「なまえ」

  微睡に堕ちかけていた目蓋はだれかがわたしのなまえを呼ぶこえに瞬いた。
  ゆったりと時間をかけて眩しい視界が開けてゆく。
  めのまえには呆れた様に、其れでいて愉しげにわらう幼馴染の顔が在った。

  ペダルに右足をかけて自転車を停めた幼馴染の肩越しには、
  高校の傍のコンビニの看板の文字が窮屈そうに並んでいる。

  あくびがひとつこぼれた。

  「お前また寝てたろ」

  しらんぷりをしたらぱちんとゆびさきでおでこを弾かれた。
  こういうときだけ冗談が通じないふりをするのは意地悪だ。
  そうしてわたしの幼馴染は何時ものおきまりの台詞を説く

  「走ってる最中に寝んのはあぶねーからやめろ、
   理解ったら寝んのは学校にしろ馬鹿なまえ」

  「……はあい」

  こんな空返事に意味がないこと位彼は理解ってる筈だし、
  怒られたってきまぐれに頷くだけのわたしも随分なもの。

  幼馴染はまっしろのワイシャツから覗く鎖骨にすこし汗をかいていて、
  あっちいな、そう忌忌しげに溢してから自転車のサドルに跨り直した。



  「落ちンなよ」



  いつだってそれが合図。

  早朝の空気が肺を満たしていく感覚を感じたのと殆ど同時に、
  " 特等席 " にわたしを乗せた自転車は泳ぐように風を裂いた。



  「ねえ元希」

  「んだよ」

  「ありがとう」



  返事なんていらない、から。
  其れくらい彼は理解ってる。

  おおきな背中に頬を寄せてみる。
  もういちどめを閉じたのとおんなじタイミングで「寝んなよ」なんて彼が言うから、
  わたしは早朝だという事も忘れておおきなこえでわらった(彼もつられてわらった)。





  ( ねえ元希 きみはしってる? )

  ほら こんなにも青がちかい




















  20120520

  微妙な距離感を目指した………つもりです(白目)