アッファナート





  「なんでアクマを庇いやがった!」

  からっぽのマテールに神田は吠えた―――
  まるで脳内から研ぎ殺されるような錯覚、

  案内役にティム・キャンピーを伴う長い長あい(憂欝な)地下探検を終え、
  迷路のような地下通路を抜けたことを示す眩いひかりをみたと思ったら、
  アレンは顔色を変えてまるで音速レベルでひかりへと飛び出して行った。

  そして数秒前でも無くたった今。
  彼そっくりのアクマは彼のイノセンスに守られている


  「僕にはアクマを見分けられる目があるんです―――」

  この人はアクマじゃない、そうしずかに言った。
  ならば彼そっくりの其れはだれ、



  「―、トマ!?」

  其れはアレンの皮を被ったトマだった―――――!
  これですべてのピースが繋がった。

  神田の傍にいるトマは、



  「そっちのトマがアクマだ神田!」



  アレンが叫び終えるより先に、トマの皮を被ったアクマが神田を壁に叩きつけた。
  地下通路に溢れ返る狂喜の波、絶望の呼吸音

  「神田!」

  主を見失った彼の愛刀―――六幻が漆黒を取り戻していく。
  わたしはヴェロニカを背中から降ろして走り出した。
  此処で死ぬ訳にはいかない―――ねえそうでしょう、神田。

  鼓膜を叩き破るような狂った残響と兵器の嘲笑うこえ。

  ヴェロニカの刃でめのまえの壁を叩くと、其処には青白いひかりのサークルが音も無く浮き上がる。
  これは溢れ返る哀しい兵器たちの悲鳴を砕く為のわたしの足枷。
  わたしは足元にヴェロニカの刃を突き立てた。ひかりが弾ける、





  閃光





  ひかりのサークルは狂ったように壁を抉りながらアクマの躰を噛み砕いた。
  足元に深紅の海を造っている神田の一歩手前まで、濃く歯型が残っている。
  


  「神田!」



  真っ黒なコートを侵食しつつ在る色に一瞬心臓が止まるような錯覚に襲われる、
  けれど耳元で苦しそうな呼吸が浅く聴こえて、わたしはアレンと顔を見合せた。
  彼はいきてる



  






  ・
  ・
  ・










  「痛っ」



  ジクジクと躰の中から喰いちぎられるような痛みに顔を顰めると、
  隣で神田の肩を持って歩いているリディのひとみが不安に揺れた。

  「だいじょうぶ、アレン」

  「僕は大丈夫、リディ―それより君はどこか怪我をしていませんか」

  「……わたしはへいき、それよりも神田とトマが」

  「ウォーカー殿…私は置いていってください―あなたもケガを負っているのでしょう…」

  「なんてこと無いですよ!」

  トマがちいさなこえで呟いた―呼吸音はぞっとする程にしずかで切れ切れ。
  誰かひとりでも置いていくつもりは最初から無かった―――
  神田も、トマも、リディも。全員でホームに還るから

  

  「…?」

  「リディ?」

  ふいにリディが歩みを止めた。

  ぱちぱちと長い睫毛が瞬いて、次いでちいさなくちびるがゆるやかに動いて―――
  「うたがきこえる」、そう言ったように思えた。
  そして僕が耳を澄ますまでも無く、其れは鼓膜を伝って脳内に溢れた。
  ゆるやかに、それでいて軽やかに唄われる、





  「聴こえる…、」

  僕とリディはまるでそのうたごえに惹きつけられるように、
  より深く其の旋律へと吸い込まれていった

  行き先はわからないけれど















  20120220
  20120429 加筆修正