にせものamabile。 | ナノ

 G-dur 11

「歩ー!!」
「はいはーい!いま行くー!」


歩先ぱいは他のグループに呼ばれて行ってしまった。しかもどさくさにまぎれておなか触られたんですけど!「へへへへんたい!」と言ったら歩先ぱいに「それ、褒め言葉」とウインクされた。なんなんでしょーかあの方は…。スキンシップが激しい!


歩先ぱいがいなくなると、双子の先輩が僕の両脇に座った。蒼(あお)さんと翠(みどり)さん。髪型以外はそっくり。ハーフなのか、色素がうすくて彫りが深い美人さん。透き通るような栗色の髪にこげ茶の目がとても似合っている。


「ねえ匠ちゃん、真中雪ってどんな子?」
「え、雪ちゃん、ですか…?僕クラスもちがくてよく知らないのですー」
「そっか、残念。あの子、親衛隊にいれようと思ったんだけど失敗したんだよね」
「失敗…?」
「歩がスカウトしたら、逃げられたんだって。園田会長の親衛隊、って言ったときにかなり警戒して話も聞かずに走り出したって」
「…」
「ふつうに断ってくれればいいのにね、逃げるなんてちょっとアヤシイよ。ねー」


ー 外から逃げてきただけだもの。


雪ちゃんは、一体何から逃げてきたんだろう。「外」のなにがこわいんだろう。


「しかも最近、姫とか呼ばれ始めちゃったらしくて、ねー」
「ちょっと要注意人物かも!」

蒼先ぱいと翠先ぱいはそう言ったあと、匠ちゃんもそう思うでしょう?とそれぞれ僕の両腕にくっついた。その顔はやっぱりそっくりで、僕はあいまいにそうですねえとしか言えなかった。





「匠ちゃん?お茶会終わったら待っててって言ったでしょう」
「う、歩先ぱい…」
「ほら、行くよ」


解散のあと、寮まで一緒に帰ろうと少し先を歩く潤ちゃんのほうへ走り出したところを、歩先ぱいに呼び止められた。
待ってて、なんて言われなかった気がするし、そもそもあれって冗談なんじゃなかったの?と思いつつ、言い返せるわけもなく先ぱいについていく。


「なんで恋人つなぎ…?」
「あは、ダメ?」
「ダメとかじゃないですけどお…」
「じゃあいいでしょ、はいここ僕の部屋」


1年生の寮とは棟がちがって、だけど中のつくりは僕たちの棟とおんなじみたいだった。目だけ動かしてぐるっと見回すと、意外ときれいでびっくり。というか、必要最低限の物しかない部屋って感じ。


「意外…」
「もっと汚いと思った?」
「思いましたあ」
「あは、素直な子だねえ、かわいいから許すけど」
「ドウモ…」


歩先ぱいは僕をソファに座らせて、ちょっと待っててねと部屋を出て行った。戻ってきたときには、きれいな色のボトルをふたつ持っていた。


「シャンプーとトリートメント?」
「そう!これね、知り合いがサロン経営してるんだけど、わざわざ外国から取り寄せてるらしくてすごいおすすめされたの。かなりさらさらになるから使ってみて?」
「えっ、そんな、悪いですよう、」
「まだまだたくさんあるの、だから試してみてよ。知り合いにも、感想教えてあげたいし」
「それなら…ありがとうございます。今度、何かお礼させてくださいねえ?」

とは言っても、たぶんお金持ちであろう先ぱいにあげられるものなんて何にもない気がするけれど。



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