後、彼は戻ってきてくれたのだった。




でも今考えると、あのとき終わらせておいたほうがよかったのかもしれない。




それからしばらくは幸せだった。俺はずっと知らなかった。知らなかったから、俺たちの近い将来を、そして遠い未来を信じて疑わなかった。

たぶん、俺は追いつめていた。知らず知らずのうちに。…というフリをして、実際はどこかで追いつめていることを知っていた。

そして彼は、俺が思っている以上に追いつめられていたのだろう。だから彼が"休憩"のように他の人と交わっていたのは、半分以上俺のせいだ。




それでも。どんな状況であれ、2人なら乗り越えられると思っていた。愛し合う2人なら、頑張れるのだと思っていた。





俺は甘かった。





問題は、彼の浮気そのものではなかった。

障害は、浮気それ自体ではなくて、それを抱える2人の精神状態だった。

俺は知らず知らず感情の起伏が激くなったし、彼は彼で、俺が忙しいときにそれを責めるようになった。自分のことは棚にあげて。

そんなとき俺は、「どうしてこんなに我慢している自分が責められなくてはいけないんだろう」と思った。



その歪な状態が、徐々に俺たちを遠くしていて、それに気がついたときには、すでに取り返しのつかないところまできていた。



一緒になるというのはきっと対等になることで、俺たちは対等ではなかった。俺たちの関係は終わった。



誰かと生きていくことに、夢を持ったことはなかった。両親や親戚、しあわせな結婚をしている人を見たことがなかったから、誰かとずっと一緒にいたいと思ったことはなかった。

彼に出会って、俺はこの人としあわせになるのだと思った。夢見てしまった。


でも、それは現実の延長にあるべきだった。

夢ではなかった。

現実のものとして、
彼との未来を思い描かなくてはいけなかった。




失恋は、夢のおわり。

別れ話のとき、彼は言った。「この前ふと、猫を飼うのもわるくないなって思ったんだよ」。

俺は昔から猫を飼うのが夢で、一方彼は犬が好きだった。でも少しずつ、猫のほうにも気持ちが寄ってきていたことを俺は知っていた。

だからその言葉は俺を引き留めるためのもので、けれどそれでもきっと、「猫を飼うのもわるくない」と思ったのは事実で、本心なのだと思う。



それを聞いて、俺はさらに泣いた。「今のは全部なし」、そう言ってしまいたかった。やっぱり2人で頑張ろう、と言ってしまおうかと思った。彼と叶えたい夢がたくさんたくさんあった。

それでもぐ、と我慢して、俺は関係を終わらせた。



猫を飼おうね、静かな街で暮らそうね、記念日は初デートの場所に行こう、ずっと名前で呼びあおうね、ずっと一緒に寝ようね、

そういう小さな夢たちが、ひとつひとつ消えていく。これが失恋。叶わない夢。



俺はきのう、失恋しました。



おわり

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